第1夜 2024年 12月末 寒い夜の夢 2話目
私は期待されている。私は期待されている。
こんなにも仕事を頑張れる一言があるのか。
しかもおそらく一人しかいない、隊の上官から。
警察学校や自衛隊でよく見る光景に自分が参加する。目の前に上官が一人立っており、数十人の研修生達が運動場にきれいに整列する。辛い運動が続くが身体は嘘みたいに軽い。運動なんて何年ぶりだっけと思いつつ、汗1つかくことなく続ける。
上官の目が光っている。もっと見てほしい。だって私、期待されている。そんな上官との年の差は約10歳。その歳で上官、彼はかなりのやり手なのだろう。凄い、こんな人になりたい、そんな尊敬の念が溢れて止まらなくなる。
「辞め!」
号令が飛び、運動場にサイレンが響く。
始まった。何となく感じる。これは実践訓練の合図。
「ここからは気を引き締めていきなさい。『脱落』しないようにな」
「「「はい!」」」
どこに向かわなければならないのかわからない。でも身体は動く。走る。気がつけばそこは、薄暗く下水道のような臭いのする洞窟だった。
………
「これより実践訓練を行う。君たち仲間が着ている服は赤。それ以外の色の服を着ている奴は全員敵だ。捕らえてしまって良い」
上官から説明を聞く。物分りの悪い私は大まかに話を聞く。なるほどな、とりあえず赤い服以外のやつは全員敵、殺していいってわけだ。
きっと沢山殺せば上官に認めてもらえる…だろうか。あまり私ばかり前に出れば、鬱陶しい女と思われるかもしれない。認めてほしいアピールがバレてしまうかもしれない。
そうだ、あくまでチームプレイ、私達隊員全員の手柄となるように動こう。隠密行動の練習にもなる。
「それでは始め!」
上官の声が響く。見ていてください、でもバレたくない。そんな矛盾した2つの感情で揺れる。
身体が軽い。速く動ける。しかも静かに。
異様なコンテナを見つける。貨物列車が引いていくくらいの大きさのコンテナだ。周りには誰もいない。じっとりとした空間にポツンと、むしろ不自然だった。そろりとコンテナに耳をあてる。
ボソボソとした声が中から聞こえる。
もう無理だ、怖い、疲れた、とマイナス思考な発言ばかりが漏れて聞こえてくる。何だこいつら。
声としては6.7人か?一方私は一人。でも何の根拠もなく、私なら出来る、と感じた。そして誰も、見ていない。
バン!と大きな音を立ててコンテナの入り口を開ける。コンテナに入り口は1つ。そこを塞げば誰も逃げられない。
「恨まないでくださいね…これもチームの為なので」
腰元に刺さっている短剣を抜く。本当はサバイバル時に使うナイフなんだけど。使いようでは剣だよね、とか意味のわからないことを考えながら身体だけが動く。嬉しい。この命一つ一つがあの人のため。こんなに幸福な働き方があるだろうか。
近づきたい近づきたい近づきたい。
出世して少しでも近づきたい。
気付いた頃には、足元には7名の死体が転がっていた。
………
実践訓練の終わり。
一人の隊員が上官へ緊急事態を知らせにやって来る。
「上官!!あっちに生徒が…」
「7名、心肺停止です…斬りつけられています」
コンテナの中は真っ赤に染まり、死体が転がっている。実践訓練でこんな光景、上官ですら、見たことが無かった。
「…殺人か、まずいな。……少し考える。とりあえず生徒には知らせるな。内密に片付けろ」
「「はい」」
明日香にとって、何でもない1日が終わる。
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