2024年6月下旬未明。経験のないような腹痛を感じ、お手洗いまで駆け込んだ。両親はまだ寝ているものの、お手洗いへいくまでに異変を察したのか、母親が出てきた。

「あんた、脂汗かいてうずくまってどうしたの？」

「なんか急におなかが痛くなって……お手洗い行っても出ないんだ」

「救急車でも呼ぶ？」

　少し様子を見たが、改善しないので救急車を呼んでくれた。人生初の経験がここから始まった――。

　搬送された先は、近所の救急病院だった。CTや心電図など検査をしてから点滴につながれ、ベッドへ搬送された。お手洗いはいけなくはないが、安静と絶食（ぜっしょく）だったためおむつをつけることになった。

　正直、緊急病院での記憶はほとんどない。母親が水と洗面道具を渡しに来たぐらいだ。

　病院での見立ては2週間ほどだった。しかし1週間過ぎたある日、白血球の数が急増し、容態も悪化したため高次病院への転院に決まってしまった。夏にはなかなかチケットが取れにくいというライブが控えている。それまでには良くなってほしいと祈るだけだった。

　高次病院へ搬送後、管とか色々とつながれて狭い部屋へ搬送された。周りには大きな機械と点滴があり、それらにつながれているようだ。右手の人差し指には心電図や心拍数を図るモニタにつながれている。窓を探したが見当たらない。痛みもあり身体を起きることは難しい。

　医師から告げられて知ったのだが、HCU（高度治療室）にいるらしい。後で知ったが、ICU（集中治療室）ほどではないが、重症化や急変などのリスクがあり一般病棟では見切れない患者を入れる場所だそうだ。これも後から知ったが、急性腹膜（ふくまく）炎でも死亡リスクがあったらしい。両親が心配して短い時間でも何度も見舞いに来てくれたのが救いだった。

　なお、自分がいた病院のHCUにはシャワーも浴室もない。前の病院でもシャワーはダメだったので、ベッドで横になって身体を拭いてもらうか、泡タイプのボディソープでシャンプーしてもらえるかのどちらかだった。2週間もお風呂入れなかったのもなかなかない。

　その頃の体調といえば、腹痛と抗生物質に伴う下痢、たまに高熱と目まぐるしく変化していた。絶食だったがお腹はあまり空かなかった。一般病棟へ移る前日に、首にカルーテル（太い点滴。絶食時の栄養剤をつなぐために必須）をつける簡単な手術を受けた。麻酔があったとはいえ激痛でカロナールもらっても2日間はいられなかった。今も右首に跡が残っている。

　1週間たってようやく一般病棟に移った。しかし絶食なのは変わらずのため他の患者が食事を摂っている間はいやおうなく匂いが漂ってくる。最初はお腹が空かなかったが、次第に空腹を覚えるとかなりしんどかった。

　HCUにいたときは尿道に管を入れていたが、一般病棟に移ってすぐ外れた。しかし、おむつはなかなか外れない。お手洗いに間に合わなくて下痢になってしまうことがあり、怖くて外せなかったからだ。カルーテルをつけてからは点滴は全て首からになったので、腕は採血するときだけになった。それも前の病院から頻繁に採血や点滴の入れ替えでボロボロになった血管は、やがて注射を受け入れられない腕になってしまったが。

　このころになると、面会時間は長くなったが頻繁にはこれなくなった。酷暑の関係で15時に病棟へ来れなくなったのだ。最後の方は母親が新型コロナに罹患（りかん）してしまい、誰も見舞いにこれなくなってしまった。姉もいるが病院嫌いでめんどくさがりだから決して来ない。暇だから本を読みたいが、と相談したら通販で病院を指定すれば届けてくれるそうだ。前に病院はダメだったため、自宅で通販頼むと怒られる身にとってはありがたく使わせていただいた。病棟では自分以外は使わなかったらしいが。

　ある日から身体を動かしていないという理由でリハビリが介入することになった。ただ若いというので一般より負荷がかかるものを最初から行った。重りをつけて足を動かしたり、自転車マシンを10分間漕いだり。リハビリ担当の人が気さくで音楽好きという共通点もあったため、あまり他人と会話しない自分でも会話を通じてストレス解消になった。その頃はロッキンが話題になってた頃。リハビリ担当は最終日に記念応募したが落ちたという。サザンが最後の夏フェスということもあって、5万人に対してかなりの人が殺到したというから仕方ないだろう。

　リハビリとほぼ同時期に行われたのが食事である。一般的なものではなく、流動食からのスタートだった。おもゆ、くず湯、ジュース、ムース、具なし味噌汁といった飲めそうなものだが、口を動かして噛むことを徹底された。あごの筋力が衰えているかもしれないからという理由と、急に食べて胃が驚かないようにするためだ。最初は2日間で腹痛が再発してしまい、また絶食になってしまったこともあり、2度目の流動食はかなり用心した気がする。そこからペースト状の野菜とおかゆ、お豆腐や少し形がある野菜と五分粥、ここまであがったら柔らかいお肉やお魚もでる。五分粥食べても平気になったら首のカルーテルとも卒業。腕の点滴に変更になり、抗生物質と鉄剤が取れたら退院になった。

　それ以外だと1週間に1度は造影剤ありのCTを取ったり、レントゲンや大腸内視鏡検査を受けたりと色々と検査した。大腸内視鏡は別の病院で5月頃に受けている。その時もCTやレントゲンもやったが異常はなかった。なんで今になって重症化したのか謎である。

　そして8月中旬、ようやく退院できた。手術は危機一髪で免れたものの、外来による月一の通院は必須になった。これで終わるとも思っていた。。ライブ？　行けたが今度はコロナ貰って別の意味で1週間自宅で倒れてた。

　このころの支えは、夏に行われたライブの前に行われた公演のライブ音源やiPhoneのプレイリストをガンガン流してた。TVカードはつけてたけど、普段TV見ないので主に冷蔵庫の維持。X（Twitter）もやってたが、つらいことは心配されるのであまり呟かなかった。取引が中断になってしまったため相当迷惑かかったのと、同行者からはかなり心配かけたのでなるべくやり取りはしていたが。