思春期病棟
笹百合ねね
1章:アルカパドルであいましょう
1-1:宇宙人な少女
窓が締め切られた校舎の中、階段をどんどん上がっていく。
額から汗が流れ、わたしは「最悪だ」と思った。学校にもエレベーターかエスカレーターがあれば良いのに。私立なのだから、そのくらいしてくれても良いと思う。
階段を上り切り、その先にある無骨な金属製のドアの鍵穴に、古びた鍵を差し込んだ。
「あれ?」
手ごたえがない。まさか、と思って、わたしはドアノブに手をかけた。
それはすんなりと開き、8月の夕方特有の生ぬるい風が、わたしのもとに届けられた。
ドアの先には、見慣れた屋上の景色が広がっている。けれど、ひとつだけ、見慣れないものがあった。
「……こんにちは?」
わたしは小首をかしげながら、声をかけた。
見慣れない――少女がいた。
その少女はわたしと同じセーラー服姿で、スカーフの色だけが違っていた。わたしは青で、彼女は緑。それで、わたしのひとつ下の学年、二年生だとわかった。面識はない。彼女は屋上の端で、フェンスに軽くもたれかかるような感じで、床にぺたんと座り込んでいた。
「これからここ、天文部で使うことになってるんだけど……もしかして、あなたの部活でも使うことになってたりする?」
わたしは屋上を歩きながら、彼女に問いかけた。近づくと、彼女が座り込んでいるところに、金属の塊みたいなものが置いてあるのがわかった。
「何かの実験? 科学部かな」
わたしが謎の塊を指さすと、少女はびくりと肩を震わせた。
少女はずっと目線をその塊に向けており、わたしの方を見る気配はない。長い髪が顔を隠してしまっているので、表情も良くわからなかった。
「ねえ、返事してほしいんだけど――」
「アルカパドル!」
少女は急にそう叫ぶと、金属の塊を持って、すくっと立ち上がった。
「アルカパドル、アルカパドル、ネモリポルテ、パパピルリア、ラスクヘルシオン!」
……なんて?
屋上に、静寂が訪れる。
少女も、わたしも、何も言わずにその場に立っていた。
生ぬるい風がわたしの頬をなでて、それで我に返った。
「あの……」
「だめ、だった」
少女はそう言って、ぺたんと座り込んだ。そして、金属の塊を、ぎゅっと抱きしめる。
「今度は、できると、思った」
「えっと……残念だったね……?」
「だれ?」
少女はそこではじめてわたしの存在に気づいたらしく、上目遣いにわたしを見た。
「3年の
「……まさか」
少女はわたしを指さして、驚いたような表情をした。
そして、言った。
「まさか、あなたも、宇宙人なの?」
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