愛する君へ

Rie🌸

第1話 別れと再会

今年で直子と連れ添って70年になる。

直子は胃を患ってから食も細くなった

今では体重も40キロをきってしまった。

若い時は好きに過ごしてた分、お勝手仕事は私が引き受けている。


「直子、明日は病院だぞ」

「分かったわ。」

夜に隣のベッドに横になる直子が返事をした。


お互いに90歳を過ぎたし、歳も取る訳だ。

自分のしわくちゃな手を見る。


(娘夫婦と孫は月一に来てくれているし、これからも、直子と二人仲良く過ごしていけたら幸せだ。)



翌日、直子を通院してる病院へ連れて行く為にいつものように、車椅子に乗せて移動した。


途中、お肉屋さんのご主人が会釈したので、

私も道子も会釈した。



◇◇◇

いつものように、診察室に入り自分の子どもより下の医者に診察を受けて薬を処方された。

病室から出ると、直子は口にした。

「病院は待ち時間は長いけど、診察時間が5分もないわね。」

もっともな指摘に私は頷く。

「もう、昼だな。昼はどうする?」

「帰りにスーパーで、お弁当を買いましょう。」


私は直子の言うように、病院の帰り道にスーパーに寄ることにした。


◇◇◇

マルエツに入って、直子がお弁当コーナーの中華弁当を籠に入れた。

「これにするわ。」

私は直子と同じ弁当を籠に入れてお会計をした。


◇◇◇

家についてから、車椅子から彼女を下ろして、直子の上に着ているジャンパーを脱がせた。


あとは座るだけだ。

自分で出来るだろうと思ったんだ。

昼食の準備をしようとして、台所に向かった時にドサッと大きな音がした。


「どうした!?直子」

私は直子が畳に倒れてるのを目撃する。


「痛いよ~!!」

苦痛に歪む直子を見て、慌ててかけよる。

「直子!」を起き上がらせようとするも上手く行かずにハァハァと息切れしてしまう。


そんな時、娘からの電話がきた。

事情を説明すると、すぐにかかりつけの先生か救急車を呼んでと話している。


「病..院..嫌だ」

泣きそうな顔だ。


そんな時、洗濯物を出しっぱなしにしてることを不振に思った隣の奥さん。直子の親戚が状況を把握して救急車を呼んだ。


「おばさん!?」


◇◇◇

私は直子と共に病院へと付き添った。

私も行ったことがある病院だ。


気づいたらあたりは真っ暗だ。

ベッドに点滴やらをされてる直子。


医者や看護婦がもう帰りなさいと諭す。

帰ろうと思った時、直子が私の手をぎゅっと握った。

「明日また、来るよ。」


◇◇◇

帰宅したら既に深夜の二時である。

冷蔵庫の缶ビールを2本、身体に流し込むように飲んだ。


◇◇◇

翌日

「お父さん!お父さん!」

ん、娘の声が聞こえる?

「何やってんの?お母さん危篤だよ。」

その言葉を理解するのに、数秒かかった。

「ふぇ」

理解した瞬間、ベッドから飛び起きて慌てて着替えを済ませた。

一緒に来ていた孫娘と共にタクシーで、病院に向かった。


その最中、孫娘がタクシーの中で私の手を握った。

「大丈夫だよ。おじいちゃん」

私は直子が同じようにしたのを思い出して、涙ぐむ。

「昨日同じようにしたんだよ。」


◇◇◇

タクシーが病院に到着して病室へと急ぐ。杖をついて、ハッハッと息が切れる。

昔なら走れた。

今ほど自分の年老いた身体を恨めしく思ったことはない。

(直子、直子、直子!)


病室のカーテンを開くと、ピィーと心電図が0になっている。

娘がお母さん!孫がおばあちゃん!と叫ぶ。

私は道子に近寄る。


「何、寝てんだよ。起きろよ。」

自然と声が震える。

時には喧嘩もした。

「もう、大きな声出さないから起きてくれよ!」

泣き叫んだ。

私はゆっくりと、まるで眠ってるような直子に最期の口づけを交わした。


◇◇◇

直子は大腿骨骨折によって入院して、致死性不整脈が死因で亡くなった。


◇◇◇

直子が亡くなってから、娘夫婦と孫と食事をした時も美味しいものを食べると涙が出た。


「直子にも食べさせてあげたかった」

「声が聞きたいよ。」



事務処理やら、何やら面倒の手続きは娘夫婦がやってくれた。

直子のお墓は娘夫婦の近くの納骨堂に決まった。

一つずつ直子のことが決まることで、少しずつ自分の気持ちが整理されていく。



娘夫婦が週に一回の掃除のヘルパーさんを頼んでくれた。

自分に出来ることは自分でやりたいが、ヘルパーさんが95歳の誕生日に、今日はお誕生日ですね。寒いから気をつけてくださいねと優しく声をかけてくれた。


「はい。ありがとう」



娘夫婦と孫と食事をした時、その帰り道に孫娘が問う。

「おじいちゃん、大丈夫?」

「まだ、死なないよ」

食事帰りお酒も飲んで、ほろ酔い気分だが、本音がもれた。


あれは本当の弟のように接していた義理の弟の彰君が亡くなった時、大号泣していた私に甥っ子が肩を抱いて私に言った。


『大丈夫。おじさんは100まで生きるから!』


孫から子宮癌で摘出した年の誕生日、家族で食事をした時も次は100まで生きると宣言した。

年明けには成田山にも行きたい。


彰君の奥さんの清子さんは、直子にお線香をあげてくれて、私を心配してくれている。

私も彰君にお線香をあげに行こうと思うし、清子さんにお土産を買って渡したい。


『やりたいことがたくさんあるんだ。』


直子の死から立ち直れたのは、寄り添ってくれた人の想いに守られていたから。


◇◇◇

数年後

100歳の誕生日

娘夫婦も孫二人も年齢をそれなりに重ねた。

『おめでとう』

その言葉に私は微笑む。

『おじいちゃん。純子ちゃんやさきちゃんたちから、おめでとうライン来てるよ。』

その画面を見て私は微笑む。

『ありがとう』


◇◇◇


いつものように、ベッドに入って瞼を閉じた。

目の前には死んだはずの両親、兄や弟、妹。義理の弟の彰くんたち。

そして、直子ー!!

皆が私を微笑んで見ていた。

(私はどうしたんだ?)

『流石、和さんだな。親戚で一番の長寿』

『兄さん。すごいわ。』

『皆...』

義理の弟の彰くんが直子に話しかける。

『直ちゃんも久しぶりの再会なんだから、照れてない。照れない。』

『照れてないわ。彰君』

直子の外見が若い時に戻っていた。

『待っていたわ。あなた』

私を見て微笑む直子。

自分の手を見ると、しわくちゃの手ではなく若い時の手だった。

私は直子を思いきり抱き締めた。

『会いたかった』

ポロポロと涙が溢れた。

『頑張ったわね』

直子は私の背に手をまわした。


人生は幕を閉じたが、あの世とは先に逝った人たちとの再会の場所だ。


死者の声は生者には聞こえないが、生者を見守ることが出来る。

心から伝えたい。

死者は愛する者たちの幸福を見守っている。




End

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