"普通"の試験

水面あお

第1話

「これから普通の試験を始めます」


 会場に集められたのは無数の人々。


 無機質で何の変哲もない部屋はこれといった特徴がない。右にも左にも自分と似たような人が席について試験開始を待っている。


 ここに来たのは普通の試験を受けるためだ。

 普通の試験とは何なのか。それは試験用紙をめくるまでわからないが、どうやら人生に関することらしい。


 自分は天寿を全うした人間だ。


 

 そう、実はここは死後の世界なのだ。


 そんな死後の世界でなぜ試験を受けているかというと、もしこの試験で合格点を取れば来世は望み通りところへ生まれ変わらせてもらえるからだ。


 しかし、合格点未満だった場合は、みすぼらしい人生になるらしい。


 だが、恐れる必要はない。

 これから出題されるのは普通の問題だそうだ。

 普通に生きてきたならば、解けるらしい。


 それなら問題ないなと、自分は試験を受けることにした。


 きっと周囲の人々も同じような感じだろう。


 


 時間が経ち、問題用紙が配られた。

 始め、の合図とともに頁をめくる。


 どうやらすべての質問に『はい』か『いいえ』で答えるようだ。

 注意事項として、正直に答えなければならないそうだ。

 でも二択か、楽勝だな。



 問一

 あなたは小学校にしっかり通って卒業しましたか?


 舐めているのだろうか? 

 そう言いたくなるレベルの簡単な問題だ。

 『はい』と書く。



 問二

 あなたは中学校にしっかり通って卒業しましたか?


 ずっとこんな問題が続くのだろうか。

 辟易しながらも、解いていく。



 問五

 あなたは高校生の時点で恋人がいましたか?


 はぁ……? 

 恋はしたけど、思いを告げる勇気が出ないまま終わったから、いないな。



 問六

 あなたは○○○○以上の大学に現役で合格しましたか?


 大学?

 一浪しちまったんだよなー。

 浪人中は怠けちゃって結局現役の時より悪い成績だったけど、やる気失せたし適当なFランっぽいとこ入ったんだよな……。



 問八

 大企業に新卒で入りましたか?


 大企業とか無理だろ。

 地元の中小がやっとさ。



 問九

 自分の車は買いましたか?


 車はなんとか買ったんだよなあ。

 ローン組んだけど。



 問十二

 三十代の時点で年収は500万を超えていましたか?


 いや、むりっしょ。

 


 問十五

 三十代前半までに結婚をして、生涯を終えるまでに二人の子供を授かりましたか?


 結婚はしたけどもっと後だなあ。

 子供は一人だな。



 問十七

 家を買いましたか?


 家とか高すぎて買えるわけないだろ。ずっと実家暮らしだわ。



 問二十

 老後はのんびり暮らしましたか?


 金がなくて、定年すぎてからも働いてたなー。



 問二十一

 家族に看取られてなくなりましたか?


 どうなんだろ。あんま覚えてないんだよな。一人だったかもな。


 

 問二十二

 長男以外ですか?


 急に問題の傾向変わったな。

 なんだこれ?

 長男だけど……。



 問

 顔は◯◯◯(とある俳優)似ですか?


 誰に似てるんだろうな、自分は。

 とりあえずイケメンではないことは確かだな。



 意味わからない試験だったな……。



 * * *



「これにて試験は終了です」


「では次に、合格者の発表です」

 

















「合格者はいません」




「お疲れさまでした」


 





















 

「どうかされましたか?」





「不服、ですか?」






「合格点?」


「ああ、普通の問題ですし、普通に満点取れるかなと」


「結局誰一人として取れませんでしたがね」




「どうやらこの国で生まれた人は、普通のハードルが高いようですね」


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