ちぃちゃん、ベランダで願いごとをする

澳 加純

第1話

 その晩、ちぃちゃんは大好きなパパとベランダから夜空を眺めていました。


 星が大好きなパパは上機嫌でお星様のお話をしてくれるのですが、小さなちぃちゃんはもうお眠の時間で、抱っこしているパパの肩に寄りかかって夢の世界に行きかけていました。

 

 「寒いから早くお部屋の中に戻りなさい」と、ママがベランダに顔を出した時です。


「あ、流れ星!」


 パパが空を指差しました。

 大きさ声だったので、ちぃちゃんはびっくりして、目が覚めてしまいました。


「ほら、ちぃちゃん見てごらん。また流れ星が!」


 ちぃちゃんは急いで顔を上げました。大変です。お願いごとを言わねばなりません。

 

 ちぃちゃんは知っていました。

 流れ星が消えてしまう前に、お願いごとを3回唱える事ができたら、それが叶うということを。


 ちぃちゃんには、叶えて欲しいお願いがあったのです。


 それは、サンタさんに会うこと。

 白いお髭のおじいさんに、どうしても会ってみたかったのです。


 ちぃちゃんは、寒さで動きづらくなった小さなお口を一生懸命動かしました。


「ちゃんたしゃん、ちゃんたしゃん、ちゃん……ちゃ、ちゃぁ……」


 でも小さなお口は上手く回りきらず、途中でつっかえてしまい、その間に流れ星は消えてしまったのです。

 3回言えませんでした。これでは願い事が叶いません。


 ちぃちゃんは急に悲しくなって、泣き出してしまいました。


 は思いどうりにはいかない。ちょっとだけ人生の厳しさを知った、ちぃちゃん2歳の冬でした。








 その年、ちぃちゃんはサンタさんには会えませんでした。ベランダから見た流れ星に、3回願いごとを唱えられなかったから仕方ありません。

 でもクリスマスの朝、吊るしておいた靴下の中には、白いお髭のサンタさんのお人形が入っていたのです。


 ちぃちゃんが眠っている間にお家にやって来たのでしょうか。サンタさん人形の白いお髭を撫でながら、ちぃちゃんは考えました。


 3歳になって、もうちょっと大きくなったら、きっと上手にお願いごとも伝えられるようになるはずだよね。

 よぉし。来年こそは本物のサンタさんに会って、お髭を触らせてもらおうっと。

 お髭は、やっぱり白い綿あめみたいにふわふわしているのかなぁ。確かめてみなくっちゃ!


 そっとリベンジを心に誓うちぃちゃんでした。

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ちぃちゃん、ベランダで願いごとをする 澳 加純 @Leslie24M

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