小悪魔の護り手 ~小悪魔に転生した冴えないモブおじさん、異世界で少女を救う~
善江隆仁
第1話
『男』の命は、
――こんな
特段、良い事も悪い事も無かった
遠くからサイレンの音が聞こえて来る……。
「ヤベェ、サツだ」
残された『男』に最期の時が近付いている。次第に視界はぼやけ、そして、何も見えなくなった。
「心優しいお方。神は言っています、ここで死ぬ
「どっかで聞いた
頭に響くその優しい女性の声に対し、『男』は、思わずツッコんでいた。
これは私達の住む世界とは別の世界。剣と魔法が支配する世界での物語……。
*
次に目覚めると、『男』は、汚い
「見知らぬ、汚ねぇ天井だ」
『男』は、思わず
「せ、成功した」
声のした方に視線を向けると
「彼女が
今度は、耳元で声がする。そちらに振り向くと肩の所にキトンの服を着た妖精が宙に浮いていた。
その妖精は、
「私は、セシリー。貴方のナビゲーターよ」
「ナビゲーター? 妖精……、ではないのか?」
「うーん。見た目はそうだけど、ちょっと違うわね。私は、神様から
「良く分からんが、そう……なのか……」
「まぁ、そのうちに
「はぁ」
「ちょっと、無視しないで下さい!」
「く、苦しい」
『男』に付けられた首輪がゆっくりと
その苦痛に押される形で声の主の方を向くと、存在を無視され
「ああ、これって、
「んんんーっ!」
『男』は、声を出せないながらも、必死にセシリーに助けを求めている。
「ああ、ごめん、ごめん。そこの貴女、やり過ぎると
「あっ!」
我に返った少女が魔力を
「はぁ~。死ぬかと思った〜」
男は
「私が
少女は、ぷくりと
「ごめんなさね〜。この子、この世界の事、まだ何も知らないのよ。許してあげて」
「おい、大の大人を子供みたいに言うな」
「その
「あん?」
『男』は、セシリーの言葉を聞き、思わず自身の体に視線を向けた。
「あーーーーっ!」
思えば、立っているのに地べたに座っている少女と同じ目線である。そこで
この場所に鏡等ある訳が無い。『男』は、
月明かりの中、
「な、なんじゃこりゃあ」
「今更〜?」
「何だこの、熊のぬいぐるみに角と翼が生えたような見た目はっ!」
「可愛らしい悪魔の姿じゃないの?」
「いや、そうなのだが、俺は、そんな事を聞きたい訳では――」
『男』の言葉を
「また私を無視してっ!」
少女は、再びむくれていた。
彼女の名前は、ソフィア。こんな場所に居るにも関わらず、その
しかし、それには理由があった。
彼女は、今年、
「なるほど。それでそこに
「そうです。あそこでいつも体を
「俺は、てっきり、ここは
『男』がそう言いかけた時、セシリーが彼の肩を
「ここは、
「はぁ?」
「魔力のある者を
「そうなのか? だとしたら――」
「また二人で
「ちょっと待った。
「だったら、私を無視しないで下さい」
「分かった。分かったから、少し落ち着こうか」
「
「
『男』は、再び
*
「で、お二人は――」
「私は、セシリー。この子の付き人? みたいなものね。それから、この子は、異世界から転生した人で――」
「転生?」
「そう。この世界とは別の世界で一回死んで、それでこの世界でこの姿で生まれ変わったって訳」
「へぇ~」
「だから、気を付けて。見た目はこうでも、中身はおっさんだから、きっとイヤらしい目で私達を見ているに違いないわ」
「おい、しれっと失礼な事を言うな」
「テヘペロ」
セシリーは、舌を出しながら、おとぼけた。
「貴方は、本当はおじさんなのですか?」
「ああ、そうだ。どこにでも居るただのモブおじだ」
「モブおじ……さん?」
「ああ」
「それで『モブおじ』さんは、別の世界で一回死んで――」
「いや、『モブおじ』って言うのは、名前でなく――」
「?」
ソフィアは、
「はぁ……。もう
「ん?」
ソフィアは、再び首を
「ちょっと、誰か来るみたい」
セシリーが何かの
「たぶん、
ソフィアは、少し
「ちょっと貴方。透明になる感じをイメージしてみて」
「何で?」
「いいから、言う事聞いて! 時間がないわ」
セシリーが、
「分かった。やってみるよ」
モブおじは、静かに目を閉じると、自分が透明になるイメージを思い浮かべた。
「スゴイ! 見えなくなりました」
「何?」
モブおじが目を開けると、自身の手が透けているのが見えてきた。
「ホントだ」
「これが、貴方の能力。他にも出来るから、おいおい教えていくわ」
「そうか」
「おい、お前! 誰と
「私は、誰とも
「まぁ、いい。お役目だ。さっさと来い」
「はい……」
『お役目』という言葉を聞いた瞬間、ソフィアの瞳から光が消えた。
「おい……大丈夫なのか?」
「大丈夫です。
ソフィアは、ぎこちない笑顔を浮かべながらそう答えると、
「あれ、絶対に大丈夫じゃないわよね……」
「ああ……」
二人は、不安げな表情で彼女を見送った。
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