吸、救

とてつもないあい

吸、救

「ね、君が大嫌いな世界を片っ端からぶっ壊してさァー、ぜーんぶぶっ壊したら、ぼくと死んでよ。」


もう、高いビルからジャンプすることでしか脈打たないとおもっていたわたしの心臓が、打ち上げられた鯉のように跳ねたのがわかった。よくおもいかえしてみると、いつ、どこで、君に出会ったのかよく覚えていないし、うーんと、なんだかずっとまえから知っていたような、ほんの数分前にTinderでマッチしたような、あ、コンビニの店員さんだったかも。寝る前に必ず枕を3回叩くおまじない、こわい夢みませんようにって何度も何度も繰り返した。悪夢でいいから、わたしのことずっとずっと離さないで欲しいよ。君のその、人差し指の絆創膏とか、親指のボロボロの爪とか、中指の大きな十字架のネイルパーツとかが、すごくすきだったよ。ねえ、おくすりより、セックスより、匿名でインターネットより、きもちぃーことしようよ♡ねえ、イク瞬間に目を合わせてくれなくても、セミダブルのベットで身体が触れ合わなくても、スマホのパスワードがわたしの誕生日じゃなくなっていても、悲しくなんかないよ。ツイッターで流れてくる嘘つきツイートに、嘘松乙wって送れなくなってしまったことのほうがよっぽど悲しくて、偽りだらけのインターネットがわたしを救ってくれたのに、あのね、わたしインターネットでくるしいの。タバコを吸うのは呼吸するため。すぅはぁすぅはぁ、死にながら、生きてるよ。


「たとえば、世界を全部ぶっ壊す前に、死にたくなったらどうするの?」


「そしたら僕が、君を壊すよ。君が僕の世界だから。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吸、救 とてつもないあい @nzxzxz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る