第21話 北九州ポップアップ出店、地方拡大への挑戦

「次は北九州市で勝負します!」


優のその言葉に、スタッフたちは驚きの表情を浮かべた。これまでやりうどんは福岡市内を中心に展開してきたが、今回のポップアップ出店は北九州市で行うという決断だった。


「北九州は福岡市とは違う食文化があるし、三大チェーンも強力です。本当に勝てるんでしょうか?」

さつきが不安そうに尋ねる。


「だからこそ、やりうどんの名前を北九州でも広めるチャンスだと思うの。『糸島天ぷらうどん』の良さを伝えれば、きっと北九州のお客様にも響くはず。」


優の目には強い決意が宿っていた。そして嶋村も、その決断を静かに支持した。


「いいんじゃないか。三大チェーンに負けないためには、どこかで新しい市場を切り開く必要がある。それに北九州はグルメの街だ。ここで受け入れられれば、本物だって証明になる。」


「そうですね。北九州の人たちに、やりうどんの味を直接届けましょう!」


優たちは、北九州市の中心地である小倉駅周辺にポップアップショップを構えることを決めた。観光客だけでなく、地元の人々も多く集まるこのエリアは、やりうどんの認知度を高めるには最適だった。


「小倉といえば、旦過市場や門司港レトロが有名だし、観光客にもアピールしやすい場所よね。」

「そうですね。観光客向けのメニューとして、福岡の糸島野菜を使った天ぷらうどんは目玉になりそうです。」


さらに、地元感をより強調するため、北九州の特産品を新たに取り入れることにした。


「糸島野菜だけじゃなく、北九州の特産品も使いましょう!たとえば小倉牛や、門司港のバナナなんてどうかな?」


「小倉牛の天ぷら……面白いですね!観光客にも人気が出そうです。」


こうして、北九州ならではの素材を加えた新メニュー「北九州スペシャル天ぷらうどん」が試作されることになった。


ついに迎えたポップアップ出店初日、小倉駅前のイベントスペースには「やりうどん」の大きな看板が掲げられ、特設ブースには「糸島天ぷらうどん」と「北九州スペシャル天ぷらうどん」の2つのメニューが並んでいた。


「いらっしゃいませ!こちらが福岡の糸島野菜を使った天ぷらうどんです!さらに、北九州限定のスペシャル天ぷらうどんもご用意しています!」


優の元気な呼びかけに、通行人が次々と足を止める。


「これが噂の天ぷらうどんか……小倉牛の天ぷらって、めっちゃ気になるな。」

「糸島野菜って、福岡で有名なんでしょ?食べてみようかな。」


午前中はゆるやかなスタートだったが、昼時になるとブースには長い列ができ始めた。


「やっぱり北九州でも受け入れてもらえたみたいですね!」

さつきが笑顔で言う。


「まだ油断はできないけど、いいスタートを切れたのは確かだね。」

優も胸を撫で下ろした。


「北九州限定の天ぷらうどん、最高でした!小倉牛の天ぷらが特に美味しかった!」

「糸島野菜の甘みがスゴい!また食べたい!」


SNSでは来場客たちが写真を投稿し、#やりうどん #北九州天ぷらうどん のタグが瞬く間に拡散された。さらに、地元のテレビ局や新聞社も「やりうどん」のポップアップに注目し、取材に訪れた。


「地元食材と福岡の味を融合した新しいうどん店が話題に!」

「福岡市発のやりうどん、北九州進出で注目を集める!」


地元メディアの報道もあり、翌日以降、ポップアップショップにはさらに多くの人々が詰めかけた。


しかし、順調な滑り出しの裏で、競合チェーンの動きも活発になっていた。資さんうどんが「小倉牛入り肉うどん」を発表し、ウエストは「門司港レトロ天丼セット」を期間限定で投入するなど、地元色を打ち出したメニューで対抗してきた。


「やっぱり三大チェーンも北九州での競争を強化してきてる……」

優は新聞を読みながら焦りを感じた。


「だが、それはお前たちが目立ち始めた証拠でもある。」

嶋村が静かに言った。


「次に必要なのは、一過性の人気で終わらせないことだ。北九州の地元民に“やりうどん”を根付かせるためには、もう一歩踏み込んだアプローチが必要だ。」


「もう一歩……?」


「たとえば、北九州ならではの“ストーリー”を作ることだ。」


嶋村の言葉を受け、優は新しいアイデアをノートに書き込んだ。


「北九州の食材を使った新メニューに加えて、この街の人々と一緒に作り上げる“やりうどん”の形……それが次の挑戦になるかもしれない。」


優の目には、また新たな闘志が宿っていた。


「次は、北九州で“やりうどん”の名前を完全に定着させてみせる……!」


ポップアップ出店の成功は、やりうどんの新たな可能性を広げる第一歩となった。そして、さらなる挑戦の幕が静かに開けようとしていた。

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