第五章 ちっぽけな祝福

5-1:僕が死神になった理由

 ママのところに帰りたい。


 どうして、僕のところに来てくれないの? こんな奴らのところに僕を置いて、どうして助けに来てくれないの?


「間違いなく、この猫が呪いをかけたに違いない」

 神主の姿をした男が、僕のことを冷たく見下ろす。


 名前は知ってる。キリガヤって奴だ。桐ヶ谷遊水。ママと一緒に何度かテレビに出て、幽霊について適当なことを言ってた奴。


「この猫が幽霊の存在を教えたから、幽霊に呪われた。そういう風に考える方もいますが、そんなことはありえない。存在を知っただけで死ぬのなら、私もとうに死んでいます」


 この嘘つきめ。霊なんか見えてないくせに。

 そんな風に僕を悪者にして、「この猫に問題がある」と口にする。


 違うよ、と僕は訴えたかった。

 でも、誰にも届かない。


 みんなが僕のことを睨む。僕のことを取り囲んで、不安そうに僕の姿を見ていた。


 助けて、ママ。

 怖いよ。怖いよ。だから早く、迎えに来て。





 会いたい。ママ。どこにいるの?


 痛くて仕方なかった。怖くて仕方なかった。

 でも、今はどうにか自由に動ける。でも、今までとは違う。


 僕の姿は人には見えない。僕が今まで見てきたように、幽霊になったとわかる。

 それでも、ママの元に帰りたかった。


「ママ、どこに行ったの?」


 僕たちの家に帰ったけれど、ママの姿はなかった。ママの子供たちも近くに住んでいたはずなのに、その家に行っても誰もいなかった。


「僕を置いて、どこに行ったの?」


 あんなに大事にしてくれたのに。ショコラ、ショコラって、優しく撫でてくれたのに。

 探さなきゃ。幽霊になったからおなかもすかない。体も疲れない。何日かかってもいい。とにかく歩いて、ママを見つけなきゃ。


 僕は歩いた。考えてもわからないから、ただ歩いた。家を見つけたら覗き込んで、ママがいないかを探した。幸せそうな家族とか、寂しそうなお年寄りとか、喧嘩する人とか、色んな人の姿を見た。でも、誰も僕には気づかない。


 ちくちょう、羨ましいな。

 可愛がられている猫なんか見ると、悔しくて仕方なくなる。


 それでも、ママだけが僕の全てだ。絶対、ママのところに帰るんだ。


 一体、それから何度太陽が昇ったんだろう。僕は歩いて歩いて、その先でやっとママを見つけることが出来た。


 公園のベンチに座っているママ。

 でも、その隣には『別の猫』がいた。


 瞬間、僕の中で何かが壊れた。


 そうなのかよ、とママを睨む。穏やかそうに微笑んでいるママ。まるで僕のことなんか忘れてしまったようだった。


 許せない。絶対に許せない。





「あなた、ショコラなのね?」


 迷う気持ちはなかった。僕のことを思い出してくれたから、十分だと思った。


 でも、何かが変だった。


「ナァーオ」と声を上げ、僕はママが死ぬようにした。その先でママは首を吊ったけれど、僕は胸の中が冷たくなって、頭の中がぼうっとしていく。


 ママは僕に怯えていた。僕が帰ってきたことを喜んではくれなかった。ママも結局、僕を殺したあいつらと一緒だった。


 これが人間。

 だから許せない。

 世の中には、そういう奴らがたくさん生きている。そいつらが僕を殺した。


 仕返しをしてやらなくちゃ。


 胸の中が冷たい。この感じをどうにかしたい。

 こいつらを殺せば、この嫌な気分もなくなるはずだ。


 一人でも多く、殺さなくちゃ。

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