レベル999万9999でも減少してくってマジなの!? 〜ゲーム転移? 知識無しモサ髪地味子ちゃんと、でっかい猫〜【短編版】

ヤナギメリア

第1話 チート地味子・ミーツ・おっきな猫

 地味ってよく思われてる。知ってる。


 髪くせっ毛でもっさもさだし、近くで見るとソバカスほんの少しあるし、眼鏡だってかけている。

 いっつも親友の夏恋カレンちゃんは、私のことかわいいかわいいって、猫可愛がりしてくれるけど。


 本当は分かってる。彼女だって、地味だって思ってる。てゆーか、よくお化粧したらって言ってくる。


 目立つの好きじゃないしなぁ。でも夏恋カレンちゃんなんでいっつも私の事すごい、強いって言ってくれるんだろう。


 よくわかんない。剣道有段者の夏恋カレンちゃんは、私よりずっと強いのに。

 そんな事を考えながら、お家に帰ってきて、届いた小包を開けて、なんか、一瞬頭がクラッと来て。


 気がつくと、私こと工宮静子くみやしずこは牢屋の中で、ぺたんと女の子座りで腰を下ろしていた。


「……………毛皮?」


 薄暗い。お尻が冷たい。鉄格子の向こう側には、埃が舞ってキラキラしている。牢屋?

 目の前には、何かの動物の毛皮が積まれている。


 なんか臭い。嗅いだ事ない匂い。

 意味が、分かんない。


「あっ、割れてる……」


 叔母さんから届けられていた手鏡が割れて、石畳の床に転がっている。


 おかしい。都内の高校から帰宅して、自分の部屋で小包を開けただけだったはず。いつの間に私、移動したんだろう。


「ニャ〜」


「わっ、おっきぃ……?」


 すわ誘拐かと思い、青ざめる一歩手前。アニョハセヨーと叫ぶか一瞬脳裏に浮かんだ直後。毛皮がむくっと起きた。


 大きい。猫だ。精悍な顔つきで、顎のたてがみかな? 編み込みされて、リボンで結ばれているのが可愛い。


 いや、虎? 虎なの? なんでここに? ちょっと怖いと後ずさる。猫は遠慮せず近づいてきた。


 ころんと。何かが転がる。指輪?


 推定猫は大きな瞳で期待するように、私を見つめている。なんとなくその眼差しが好ましくて、私は指輪に触れた。


「お、こっちの声が聞こえるか。乙女ちゃん?」


「えっ……誰? 誰か居るんですかぁー!!?」


 大声で呼びかけるけど、誰も答えてくれない。声はほとんど反響せず、薄暗い牢屋に響いた。


「オレだってオレ。こんなナリだが、イケネコだろ?」


「えっ……ネコさん?」


「名前はカサノヴァだ。お前さん外つ国の者か。なら持ち物が変化してないか?」


「持ち物……?」


 猫が、喋っている。ますます意味が分かんない。混乱するアタマで矢継ぎ早に私は説明した。彼は冷静に話を聞いてくれた。


「ん〜……取りあえず、悪いが人を呼び続けてくれねえか。オレの声その指輪に触れてないと、ただのネコの声に聞こえてしまうはずだ」


 言われた通り素直に、私は何度か呼びかけてみたけど、声は返ってきてくれない。次第にむせ始めたので、しかたなく少し時間を置くことにした。


「ネコさん……カサノヴァさんは、どうしてここに? それに道具が変化って?」


「外つ国から来るやつの持ち物は、変化してる事があるんだ。その眼鏡とか、どうだ?」


 私は眼鏡を外そうとして、手で触れてみた。

 なぜか見下ろす自分の身体に、数字がぼんやり浮かんで来た。


「何これ。レベル999万9999……? あ。ステータスてある?」


れべる 999万9999

しゅぞく 外つ国人


たいりょく 1669


こうげき 1666

ぼうぎょ 1666

まほこう 1666

まほぼう 1666

すばやさ 1666


しゅぞくボーナス 無し

主な装備品

秦代高校冬制服。(呼称未確定)。(呼称未確定)。

転移の手鏡(破損中)。


状態異常 レベル低下


「何これ……って、外つ国って何ですか?」


「異界の国の事だ。俺は勘違いされてな。縄編みの釣り上げ罠で、捕まったんだ。危うく見せ物小屋に……ッ!?」


「おっ……? きゃあッ!?」


 すっごい揺れてる。地震だ。

 急にカサノヴァさんが乗ってくるから、びっくりしちゃった。守ってくれたみたい。あ、ちょっとモフモフしてる。……声?


「GULLaaAAAAAAッ!!」「バリバリッ」「GEッGEッGEッ」「オオオォォォォオオ」「きゃあああぁぁぁあ!!?」「GYEeeEEEEッ!!」「バシュッ」「ドッガアァァァァンッ!!」「ズッ」「ガガガガガ」「ヒュルルルルル」「ヒュンッ」「いやぁッッ!!」


 え、なにこの声!? 遠くから咆哮やら悲鳴やら爆発音やら、その他の普段聞くわけもない音が響いている!?


 そして、それら全てを「音」だけで蹂躙してるみたいな……!


「GYAAAAAAAOOOOOOOOOUUUUUッッッ!!!」


 壁越しでも全身が吹き飛ぶような、ケタ違いにうるさい叫び声……!

 それになんか、ちょっとだけ焦げ臭い!?


「な、なに!? ゴ◯ラでも居るの!!?」


「バカなッ!? ここは仮にも人界だぞ!? なんで魔物の声が!!?」


「ま、魔物ぉ!!? ここどこなんですか!!?」


 質問に答えず彼は低く身構えると、全力で鉄格子に突撃した。錆びつき歪んだ鉄の檻は、彼の一撃でもびくともしなかった。


「説明は後だ!! この匂い、火が回ってる!! 乙女ちゃんもなんとかっ……!!」


「か、火事!? くっ……!!」


 怖い。変な声も怖いけど焼け死ぬなんて絶対イヤ。錆びついた鉄格子に両手を添える。根元は錆びついてるみたい。力いっぱい勢いよく引っ張れば、なんとかッ!!


「へ……?」


 ぐにゃりと、熱した飴細工でもいじるように。鉄格子はいとも簡単に曲がっちゃった。


「おおっ、力持ちだな!! よし逃げるぞついてこい!!!」


「え、は、は、はいぃい!!!」


 指輪を落とさないように嵌めて、薄暗い階段を駆け上がる。削られた石壁と、石畳の広い廊下を駆ける。扉が半開きになって、異音が響く向こう側。


「え……」


 目に飛び込んでくる、淀んだ黒と、鮮血の赤。

 思考も追いつけそうもない。とても比喩にできそうにない。

 地獄の戦場が、広がっていた。

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