星の価値
つばめいろ
星が掴めれば
「星を掴むと願いが叶う」
なんて童話染みたことを先輩は言う。いつも冬の寒く暗くなった部室の窓から空に手を伸ばしている。毎日のように「掴めない」と真顔で私を見つめてくる。その先輩の顔を見るのが面白い。
「何をそんなに叶えたいんですか」
私がいくら聞いても、教えてくれることはない。でも無理に聞き出そうとはしなかった。そして、先輩はいつまで経っても星を掴むことはできなかった。
先輩はある日死んでしまった。不治の病に罹っていたらしい。そのことを先輩は私に言ってくれなかった。言ってくれても良かったのに。
「先輩は生きるために星を掴みたかったんですか」
先輩が質問に答えることはなかった。いつものことだから仕方ない。でも、もうあの困っている様子を見られないと思うと残念な気がする。
私も今日も一人になった部室の窓から、星に手を伸ばす。いまならあの時の先輩の気持ちがわかるだろうか。未だ、あの大きな星すらも掴めそうにない。
星の価値 つばめいろ @shitizi-ensei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます