第11話 鈴の音




「通せんぼしなくていいの?」

「一応別れの挨拶をしてくれたのに、邪魔をしたら律希りつきに嫌われてしまうからね。それに、右腕を手放しただんに敬意を称して、今暫くは、傍観に徹するさ」

「じゃあ。暖が天使と巨人と悪魔の力を完全に使えるようになる直前に邪魔をするの?」

「いいや。律希は自分から闇の世界に戻って来るからね。邪魔はしないさ。仮に天使と巨人と悪魔の手段が時間移動や記憶操作の類だとしても、私たちの考えが及ばないような手段でも、私たちの律希への独占欲が天使と巨人と悪魔如きに負けるはずがないだろう。だからただ、待っていよう。たった一人になってしまった律希がまた援助を求めるまで。いついつまでも。私たちには腐るほどに時間はあるから」

「ふふ。律希は知らないもんねえ。天使と巨人と悪魔の力を完全に使えるようになったら、暖の人格は消えちゃうって。偉大な力を使った常套結果ってやつ。あ~あ。かわいそ。律希。せっかく愛しのヒーローに会えたのにねえ。元の世界に戻ってもいいって思えるようになったのに、そう思わせてくれたヒーローが居ないんじゃあ。元の世界に居る意味がないもんねえ。闇の世界にすぐに戻ってくるねえ」

「そうだよ。だから、私たちは待つだけさ」

「しょうがないなあ。待っててあげよっか。ねえ。

「私たちは律希に甘いからなあ。ねえ、のゑ」




 くすくすくすくす。

 額と額を合わせては、鈴の音を転がすような笑い声を交わし合った木の実と卯のゑは、闇オークション会場から逃亡する律希と暖を目を細めて見下ろし続けるのであった。











(2024.1.2)



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