第12話

 いよいよ、作戦決行日。現在時刻は午後六時三十分。既に全員がルークの部屋に集まっていた。早めに集まって最終確認をしよう、と昨日ルークから連絡が入ったんだ。


「じゃあ、作戦を確認するよ。まずは警備員になりすまして潜入し、二手に分かれる。ルークは一階警備室、セーラちゃんは二階の展示室Fへ」


 うん。そこまではオッケー。難しいことはない。本当の難所はここから先の動きだ。


「僕が警備システムをハッキングでダウンさせるから、ルークは警備員や警察の足止め。セーラちゃんはネックレスを奪還する。今回、詐偽の証拠を掴むのにこだわる必要はない。ターゲットはあくまでもネックレスで、無事に脱出して戻ってくることが最優先事項だと認識して欲しい」


「おう」


「了解」


「状況はこちらでも把握に努めるけど、インカムで報告もしてくれると助かるな。てなわけで……はい」


 カレンさんがリュックサックからウエストポーチを二つ、取り出した。焦げ茶色のそれは革製で、頑丈な作りであることが分かった。デザインはルークとお揃い。飾り気はなくてシンプルだけど、むしろそれが大人っぽくてかっこいい。


「開けてみて、開けてみて!」


「うん」


 入っていたのは小さな銃と、プラスチックのケースだった。中身は……ピッキング道具だ。必要なものは一通り揃っていて、かなり本格的。


「すごいな。これ、もしかして……」


「そ。任務遂行に必要な道具だよ。小さい銃には睡眠ガスを詰めた弾丸が入ってるの。切り替えれば、ワイヤーを撃つことだってできるんだから」


「ワイヤーはギリギリまで細くしてあるけど、100㎏くらいなら余裕で耐えられる強度だ。長さもあるし、安心して使って」


 す、すごい……。そんな機能があるんだ。小さい見た目のわりに、ずっしりと重たいのも納得。


 全体に施された細かなバラの彫刻がとてもかわいらしくて素敵。ルークのとは微妙にデザインが違うようだ。


「グリップが握りやすくていいな」


「でしょう? 手の大きさに合わせてるの。手袋しながらでも扱いやすいように、素材も変えたんだ」


 さすが、細部までこだわるカレンさん。本部から支給された道具をカスタムするってこの事だったんだ。


「はー。すごいな。二人とも、ありがとう」


「使いこなせるように、頑張る」


 ピッキング道具はともかくとして、銃はゲームセンターにあるようなものしか、触ったことがない。構え方とかエイムの合わせ方とか、てんで分からないことだらけ。


 でも、ここまでしてくれたんだ。付け焼き刃でもいい。やれるだけやりたい。


「よし、そろそろ準備する時間だな。オレたちは着替えてくるよ」


 ルークがポーチを持ったまま、立ち上がる。

 もうそんな時間なんだ。なら、私も行かなくちゃ。


「そうだね。はい、衣装」


 優しく微笑むカレンさんから小包を受け取った。



 着替え終えて部屋に入ると、ルークはすでに戻ってきていた。カレンさんと対面して、何かしてるみたいだけど……何だろう?


 ショウマさんはその様子をマジマジと眺めている。


「何してるの?」


 声をかけると、ルークがくるりと振り返った。


「あれ? 雰囲気、少し変わったか?」


 良いじゃん、とニカッと笑う。


「うん。装飾とか細かいところ、少しいじったから。そっちも、着こなしてるね」


 前のは、どちらかと言えば衣装に着られてる感も否めなかった。ルークだし、そんなものかなって思ってたけど、撤回。


「ありがとな」


「ルーク君。ちょっとこっちに顔戻してくれる?」


「おう。悪い悪い」


 本当に、何してるんだろう?


 ルークの後ろから覗き込んでみると、カレンさんの手には大きなメイクブラシが握られていた。周辺にはファンデーションやらスタイリング剤やらが散らかっている。


「わざわざ、ヘアメイクもするの?」


 どうせ顔は見えないし、任務中に崩れたりしちゃいそうなのに。


「ここまできて手抜きなんてしないんだから。はい、ちょっと上向いて」


「これ、見てて面白いんだよ。どんどん化けてくんだ」


 そ、そうなんだ。でも確かに、されるがままのルークっていうのは新鮮かも。

 そうしてショウマさんとメイクアップショーを眺めること数分。


「――はい。完成」


 鏡を渡されたルークは、写り込んだ自分の姿に驚きの声をあげた。


「ほえ~。変わるもんだな」


「うっすらとしただけでも、印象違うでしょ? さ、次はセーラちゃんだね」


「あ、うん」


 ルークと入れ替りで、カレンさんの正面に座る。

 メイクなんて初めてで、少し緊張するな。


「よし。じゃあ、失礼しまーす」


 パフが肌にファンデーションをのせていく。ブラシがまぶたと唇を彩る。そしてメイクを完成させたカレンさんは私の髪に手を伸ばした。


 まだ鏡は見せてくれないようだ。自分がどうなっているの分からないから、ドキドキが増していく。


「……よし、完成。どうかな?」


 後ろでパシャリと音がして、スマホを手渡された。


 編み込みのシニヨンだ。一緒に編み込まれた紫色のリボンがかわいらしい。かつ、どことなく上品さが漂っている。鏡で確認したメイクも、いつもより目鼻立ちが強調されて、目を引くような雰囲気がある。


 すごい。短時間でこんなに変われるんだ。


「……かわいい、と思う」


「でしょ? 我ながら完璧!」


 カレンさんは胸を張った。


 うん。誇張でも、自画自賛でもない。カレンさんはやっぱり、多才ですごい人だ。


「ありがとう」


「どういたしまして。さ、準備しよう」


「そうだね。はい、これは僕から」


 えっと、インカムと小型カメラとそれから……スマートウォッチ?


 取りあえず着ければいいかな。


「カメラは襟の辺りで……うん。その辺。動作は……問題なさそうだね」


「……このスマートウォッチみたいなのって何?」


「見たまんま。スマートウォッチ。ちょっと改造したけどね。インカムのチャンネル変えたり、画像送ったり、色々できるんだよ」


 またでた、改造。もはやショウマさんとカレンさんの十八番だ。


 ……もう、驚かないんだから。


「ちなみに、それとパソコンを繋げば簡単なデータ解析が可能だし、スキャナー機能で内部を透過することもできる」


 嘘でしょ?


 どこに、そんなにたくさんの機能を詰め込んだの?


 改造のレベルが全然ちょっとじゃない。


 呆然としている私を見て、ショウマさんはニヤリと笑った。


「その顔が見たかったんだよね。頑張った甲斐があったよ。ね、ルーク」


 ルーク?


 どういうことかとルークの方を見れば、いたずらが成功した小さな子供みたいな顔をしていた。


「いや、セーラが驚く顔がみたいって話になって、黙ってたんだけどさ。これの開発、オレも関わってるんだ」


 ほんの少しだけだけどなって、ルークは肩をすくめた。


「機能のモニターに、提案にって色々してくれたじゃないか。結構、助かったよ」


「最近、やたらとショウと一緒にいるなって思ったら、そんなこと企んでたのね」


 呆れた様子のカレンさんをよそに、ルークたちは楽しそうに拳をつきあわせている。


 本当、子供みたい。


 ルークはともかくとして、ショウマさんにこんな一面があるなんて知らなかった。


「て、こんなこと話してる場合じゃない。早く向かおうぜ」


 時計に目を向けると、予告の時刻まであと一時間と少しだった。


「そうね」


「気をつけてね」


「健闘を祈るよ」


 カレンさんたちに見送られて、部屋を出る。そして玄関に着くと、ミシアさんが私たちを待っていた。


「母さん」


「いよいよね。自信を持って、頑張ってきなさい」


 フワリと爽やかなシトラスの香りと、穏やかな温かさに包まれる。


「はい、頑張ります」


「ありがとう、母さん」


 その温かさに一瞬だけ浸り、私たちは家を出発した。

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