第41話 カゲロウ御一行:其の一
青い空が広がる昼間、神堂真宅にて―。
夏休みに入り、学校もしばらく休みとなったのだが、優等生である真は何かと忙しく、今日は午前中に軽い仕事を終わらせて、数時間前に学校から帰ってきたところだった。
そして今、神堂真は自宅の自室にいる。そしてその部屋には今、真を合わせた〝四人〟の集団が集まり、部屋の床に無造作に束ねられたトランプカードを中心に、円になって座っている。
「ハイー!上がりでぇーす!」
トランプをしている彼らのうちの一人、カゲロウが一番乗りで上がった。
すると、金髪の髪を頭の後ろで一本に束ねて括った、いかにもチャラそうな雰囲気を醸し出したメガネの男が、それにストップをかけた。
「カゲロウ、キミ、イカサマしたね?」
金髪の男に煽るような顔で言い寄られたカゲロウはしらばっくれた顔をする。
「何を言うのです?負け犬の遠吠えですか?」
「言うねー!燃やしてやろうか?」
カゲロウの挑発にのった金髪男を、背中まで伸ばした長い白髪で、全身真っ黒のコートを着た男が、横から落ち着いた口調で抑える。
「おい、見苦しいぞ〝九尾〟(きゅうび)。たかがゲームだろ」
九尾と呼ばれた金髪男は、白髪男に反論する。
「〝鎌鼬〟(かまいたち)。キミはゲームを舐めすぎているよ。ゲームだろうがなんだろうが真剣勝負っしょ!」
鎌鼬と呼ばれた白髪男は、はいはい、といったようなダルそうな態度で聞き流す。
そんな三人のやり取りを見て、はぁ……とため息をついたのは、学校帰りから制服を着用したままの神堂真だった。
「もういい、お遊びはお終いだ」
と、真がトランプをやめて床の上に両腕を枕替わりにして寝転がると、突然、部屋のドアがとんでもない勢いで、バタン!と開かれた。
「マコトぉー!ジャジャーン!アイス買ってきたよー!」
ドアを開けて高らかな声で入って来たのは、真と同じ学校の制服である、セーラー服を着用した、黒髪ボブヘアの女子高生だった。彼女は真の付き添いでさっきまで一緒に学校に行っていたため、制服を着ていた。
つい先ほど、この部屋で真が部屋のクーラーのスイッチををつけたばかりの時、「暑いなぁ」と呟いたのを聞いた彼女は、「暑い?ならちょっと待ってて!何か冷たいもの買ってくるわ!」と、急にすんごい勢いでこの部屋を飛び出していった。その彼女がたった今帰ってきたのだ。
そんな彼女に真は眉を寄せる。
「〝
「さっきマコトが暑いって言ってたから私、爆速でコンビニ行ってアイスを買ってきたの!あっ、もちろんマコトが好きなチョコミントアイスを買ってきたよ!はい、マコト!」
甘井と呼ばれた黒髪ボブヘアの女子高生は、真に満面の笑みで買ってきたアイスを差し出した。
だが、真は珍しく動揺した。チョコミントアイスを選んで買ってきた甘井に。
「……いや、なんで僕がチョコミント好きって知ってるんだ?……言ってなくないか?」
そんな真に、甘井は当然と言わんばかりの自信に満ちた顔を浮かべて、胸を張る。
「そんなの言わなくてもわかるわよ!だって私はマコトのことならなんでもお見通しだもん!喋り方や仕草、歩き方や誰かと話す時とか、ご飯食べている時や就寝時間とかその他諸々!マコトの普段の日常生活のことを見ていれば、それくらい簡単に分かっちゃうんだから!私のマコトへの愛を舐めないでよね!」
その一連の言葉を聞いた真は珍しく、人に恐怖を覚えた。甘井の言っていることは典型的なストーカーのそれだ。
っというかコイツなんで就寝時間まで知ってんだ?マジ怖い。
真は返す言葉も見つからなかった。
「ああ、そうか……。まあ、アイスは食べたいと思っていたところだ。お前もたまには役に立つな」
随分と上からな態度だが、甘井はそんなことは気にせず、真に褒められた甘井は、満面の笑みでデレデレし出す。
「もう!マコトったら素直にありがとうって言ってくれればいいのにぃ!恥ずかしがり屋さんなんだからあっ!」
甘井はアイスのカップの蓋を開けて食べ出している真に勢いよく抱きつき、頬にキスをしようとしたが、真はそれを無言で甘井の顔面を片手で掴み、力強く抑える。もはや真は甘井の扱いが荒い。と言うか雑である。
横から九尾が口を出す。
「俺たちの分は?」
それを聞いた甘井は、真に顔を抑えられたまま、キョトンとした顔をする。
「え?マコトのしか買ってきてないよ?なんで私があんたら怪異なんかにアイス買って来なくちゃなんないのよ」
甘井の冷ややかな挑発に、九尾が笑顔で顔の血管を浮かび上がらせた。
「キミぃ、喧嘩売ってんのかい?」
それを鎌鼬が気だるそうに抑えた。
カゲロウに力を与えられ、怪奇妖術を使えるようになり、それに加えて霊力が視えるようになった真は、いじめられていた彼女をたまたま目撃し、彼女から人並外れた霊力を感じた。
それを見た真は、二階堂らから黒龍石二つを奪う戦力になると企み、彼女をいじめから救い、仲間に引き入れた。
香織は昔から自身の力のことや怪異の存在は認知していた。だが、幼い頃に両親が離婚しており、今は父親と二人で暮らしているが、父親は酒に溺れて自分に八つ当たりされる日々。おまけに学校ではいじめを受けるという悲惨な人生を歩んできたため、今まで基本一人だった彼女は、元々臆病な性格もあり、力を使う勇気すら持てなかった。だが、真と出会ったことにより、彼女の中の何かが変わっていった。
以来、香織の中では自分をいじめから救ってくれた真のことが、白馬に乗った王子様のような認識になっていた。それもあり、香織は真の計画を喜んで協力すると言っている。彼女にとってはもはや真の願いは自分の願いである。
だが無論。真は彼女に特別な思いなどこれっぽっちも抱いていない。切なくも所詮、真にとって香織は計画に利用するだけの駒なのだ。
なんにせよ。二階堂たちから黒龍石を奪うためのカゲロウたちの戦力は、すでに揃っていた。
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