第37話 突然英語でボソッとデレたかと思えば団長命令を下すパクリヨ先輩
「参加してから三日でいなくなったと思ったら、まさかこ~んな所にいるなんて」
わざとらしく髪を手でなびかせ、ゆったりとした動作ででこちらへと歩いてくる。
どことなく敵の女幹部みたいな雰囲気を醸しているが、この人の場合これが素というわけでもないはずだ。
「あー、えっと、ぱ、
「口を慎む事ね!」
ぴしゃりと言い放った転瞬、顔を逸らしこれみよがし頬を染める。
「But I'm so happy that you remember me」
ぼそぼそ言われたのは何らかの英文。たぶんまぁ、でも覚えててくれて嬉しいみたいな感じだろうか。
「こんな人目のつくところでも盛って山添君、あなたはセミか何かなのかしら?」
苦言を呈する先輩だったが、またすぐにわざとらしく顔を逸らし顔を赤らめた。
「I've been lonely for so long」
「……」
チラッと先輩が横目で俺の様子を窺ってくる。
く、くうっ……始まったか……! この急に異国語話し出す感じどっかで見た事があるというか、完全に要所でデレるヒロインがロシアハーフであるあのラブコメだっ……!
そしてこれは明らかに俺の指摘を待っている素振り。
「あー、えっと、ロシデレ見てたんですか……?」
尋ねると、先輩は険しい表情だったのふっと緩め目を輝かせる。
「やはり流石ね山添君。ええもちろん、見てたわね。原作も買ったわよ」
同好の士はここにいたとばかりに、先ほどの不遜な態度とは打って変わって非常に嬉しそうだ。たぶんあの不遜な態度もなんらかの影響受けてるんだろうなあ……。
「ちなみにさっきのは英語みたいでしたけど実はロシア語だったり?」
「いえ、英語よ。ロシア語は難しいわ」
「そ、そうですよね」
しれっと答える姿にどっと疲れが押し寄せてくる。
この人はなんというか、アニメとか漫画とかのサブカルに影響されやすいというか、事あるごとにそう言ったキャラの真似事をしたりセリフを吐いては変な絡み方をしてくるんだよな。しかも今みたいにチラチラ反応待ちしてくる事も少なくはなく、言葉を選ばずに言うとあれだ、かったるい。
「じゅう君、この人は……?」
相変わらずオナモミのようにくっつく月ヶ瀬が尋ねてくる。
人の体温にやや落ち着きを感じる一方で普通に暑いからいい加減離れてほしい。今は夏なんだ。
「あー、えっと……映画研究部の先輩の
「朴……? って事はもしかして韓国の人なんですか⁉」
紹介すると、ようやく離れてくれた月ヶ瀬が爛々と目を輝かせ先輩を見上げる。
「わ、悪かったわね」
純粋そうな眼にあてられてか、やや気まずそうに目を逸らす先輩。
しかし月ヶ瀬は気にした様子もなくぐいぐいと距離を詰めていく。
「そんなとんでもないです! 韓国の女性って美人でスタイル良い人多いので憧れてるんですよ~」
「あら、そう……」
「朴先輩もすごくシュッとしてるし美人だし、うちの学校にこんな先輩がいたなんて嬉しいです!」
「……あ、アラッソ」
月ヶ瀬に褒めちぎられ大変居心地が悪そうに固い返事している。あんまり慣れてないのだろうか。こういう面の良い年上女性は可愛いだ綺麗だとチヤホヤされて育ち自己愛を肥大化させる傾向があるのに。 実際月ヶ瀬も例に盛れず褒めまくりだしな。
まぁ少し持ち上げすぎではと思わないでもないが、確かに見た目だけなら相当な美人ではあるし、あの芦木ですら美人と言ってのけた月ヶ瀬だ。朴先輩に限らずそういった見た目は綺麗な年上女性にやっぱり憧れがあるのかもしれない。
まるで俺とは真反対だな。傍若無人だった姉のせいで年上女性にはどうしても偏見が付きまとう。
「そ、そんな事より山添君」
遂に耐えかねたのか、先輩が突然俺に話を振ってきた。
「私の事を覚えていてくれたのは良かったけれど、それとはまた別に怒ってはいるのよ」
「ああ、えっとやっぱそうですよね……」
何せ俺は最初の三回以外部活に顔を出していない。
「ええ、そうよ。さっきチクリと言ったけれど、部活に来ないのは新入生部活紹介の冊子に興味のある日来るだけで大丈夫! って書いてあったし、私もそれを読んで聞かせた覚えがあるからまぁいいのよ」
そこは一応許してくれてるらしい。じゃあ何に怒ってるのだろう。
「でもあなた、部員の権利を乱用して部室に女子を連れ込んでたらしいわね?」
「あっ……」
それかッ!
「あって何?」
「いやー……」
詰め寄られ、つい言い淀む。
なんでバレてるんだ?
別に何をしたわけでもないんだが、連れ込んだのは事実だしどうしたものか……。
一応その場にいたし何とかしてくれないかと月ヶ瀬の方に視線を送ってみると、迅速に顔を逸らし一歩後ずさった。
「わ、私はこれで失礼します!」
「あら、そう」
「はい! 先輩また良かったらお話してください! じゅう君もまたね!」
そう言い残し颯爽とすっ飛んで行く月ヶ瀬。完全に逃げられてしまったようだ。
まぁそもそも月ヶ瀬を頼るべきことではなかったか。でもこの流れに乗ればもしかしたら逃げられるかも……。
「それで山添君、言い訳があるならどうぞ?」
先輩は特に月ヶ瀬の行方については興味ないらしく、すぐに視線をこちらへと戻す。くっ、このまま流れで俺も行こうかと考えていた矢先だ。
「いやえっと、実は女子の友達が映画研究会に興味があるみたいで部室を」
「嘘はよくないわね」
俺が言い切る前に言い切られてしまった。
くそう! 年上の女はいつもこうだ! 結局自分の信じたい事しか信じないそういう生物なんだ! でも今回は普通に嘘ついてるから俺が普通に悪いんだよなぁ……。
「無いです、すみません」
もはやどうしようもないので素直に謝っておく。
「素直とは言い難いけれど、潔いのは良い事ね」
「で、でもあれですよ? 確かに連れてきたのは事実なんですけど、エロい事とかはしてないですからね⁉」
ちょっとメギツネを分からせるために使いはしましたが!
学校内で淫行とか洒落にならないので必死に弁明すると、先輩がこちらに胡乱な眼差しでこちらを見てくる。
「まぁ、そんな光景は映ってなかったからそこは信じてあげるけれど」
「ん? 今なんて言いました?」
映っ、て?
尋ねるが、先輩はバツの悪そうに一つ咳払いすると、誤魔化すかのように髪をかき上げる。
「とにかく! そんな不届き部員には罰則が必要ね」
「あの、映ってって……」
「これからはちゃんと部活に顔を出しなさい。今日は勿論、三者面談中も開けているから必ずくる事!」
「あ、はい。それで今映ってって」
「そう、これはあれね。言うなれば……」
俺の言葉など最初から無かったかのように話を進めると、先輩がビシッと人差し指を向けてくる。
「団長命令よ! 絶対に来なさい!」
「おっ、ただの人間には興味無さそうですね!」
ちょっと大げさに言うと、先輩は嬉しそうに勝気な笑みを浮かべる。どうやら正解だったらしい。
「それで、映って」
「じゃ、部室で」
「あ、はい」
さっさと先輩は身を翻しどこかへ行ってしまった。
気持ちよくなってもらっても無理だったか。
結局最後まで答えてもらえなかったが、え、何? あの、一部始終全部どっかに記録されてるって事? だとしたらめちゃくちゃ恥ずかしい気がするんだが、え、大丈夫だよな?
ま、まぁ、この件についてはおいおいまた尋ねていくとして。
流石にこれをばっくれるわけにはいかないし、行くしかないよな、部活。
それに無視して万が一その映像とか流出されたらたまったもんじゃないし……。いやそんな映像無いとは思うんだけどね?
明日以降、三者面談期間であり残す登校日は終業式のみ。
窓の外へ耳を傾ければ蝉が騒ぎ、目を向けてみればじりじりとした日差しが容赦なく降り注いでいた。
いよいよもって、夏休みが近づいてきたなと実感する。
まぁ、しばらく部活行くために学校には来ないといけないんですけども。
ただ夏休みには渡良瀬も帰ってくる。
高校初の長期休暇、果たして俺にとってどんなものになるのか。
とりあえず俺はインドア派なので、基本的に家に引きこもってゲームでもしとこうかなと思っている。
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