星の価値

つばめいろ

星が掴めれば

「星を掴むと願いが叶う」

 なんて童話染みたことを先輩は言う。いつも冬の寒く暗くなった部室の窓から空に手を伸ばしている。毎日のように「掴めない」と真顔で私を見つめてくる。その先輩の顔を見るのが面白い。

「何をそんなに叶えたいんですか」

 私がいくら聞いても、教えてくれることはない。でも無理に聞き出そうとはしなかった。そして、先輩はいつまで経っても星を掴むことはできなかった。


 先輩はある日死んでしまった。不治の病に罹っていたらしい。そのことを先輩は私に言ってくれなかった。言ってくれても良かったのに。

「先輩は生きるために星を掴みたかったんですか」

 先輩が質問に答えることはなかった。いつものことだから仕方ない。でも、もうあの困っている様子を見られないと思うと残念な気がする。


 私も今日も一人になった部室の窓から、星に手を伸ばす。いまならあの時の先輩の気持ちがわかるだろうか。未だ、あの大きな星すらも掴めそうにない。

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星の価値 つばめいろ @shitizi-ensei

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