おそらくボクは、ミッキーマウスに心臓を奪われるだろう。

曇天

タワー・オブ・テラーとシリキ......ウトゥンドゥの呪い。

 2人の友人と共にディズニーシーに来た。


 とはいっても、私たちが購入したチケットはウィークナイトパスポートであったため、時刻は既に17時だった。この日の閉園時間は21時、乗ることのできるアトラクション数は限られていた。


 何に乗るべきか。


 私たちは刻一刻と過ぎる時間の中で議論に議論を重ねた末、

「タワー・オブ・テラー」に決めた。


 今回の私のディズニー旅に同行した友人の1人は、ほとんどディズニーシーに行ったことがなく、タワー・オブ・テラーがどのようなアトラクションであるのかも分かっていなかった。

つまり、今から自分が乗ろうとしているのが恐ろしい絶叫エレベーターであるとは夢にも思っていなかったのである、夢の国なのに。

このことを察知した私ともう1人の友人の企みによって、タワー・オブ・テラーに決められたのだった。


 呪いの偶像よりも人間の方がよっぽど悪意に満ち満ちているということをつくづく思い知らされる。


 アトラクションに搭乗するまでの待機列には、ホテルの支配人にして、

自身の名前に職業選択の自由を奪われた男ことハイタワー三世の美術コレクションが並んでいた。

それにしてもなんというか、彼のコレクションは全体的に趣味が悪い。

その中でも私が最も眉を顰めたのが、どこの誰とも分からない夫妻の肖像画だった。めちゃめちゃ不機嫌な顔をしているのである。

そんな顔をするなら肖像画の制作を依頼するな。

それに描く側も描く側である。お金を貰っているのだから忖度せい。嘘を描け。


 このような負のオーラに包まれた品物の数々が並んだ列を歩いていたため、さすがにその友人も、自分が乗ろうとしているのが怖い系のアトラクションであることに気づいたようだった。

 だが、もう後戻りはできない。途中退室したら時間的にもうマジックランプシアターくらいしか行く当てがないし、そのようなことをしようものなら私ともう1人の友人でその子のことをこのホテルの最上階から放り投げる。


 そのようにして、怯える友人を引きずってアトラクションに乗る前の説明エリアまでやって来た。

女性のキャストさんがストーリーを解説する。ハイタワー三世の経歴や偉業、彼が失踪したことが話される。

そして、いよいよ失踪した彼の部屋に残されていた偶像の名前が告げられる。


 「その人形の名前は、シリキ......ウトゥンドゥ」


 ん?


 妙な違和感があった。もう1度キャストさんがその名前を口に出す。


 「シリキ......ウトゥンドゥ」


 明らかに間が長いのだ。


 私がよく存じ上げているのがシリキ・ウトゥンドゥ、キャストさんが言っているのはシリキ......ウトゥンドゥなのである。

ロン・ウィーズリーの「レヴィオサー」を聞くハーマイオニーのような気持ちになった。


 しかし、私が思い浮かべているシリキ・ウトゥンドゥとキャストさんが説明しているシリキ......ウトゥンドゥが全くの別物の可能性もある。

私は違和感から目を背けながらアトラクションへ足を向けた。


 そして、いよいよ私たちが搭乗する番になった。エレベーターに乗るだけなのにシートベルトを着用するという、アメリカ式なのかハイタワー式なのか分からない安全対策を行なった結果も虚しく、エレベーターは一瞬でシリキ・ウトゥンドゥに自由を奪われてしまった。


 勢いよく上昇するエレベーター、その瞬間、私の腹部にある感情が生まれた。


 「......気持ち悪い。」


 そう、酔ったのである。


 だが、もう後戻りはできない。私1人のためにアトラクションを停止させたら、ホテルにいる全員によって最上階から放り投げられてしまう。


 そのような私の心境を気にも留めずエレベーターは上昇し続け、私の胃液も上昇し続ける。


 そして最上階まで来たとき、アレが緑色に光る。


 「シリキウトゥンドゥの目がぁ!」


 その刹那、


 ぐぁーおんぐぁーおんがごがご


 エレベーターが落下し、再び上昇する。私の吐き気は上昇する一方である。


 落ちる前に窓からディズニーシーの美しい景色が一望できたが、そう思ったのも束の間、無慈悲にエレベーターは落下する。


 私と私の胃に強烈なGがかかる。華奢な友人は宙を舞っていた。


 めちゃめちゃ気持ち悪い、でも、ここで吐いたら終わる...


 このようにして、暴走するエレベーターによって私の命と尊厳が危機にさらされたが、耐えに耐えてなんとか生還することができた。


 ホテルを後にした私の胃の中には不快感だけが残っていた。


 シリキ・ウトゥンドゥの呪いが本物なのかどうかは分からない。


 いや、この不快感こそが、シリキ......ウトゥンドゥの呪いなのかもしれない。

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