hosi

アマネ

第1話

深い森の奥、光が差し込む場所に、青白い肌を持つエルフの少女、リリスが横たわっていた。彼女の周りには、色とりどりの花が咲き乱れ、風に乗って甘い香りが漂っている。しかし、リリスの目は虚ろで、何も思い出せなかった。彼女自身が誰であるのか、どこから来たのか、その全てが霧のように消えてしまっていた。


「私は…何者なんだろう。」


リリスは、自分の手のひらを見つめた。細長い指先は、何かを握りしめているかのように緊張している。彼女は立ち上がり、周囲を見回した。木々の間から漏れる光が、彼女の髪を金色に輝かせ、まるで夢の中にいるような感覚を与える。だが、心の奥底には不安が渦巻いていた。自分の存在意義を見失ったかのように、胸が締め付けられる。


「私を探している人はいるのかな?」


そう呟きながら、リリスは森の奥へと足を進めた。彼女は、何かが待っている気がした。自分の記憶を取り戻すための手掛かりが、どこかに隠されていると信じていた。森の中を進むにつれ、木々の間からは不思議な声が聞こえ始めた。それは、彼女を呼びかけるようだった。


リリスは立ち止まり、声の正体を探ろうとした。その時、彼女の目に映ったのは、一匹の小さな鳥だった。羽は鮮やかな青色で、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。鳥は彼女の目をじっと見つめ、そして空へと飛び立った。リリスはその鳥を追いかけるように、足を速めた。


「待って!」


彼女の心は、期待と不安で複雑に揺れ動いた。鳥が導く先には、何が待っているのか。リリスはその問いに答えを見つけたくてたまらなかった。鳥はどんどん高く飛び上がり、リリスは必死に追いかけた。足元の草が柔らかく、まるで彼女を応援しているかのようだ。


「私を助けてくれるの…?」


鳥は、森の奥にある小さな清流の上で羽ばたき、リリスを待っていた。彼女がたどり着くと、清流は清らかな水を湛え、辺りには小石が整然と並んでいた。リリスは清流の水面を覗き込み、自分の顔を見つけた。しかし、そこには見知らぬ表情が映っていた。彼女は自分の目をこすり、再び水面を見つめる。


「私の名前は…何だっけ?」


その時、清流の水が波立ち、彼女の心の中に潜んでいた記憶が浮かび上がってきた。懐かしい声、温かい笑顔、そして、彼女を待つ誰かの存在。リリスはその感覚に心を奪われ、思わず涙がこぼれた。


「私…忘れないよ。」


彼女は、再び自分の心を強くすることを決めた。自分を取り戻すためには、まずは自分の居場所を見つけなければならない。記憶の断片を手繰り寄せながら、リリスは鳥に向かって手を伸ばした。


「あなたが導いてくれるなら、私は行くよ。」


その瞬間、鳥は彼女の手に留まった。リリスはその小さな存在に心を寄せ、彼女の新たな旅が始まったのだと感じた。彼女は鳥を道しるべに、再び森を進むことにした。


その後、リリスは様々な場所を巡り、出会った人々から少しずつ自分の過去を知っていった。彼女は、かつて美しい歌声を持つエルフの歌姫であり、多くの人々に愛されていたことを思い出す。しかし、ある日、彼女は何者かに襲われ、記憶を奪われてしまったのだ。


「私…もう一度、あの歌を歌うことができるのかな。」


心の中で自分に問いかけると、リリスは気持ちを引き締めた。彼女は再び歌姫としての自分を取り戻すため、力強く歩き続けることを決意した。すると、彼女の心の中に温かい光が宿り始めた。それは、まるで彼女の歌声が再び響き渡る予感のようだった。


数日後、リリスは森の中の広場に立ち、そこに集まった人々の前で歌うことを決めた。彼女の心には、かつての自分への想いが宿っていた。彼女は自分の存在意義を再確認し、待ちわびていた瞬間がやってきたのだ。


歌声が広場に響き渡ると、周りの人々は彼女の歌に引き込まれ、涙を流す者もいた。リリスはその瞬間、全てを思い出した。かつての歌姫としての姿、愛された記憶、そして、彼女を探し続けていた仲間たちの存在。彼女の心が満たされ、涙が自然と溢れ出た。


「私が私であることに、意味がある。」


リリスは歌い終えた後、深く息を吸い込み、周りの人々の温かい視線を感じた。彼女の心には、もう迷いはなかった。自分を取り戻したリリスは、これからの旅を続けることを決意したのだ。


彼女の歌は、森を越え、遠くの村へと響き渡り、再び彼女の存在を人々に届けていく。おそらく、彼女の歌は彼女自身の記憶だけでなく、失われた何かを取り戻す力を持っているのかもしれなかった。それは、彼女が自分を見つけた証となるだろう。彼女の心に宿った光は、永遠に輝き続けるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る