僕らのカイソウ記

亖緒@4Owasabi

第1幕 美玖と僕ともう一人

 幼馴染きみ――須賀谷すがや美玖みくと僕――佐久間さくま義彦よしひこに馴初めなんてない。いつの間にか隣に互いが居ただけ――だよね?




 二月ふたつき早生まれの美玖が先に寝返りして、隣で寝かされた僕を見つけた。その時美玖に一撃もらい、僕が大泣きして美玖も泣いて――そんな出会いだと、親たちによく聞かされたね。その度恥ずかしかったけど、美玖はどうだった?


 成長も美玖が早くて、僕は格好の玩具だったね。遠慮なく僕の隅々までほくろを探したり。


『みっちゃんもぜんぶみていいよ』


 イヤで挑発したのに笑顔だから、僕も探さなけりゃならなくて。ちょっとは恥ずかしがってよ。でも二人で絡み合うこと遊びは増えたね。


 美玖の相手になるのは嬉しくて、他に誰かが加わるなんて思いもしなかったよ。だから美玖があっさり加えたときは驚いたんだ。



 僕らが入学した私立の小中高一貫の学校、そこで同級生だったのが佐賀美さがみ晴信はるのぶ君。美玖の親父おやじさんが経営してた町工場こうばに融資してた銀行の人の子供だったね。ハルと親しくなったのは工場こうばが経営危機を迎えた時だったな。


 僕の父さんも工場の営業部長だったけど――親父さんはセンスの塊で、一本のハンマーで金属を自在に操る凄い人だったな。小学校に上がる前はとても憧れたよ。


 その親父さんが指先を潰す事故を起こしたのは覚えてる?


 商品が完成しなくて納品できなくて、違約金という大きな支払いが必要になった。小一の三学期のことだったね。銀行から緊急融資があって何とか払い切ったと、父さんに聞いたよ。でも交換条件で、銀行の人を経営参加させも始めたよな。


 その銀行員がハルを連れてきて――相当内気なヤツだった。母さんがお菓子を出しても、なかなか手が出ないし。美玖がやんちゃ過ぎて、よくお菓子を奪い取ってたよな。初めこそ戸惑ってたけど、すぐにハルから差し出すようになってたよ。



 そして半年過ぎた頃、ハルとも打ち解けられたと思ったさ。でも壁が残ってる感じだったな。美玖には――犬のように懐いて美玖も満更じゃなくて。僕は面白くなかったよ。美玖はハルをどう思ってたの?


 美玖との触れ合いが減って楽しくなくて――僕は自己嫌悪してたな。でも美玖は気付いてもくれた。ハルが帰った後に僕を抱きすくめて慰めてくれたね。照れなんてない頃が懐かしいよ。



 ともかく三人でよく遊んだね。でも……工場の経営がどんどん傾いてるなんて思いもしなかったのさ……

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