第16話 名店『うどん平』の学び、基本に立ち返る時
優は常連客を対象に行ったアンケートの結果をまとめていた。そこに圧倒的に多くの人が名前を挙げたのが、博多を代表するうどん屋『うどん平』だった。
「肉ごぼう天うどんが絶品!」
「出汁の優しさが忘れられない」
「博多に住んでいたら一度は食べなきゃね」
どの回答を見ても、うどん平に対する愛情と称賛が溢れている。優はその結果を前に考え込んだ。
「こんなに多くの人が推すお店……やっぱり、直接行って確かめるしかない!」
翌日、優は『うどん平』を訪れるために博多駅から歩いて10分ほどの路地へ向かった。開店前にもかかわらず、店の前にはすでに長い行列ができている。
「やっぱりすごい人気……!」
行列に並んで待つ間、周囲から聞こえてくるのは「今日は肉ごぼう天にしようかな」「いつものかけうどんもいいな」といった、常連客たちの親しげな声ばかりだった。
やっとの思いで店内に入ると、カウンターとテーブル席が整然と並び、清潔で落ち着いた雰囲気が広がっていた。壁に掲げられたシンプルなメニューの中でも、「肉ごぼう天うどん」がひときわ目を引く。
「よし、やっぱりこれを頼もう。」
「肉ごぼう天うどん」の体験
「お待たせしました、肉ごぼう天うどんです。」
目の前に運ばれてきた一杯は、シンプルながらも完璧なバランスを持った美しさだった。透き通るような出汁に、柔らかな平打ち麺。そして、甘辛く煮込まれた牛肉と、サクサクに揚げられた薄切りのごぼう天が美しく盛り付けられている。
優はまずスープを一口飲む。
「……うわ、すごい……!」
昆布と鰹節の出汁の香りがふわりと鼻を抜け、口の中に優しい旨味がじんわりと広がる。濃すぎず、薄すぎず、何度でも飲みたくなるような絶妙な味わいだ。
次に麺をすすると、柔らかい食感が口の中に優しく馴染む。それでいて、最後にわずかなコシを感じる絶妙な仕上がり。
さらに、ごぼう天をかじると、香ばしさとサクサクの食感がスープと見事に調和する。そして、甘辛い牛肉が味のアクセントとなり、最後まで飽きさせない。
「これが……博多で愛される理由……」
その一杯を食べ終わる頃には、優の胸にはある確信が芽生えていた。
食後、優は思い切って店主に声をかけた。
「すみません、今日は本当に美味しいうどんをいただきました!実は私、うどん屋をやっていて、勉強のために伺ったんです。」
店主は驚きつつも、にこやかに答える。
「それは嬉しいね。こんな小さな店だけど、何か参考になればいいな。」
「特にこの出汁の味……優しさがあって、それでいて深みがあって。本当に感動しました。」
「ありがとう。うちの出汁は、昆布と鰹節を丁寧にとるだけさ。特別なことはしてないけど、素材と仕込みに手を抜かないのがうちのこだわりだ。」
「素材と仕込み……やっぱり基本が大事なんですね。」
「そうだね。それに、派手なメニューよりも、常連さんが『また食べたい』と思ってくれる味が一番大事だと思ってる。」
店主の言葉に、優は深く頷いた。
店を出た優は、博多の街を歩きながら自分の考えを整理していた。
「やりうどんの新しいメニューも、やっぱり基本に立ち返るべきだ。スパイスや地元の素材を活かすのは大事だけど、それ以上に、お客様が何度でも食べたくなるような優しさが必要なんだ。」
これまでの自分は、新しさや派手さばかりを追い求めていたのではないか――優はそう自問自答しながら、次の挑戦へのアイデアを頭の中で練り始めた。
「まずは、やりうどんの出汁をもう一度見直そう。それから、地元の素材をどう調和させるかを考える。そして、何よりも、お客様が心から満足できる一杯を作ることを目指そう。」
優の足取りは次第に軽くなり、やりうどん本店への帰路を急いだ。
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