後編 星降る夜の奇跡

 上空をただよう『サンタクロース』の〝まゆ〟は、集まった二百名以上の〈異能者〉たちによる攻撃に小揺こゆるぎもしていなかった。

 そんな中、状況は〈異能者〉たちにとって、更に不利にかたむく。


「――『トナカイ』が出たぞぉっ!!」

「ツノを生やした少女だと!?」


 前線からそんな声がこえたかと思うと、反撃を受けたらしい〈異能者〉が吹き飛ばされて、冬の夜空を舞っていた。


「……『トナカイ』って何ですか?」

「『サンタクロース』の〝羽化うか〟を守るガーディアンだな。『サンタクロース』の一部だとされているが、独立して動き回る戦闘力の高い個体だ」


 〝羽化〟――即ち、『サンタクロース』が成体になることを意味する。


 才子さいこ和音かずねがそんな会話をしている間にも、頭の左右からトナカイの角を生やした美少女――『トナカイ』が、地上から上空の『サンタクロース』を取り囲むように配置された〈異能者〉たちをばったばったとなぎ倒していた。


「……『トナカイ』が人型だったら、『トナカイ』じゃなくないですか?」

「それは俺に言われても困る」


 『トナカイ』の姿は年ごとに微妙に異なっているそうで、今年はなぜかそのような形態だった。


 二人は早々に後方へ避難ひなんし、負傷者の救助と治療を手伝っていた。




「……もう動ける人がほとんど残ってないッスね」

「そうだな。日付も変わったか。――そろそろ潮時しおどきだな」


 才子と和音は、新宿中央公園の南側の外縁部付近から、赤いマーブル模様のもや――『サンタクロース』を見上げていた。

 〈異能者〉たちの懸命けんめいな働きにも関わらず、『サンタクロース』の〝繭〟は今もなお健在だった。むしろ、〝繭〟は作戦開始時よりもやや大きく成長しているように見えた。


「……なんかひびきさん、今回いつもより全然やる気なかったッスね」

「うん? そう見えたか」


 才子はこくりとうなずいた。

 和音は常と変わらず冷静な態度をつらぬいていたが、ふだんの任務であれば、もっと目的の達成に向けて積極的に行動していた。


「だってなあ――」


 和音が才子に何ごとかをこたえようとしたときのことだ。ぴっちりとしたスーツを着た太った初老の男性が、ボディガードをともなって走って来た。

 初老の男は才子たちの手前で立ち止まると、両ひざに手をついて呼吸を整える。


「ぜえぜえ……。『サンタ』は? 今、どうなっておる?」


(あれ、この人……)


 才子は、脂汗あぶらあせを浮かべるその男の顔を、以前にテレビで見た覚えがあった。

 確か、この秋の内閣ないかくから新しく防衛省の大臣を務めていたような……。


「あちらの上空です。間もなく〝羽化〟が始まるかと」

「っかー! 何をやっとるんじゃ、お前ら〈異能者〉どもは!」


 〈異能〉を持たない一般人と見られる男に対し、和音は丁寧ていねいな口調で報告した。先述の通り、『サンタクロース』のような超常の存在は一般人の目には映らないからだ。

 すると、大臣らしき男は大声でなげいた。


「困るんじゃよ、あんなイレギュラーに世間せけんを引っかき回されるのはな! いくら予算を掛けてると思っとるんじゃ! 日本のメンツにかけて、早くなんとかしろっ!」

「……我々の能力は、直接の対処に向いていないので」


 つばを飛ばしながらわめく大臣に対し、和音は消極的な返事をした。すると、大臣の口撃こうげき矛先ほこさきは才子に向かう。


「なんだと! ――小娘、貴様もか!」

「は、はぁ……」


 才子は一喝いっかつされて身を縮こまらせた。

 なんで自分たちが怒鳴どなられなければいけないんだろう。そう思いながら。


「だいたい、貴様ら〈異能者〉は――」


 大臣がなおも何かを口走ろうとした、そのとき。

 ――トナカイの角を生やした美少女が音よりも速く現れると、大臣の丸いお腹を力いっぱい蹴飛けとばした。


「――ぐほぉっ……!!」


 大臣は体をくの字に折り、口から何かをき散らしながら、夜空に放物線を描いて飛んで行った。


「だ、大臣!」


 ボディガードはあわてふためき、大臣を追って走り去った。


「…………」


 大臣を退場させた『トナカイ』は少しの間、無言でたたずんでいた。が、和音と才子に戦意がないと見て取ると、すぐにその場から姿を消した。

 『トナカイ』が去った後、才子がほっと息をく。


「……あぁーっ、びっくりした。――あの人、生きてますかねぇ?」

「……まあ、治療ちりょう班もいるし、大丈夫だろ」



 『サンタクロース』の〝羽化〟が始まったのは、それから間もなくのことだった。


 不定形のマーブル模様だった謎の物質が、くるくると丸まって一つの大きな赤い球体に変わる。大きな角を生やした少女も空を飛んで、その中に取り込まれたようだ。


 ――そして、弾けた。


 きらきらと輝く無数の赤い星々が、夜空を四方八方へ飛び立っていく。


 ――その一つひとつが、聖夜にトナカイをるサンタクロースなのだろうか。


「結局、何もできなかったッスねぇ……」

「そうだな」


 才子は和音の声に気落ちしている調子がないことに気がついた。


「あれ? ひょっとして、これで良かったんスか?」

「――というよりは、過去にこの作戦が成功した試しがない」

「えっ? じゃあ、あたしらって……」


 失敗を前提に招集されたのか――才子はそんな疑念を抱いた。


「――かといって、放置もできない。上は『対応した』という言いわけがほしいんだよ。……さっきの大臣はよくわからないが」

「大人の事情ってやつですね。……んで、大人にも色々いるんですねー」

「まあ、そういうことだな」


 和音がそういった事情を明かした後、話題は『サンタクロース』によって引き起こされる現象に移る。


「作戦前にも少し話したが、あれは世界中の子供たちの集合無意識の産物――願いをかなえる〝願望器がんぼうき〟のようなものだ」

「〝願望器〟ッスか。なんか、英霊を集めるソシャゲのアレみたいッスね」

「まあ、概念としては似たようなものだな。ただし、無意識の願いを集めて実現する仕組みから、全くコントロールが効かない。それを嫌う連中もいるんだろうな」

「――で、何が起こるんスか? あれで」

「去年は活火山の噴火と地震が止まった。効果は一時的だったが」

「あー! それ、ニュースで見ました! 『クリスマスの奇跡』って言われてたやつ」

「一昨年は、世界中で流行していた感染症が一気に収束した」

「あれも『サンタ』の仕業しわざだったんですか。――もう、邪魔じゃましない方が良くないスか?」

「ぶっちゃけると、俺もそう思う」


 二人は翌朝のニュースで、次の事実を知る。

 ――その夜、世界から人を殺傷する目的で作られた、ありとあらゆる武器が消滅した。


「響さん。あたし、終電なくなっちゃったんですけど」

「組織で手配されたホテルに泊まればいいだろ」

「夜道が怖いんで、案内してください」

「はぁ〜っ……。仕方ねぇなあ」

「やったー! 響さん、大好き!」

「……おい、くっつくな」



(Fin)



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【後書き】


お読みいただき、ありがとうございました!

今年はなんだかいたましいニュースが多く、「こんなサンタがいたらなぁ……」という私の願いからこの物語が生まれました。

つまり、一番描きたかったのは最後の会話前の一行なのでした。


現代ファンタジー的な世界観や戦闘パートは突貫で書き上げたので、設定や作り、描写が粗いところもあろうかと思います(汗) ご指摘は大歓迎ですので、お気づきの点がありましたら、どしどし感想コメントにてお知らせください!


本作を読んで、少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。

つらい境遇に置かれた方々が、少しでも心安らかに新年を迎えられることを願います。

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脅威!! 特級幻想精霊「サンタクロース」 卯月 幾哉 @uduki-ikuya

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