第10話

 着替え終わった私たちは部屋に戻って、衣装をカレンさんに返した。


「んじゃ、本題に話を戻すぞ。ターゲットの情報共有は終わってるから、次は作戦を練っていく。ショウマ、カレン」


「はーい。これ、美術館の見取り図ね」


 カレンさんが一人一人に資料を渡す。どこにどの部屋があるのかはもちろん、通気口の通り方や、監視カメラの死角まで、いろんな情報が載っている。


 ……こういうのって、そう易々と手に入る情報じゃないよね。


「よくここまで調べ尽くせるな」


「それは、ショウマが頑張ったのよ。ね、ショウマ」


「うん。まあ、そこまで難しくもなかったんだけどね」


 誇らしげに笑う二人に、私とルークはおいてけぼりだ。まあ、何をしたのかは察しがつく。パソコンはお得意のようだし。


「それでね。ネックレスがあるのは二階、中央の部屋。当然セキュリティは厳しいよ。警備システムにプラスして、当日は警備員も増やされると思う。あたしたちの予測では、二十人体制になるかな。警察を呼ばれればもっと増えるかも」


 に、二十人……。


 あの小さな博物館にしては、ずいぶんな人数。そこに、警備システムも加わるんだから、隙なんてどこにもなさそう。ルークも顎に手を当てて、厳しい顔をしている。


「そこで、君たちには二手に分かれてもらいたい」


 ショウマさんが、ぴっと指を二本立てた。


「メイン実行のセーラちゃんは、ターゲットに集中。確実に持ち出す。補佐であるルークは、警備室を無力化。その後、これは出来ればなんだけど、投資詐偽の証拠を入手して欲しい」


「証拠か……。そういうのってパソコンに入ってたりしないのか?」


 ルークの言い分はもっともだ。大抵の場合、情報の管理や保存はパソコンでする。この見取り図みたいにね。でも……。


「その可能性は、今回は無いと思う」


 もしサーバーで管理していた場合、ハッキングで外部から覗かれる可能性がある。その情報を人質に、金銭を要求されるかも。最近は、そういう事例が増えてきたって聞く。本当に大事な情報だからこそ、紙媒体もしくはUSBに保存して手元に置いておくはずだ。


「まあ、サーバー管理なんてしてたら、あの手この手で僕が情報を抜き取ってるよ。覗いてみたけど、そんな感じの情報、見付けられなかったんだよね。旅行先の写真とか、運営方針の資料とかばっかりで。つまんなかったなぁ」


 やれやれ、とショウマさんは肩をすくめた。


 も、もうやってみてたんだ……。しかも、つまらなかったって……。


「そ、そうか。だとしたら、どこに保管してると思う?」


「普通に考えるなら、自宅か……ここじゃない?」


 一階にある館長室を指差す。


 大事なものは手元に、目の届くところに置きたがるはずた。そして尚且つ、他人がむやみやたらと触れない場所。


「うーん。どっちだ」


「館長室は探してみても良いんじゃないかな。見つからなければ見つからないで」


「……分かった」


 カレンさんの提案に、ルークは曖昧に同意した。

 納得はしてないんだろうな。あれだけ厳しい顔して、資料を睨み付けてたんだもの。


 本当、正義感が強いんだから。


「別に、情報が持ち出せなくても不正は明るみになる」


「え?」


「マリアスがここまで情報を提示してるなら、ある程度の証拠は揃ってるってこと。決定打に足りないだけで。私たちが動くことで、なぜそのネックレスが狙われたのか捜査されるでしょ」


 そうなれば、自ずと詐偽の情報にもたどり着くはず。警察だってバカじゃないもの。


「僕たちがやるのはあくまでもパフォーマンスだからね。警察が捜査に乗り込む口実をつくれればいい」


「そうそう。だからこそ、みんなで成功させようね!」


「――おう!」


 今度こそルークは力強く頷いた。


「それで、そのために一番重要なのが警備体制の無力化だ。ハッキングを仕掛けようと思ってるよ」


 また、とんでもないことを。情報を盗み見るよりも難しそうなのに。ショウマさんって、コンピューターに関わることならなんでもありだ。


「ただ、僕ができるのはシステムダウンもしくはプログラムの書換まで。あとはルークに任せるよ」


「ん? ――ああ、そういうことか」


 なるほど。いくらシステムを乗っ取れたとしても、警備員たちのことはどうしようもない。いくらハイテクな世の中になっても結局は、といったところだ。


「二人の当日の行動は、全く別になる。ルークのナビゲーション係はカレン」


「分かった。よろしくな、カレン」


「セーラちゃんは僕。会ったばかりで、背中を預けるには心もとないだろうけど……」


 ショウマさんは申し訳なさそうに言った。

 全然、そんなことないのに。確かにお互いのことはまだよく知らない。それでも、頼りになる人だってことはこの短い期間でも充分に分かった。


「――信頼してる」


 手を差し出すと、ショウマさんはじっとその手を見つめた。そしてふわりと頬を緩める。


「うん。ありがとう」


 握り返された手は、思いのほか大きかった。


「じゃあ、作戦の説明に入るよ。まずは侵入経路なんだけど……」


 ショウマさんの説明に、しっかりと聞き耳を立てる。そして、あーでもないこーでもない、とみんなで細部を練っていく。


 会議は踊りに踊って、気がつけば夕方になっていた。


「……こんなもんか。あらかた決まったな」


「そうだね。詰めるべきところは詰めたし、あとはいつ決行するか、だ」


「そうだな……」


 ルークはスマホを取り出して、カレンダーのアプリを開いた。


「カレン、必要な道具が一式そろうのはいつだ?」


「んー、来週の水曜日か木曜日かな。土日に入る前には、確実に」


「なら、ちょうど一週間後の土曜日、夜九時にしよう。それでもいいか?」


 もちろん。


 私たちは頷いた。自分たちが怪盗だっていう事実が、急に現実味を帯びてきた。


「じゃあその手はずで。ショウマ、予告状を頼む。名義は……マリアスで」


 ルークはチラッと私を見て、言った。

 え、なに?


「ふふ。任されたよ」


 それにショウマさんが心得たように笑うのだから、意味が分からない。カレンさんもニコニコしてるし、私だけが置いてけぼりを食らってる。


 別に、気にしないけど。

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