第45話 霊界へ行こう
死神さんに続いて、俺たちも駅の中へと入って行く。
死神さんは切符なしで改札を、足を大きく上げて跨るようにして通り抜けた。俺たちは普通に切符を買って改札を抜ける。そのまま俺たちは死神さんに続いて、駅のホームへと来た。
もう時刻は二十一時で、あと数時間で終電だ。ホームにはまだ数人、人がいたが、死神さんのことは見えていないようだ。さっきも切符なしで改札を通り抜けていたし、やはり死神も、怪異と同様に普通の人には視認できないらしい。
「死神さん。これからどこまで行くんですか?」
と、俺がホームに立つ死神さんに横から訊いた。
死神さんはきょとんとした顔で返す。
「どこまでって、もちろん霊界ですよ?」
「……いや。ここからどこかの駅まで行って、霊界に行くんじゃないんですか?」と俺。
すると死神さんはにこりと笑い、線路側へと体を向けた。
「まあ、見ていてくださいな」
そう言うと死神さんは左手を自身の顔のあたりまで上げ、印いんを結んだ。そして―。
「『天より見守りし神々よ、今ここに、現世の我々を黄泉の国へと導きたまえ』」
……と、死神さんは呪文?のようなものを唱えた。 すると、
スッ―。
あたりは急に薄暗く重い空気に包まれ、なんとなく周りの景色から明かりが薄くなったというか、暗くなったように感じた。
周りを見回すと、俺たち以外、さっきまでいた他の人たちが消えている。
「……いったい何が起こったんですか?」
レイが辺りを見回しながら死神さんに訊く。
死神さんは背を向けたまま両手を背中でくみ、答えた。
「ここは境・界・です。簡単に言うと現世と霊界を繋ぐ中間地点みたいなものですかね。霊界へ行くには今からやってくる霊界列車に乗車しなければなりません」
「……霊界列車?」と、静原さんが呟く。
すると―。
ぷォォォォーんっ!!!!
「!?」
死神さん以外、俺たちは急に鳴った大きな音に、思わず驚いた。
その音はまるで列車の汽笛のような音で、線路に続いたトンネルの向こうから聞こえた。
すると徐々に、ガタンゴトン、ガタンゴトン―と、音を鳴らしながらこちらへ向かってきている。そして―。
シュー―。
やがて列車は俺たちの前に停車した。
「……こ、これは」
俺は目の前のその列車を見て、思わず声が漏れた。
死神さん以外、みんな開いた口が塞がらないようだった。
その列車は、言われてみれば確かに列車だった。ただ、その見た目が問題だった。俺たちが今まで見てきた一般的な列車とは、はるかに違っていたのだ。
列車の頭には鬼のような大きな顔がついており、角まで生えている。目はギョロリと動いているし、まるで生き物のようだった。車両は全体的に赤と黒で装飾され、窓からは何やら異形な影がうごめいている。おそらく乗客だ。
まあとにかく。その列車は俺たち人間が見るには異形的すぎて、恐怖さえ覚えるほどの見た目だった。
今まで漫画や映画などフィクションの世界でこの手の代物は腐るほど見てきたけど、実際に目の当たりにすると、さすがに怯む。
俺たちがしばらく奇異な目で列車を見ていると、突然列車からスピーカーを通した車掌さんらしき声が響いた。
『えー、人間界、人間界ぃーですっ。えー、お降りのお客様は足元にぃ、ご注意願いぃますっ。えー、まもなくぅ、霊界、
随分とクセのある言い方だ。
すると死神さんは列車の扉から中へと入り、俺たちに手招きした。
「ささ。皆さんも早く乗ってください。これに乗り遅れると次来るまで随分待ちますよ!」
それを聞いて、俺たちも慌てて列車の中へと入った。
全員乗ったのを確認した車掌さんらしき角の生えた怪異は、扉を閉めて再びスピーカーを通して声を出した。
『えー、発車いたしぃますっ』
*
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン―。
霊界列車に乗ってから二分ほどが経った。外がまだ薄暗い境界内を走っているからか、車内は薄い暖色の灯りが灯されており、どこか暖かみを感じさせていた。
俺たちは対面式のボックスシートの席に、向かい合った状態で五人で座っている。
進行方向側に、静原さんとレイ。その向かいに死神さんを挟む形で、俺、死神さん、光助くんといった感じで座っている。ちょっと窮屈だけど、仕方がない。
「……」
俺があたりを見渡すと、霊界列車だから当然なんだけど、怪異がたくさん乗車していた。首の長い怪異や、目の大きな怪異、天井に頭がつきそうなくらいの背丈と図体が大きな怪異など、とにかく色々な怪異がいた。これほどたくさんの怪異が集まった空間にいるのは初めてなので、落ち着かないし、あと、ちょっぴり怖い。
すると、そんなこと気にもしていないように、窓側に座っていた光助くんが死神さんに声をかけた。
「霊界列車って、案外乗り心地いいんすねー!椅子もフカフカだし!」
笑顔な光助くんに、死神さんはにこりと返す。
「ハハハ、そうでしょそうでしょう?霊界に住むものとしては、そう言ってくれると嬉しいですよ」
死神さんも楽しそうだ。
そして、少し間が空いてから、次はレイが死神さんに声をかけた。
「……ちょっと聞きたいんですけど、死神管理局というのはなんなんですか?俺は名前だけ聞いたことはありますが、あまり詳しくなくて」
おっと。それは俺も気になっていたやつだ。
レイがそう訊くと、死神さんはシルクハットのツバを指で軽くつまみ、ネクタイなど身だしなみを軽く整えながら答えた。
「我々、死神管理局とは簡単に言うと、主に現世と霊界との均衡を保つことを目的とした組織ですね」
まだ列車は境界を走っているため、外は暗い。死神さんはそんな暗い窓の外を眺める。窓には境界を眺める死神さんと俺たちが反射して映っていた。死神さんは窓から境界を眺めながら、話を続けた。
「現世は狭いですからねぇ。あまり生物が現世に溢れすぎてしまうと、現世にも場所がなくなって大変でしょう?だから僕たち死神が、現世で生きる人たちの運命を操作するなどして、事故と見せかけたり、時には自分で手を下したりして命を奪い、現世から魂の数、まあ言い換えれば生物の数を調整しているのですよ。あっ、あと時には悪霊が暴れて収拾がつかない時など、緊急で戦闘員的な役割も担うこともしばしば。まあ我々死神は他にも色々と、霊界や現世関連の事務処理や作業も多いですけどね」
「……」
それを聞いた俺たちは、少し唖然としていた。
……つまり、世の中で起きる不幸な事故や、不可解な死は、死神が絡んでいることもある、ということなのか?
そう聞くと、ちょっと複雑な気持ちになってきた。
……。
……まあ、でも、それが死神さんたちの仕事なんだから、俺たちがそれを責めるのも違うか。
現に死神さんたちが働いてくれているおかげで、俺たちもこうして生きているのだろうし。
……。
しばらくなんとも言えない沈黙が流れた気がするが、それを遮るように、また車掌さんの声がした。
『えー、まもなくぅ境界を抜けぇ、霊界へと入りぃますっ』
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