第14話 北島さんの頼み事

 廃工場での一件が終わり、それからしばらく経った。

 俺は学校帰りにいつものように二階堂屋敷へと向かって山を登っている。最近霊力の使い方にも慣れてきて、本来の体力面で足りないものを、霊力で補うことができるため、体力も面白いくらいに続くようになった。

 ここだけの話、体育の授業も最近調子が良い。霊力を利用しているから、ドーピングみたいなもので完全にズルだけど………。

 

 太陽が輝く雲一つない空の下。

 もうそろそろ夏が始まる頃だ。気温も最近徐々に上がりつつある。

 


 ガチャッ。


 屋敷の中の俺の部屋のドアを開けて、自室に戻った。俺はこの二階堂さんの屋敷で住み込みでバイトをし初めてしばらく経つが、もう生活にもすっかり慣れてきた。俺の部屋の中は小さく、部屋の奥にはベッドが置かれている。他にはベッドの横に小さな本棚があり、趣味のラノベなどの小説が並んでいる。

 「ふぅ。やっと今日も学校が終わったぁ」

 俺は一人そう呟いて、ベッドの上にバタンキューした。

 「さてさて、最新刊を読もうっと!」

 俺は本棚から今読んでいるラノベのまだ未読の最新刊に手を伸ばした。が、間の悪いことにスマホにメールの通知が入った。

 「人が真剣に娯楽に向き合おうという時に一体誰だ?」

 俺は趣味の時間を邪魔され、半分不機嫌になりながら通知の画面を見る。

 そのメールの送り主はレイだった。

 内容は『今すぐ大広間の部屋に来い』とのこと。はて、なんのことやら。メールの内容の意味が理解出来ずにいると、数秒もしないうちに続けてレイからメールの通知が来た。

 『上司の霊媒師の人から俺らに話があるらしい。早く来い』

 上司の人というのはこの二階堂屋敷で社員として働いている正式な霊媒師の人のことを言っているのだろう。前に聞いた話だと俺たちバイト霊媒師以外に社員の霊媒師の人もいるらしい。俺が初めてこの屋敷に来た時、二階堂さんに連れられ事務処理係の人たちに挨拶したことがあったが、ここで働いている霊媒師の社員の人とは特に接点はなかった。社員となると何かと忙しいためかあまり会える時間がなかったのだ。(霊媒師は国から直接設立された組織だが、霊媒師も一種の会社経営みたいなものだ。なので社員という言い方をしている。形的には二階堂さんが霊媒師として国から雇われており、二階堂さんは霊媒師の職を行っている。よってその二階堂さんが雇っている社員やバイトも、国から雇われているといった見方になる。)

 

 レイからのメールを見て、いったいなんの話があるのかとよく状況がのめずにいるが、とりあえず向かうことにした。



 自室を出て、床が木材でできた廊下を歩く。

 二階堂屋敷の大広間は、俺の部屋から歩いて俺の部屋の隣にある三つの部屋を通り越した後、突き当たりを左に曲がったところにあるトイレの、すぐ隣に位置する。

 この二階堂さんの屋敷はとにかく広い。静原さんは自宅から出勤しているが、俺とレイはこの屋敷に住み込みで働いている。俺たち以外にも事務処理の人など何人か住み込みをしているらしく、とにかく部屋がかなり多い。

 屋敷に来てから結構経つのだけど、この広くて部屋が多い上に迷路のような屋敷であるために、俺も未だに迷うことがある。


 部屋に向かう途中、何やら大広間の方向から声が聞こえてくる。二階堂さんの声だ。

 そして大広間の廊下の襖前に立ち、恐る恐る襖を横にスライドさせて中へ入る。

 「失礼します………」

 「おっ、来たね。飛鳥」

 二階堂さんがいた。

 そして部屋の中には二階堂さんの他にレイと静原さんもいた。たぶん静原さんは俺と同じく学校が終わってから呼び出されたのだろう。そしてもう一人、三十代後半から四十代くらいの男がいた。見た目の特徴はスキンヘッドで長身。丸メガネをかけており、目つきが悪い。黒い着物を着ている。ちょっと強面な感じがしたが、その男は正座をしていて背筋の姿勢もとても綺麗だったため、どこか真面目で社会的正義感も強そうなしっかりとした大人、という印象がある。

 

 そして、その四人は輪になって座っている。

 俺はよく状況がわからないので恐る恐る聞いた。

 「えっと、こんにちわ。………なんの用ですか?」

 俺の問に二階堂さんが返す。

 「実はちょっと飛鳥とレイと氷花の三人に頼みがあってね。まあ座りなよ。はい、北島きたじま!説明よろ」

 俺も四人の傍に寄って座る。そして北島と呼ばれたスキンヘッドの男は、「はいっ」と礼儀正しく返事をし、俺とレイ、静原さんの三人に顔を向け、口を開いた。

 「どうも。私は北島守きたじままもると申します。ここの屋敷で社員として霊媒師をさせていただいております。竜崎君は知っていると思いますが、火野君と静原君は初めましてですね。どうぞよろしく」

 なんとも律儀で礼儀正しい人だ。

 俺と静原さんもすかさず挨拶をする。

 「いえいえこちらこそ。火野飛鳥です。よろしくお願いいたします」

 「静原氷花、……です。……よろ、よろしく、お願いします」

 軽い挨拶も終わると、レイが付け加える。

 「ちなみにここで働く社員霊媒師の人は北島さん含め五人だ。北島さんもここで住み込みで働いていて、ここの霊媒師の中では一番まともで頼りになる人だ。事務の人たち以外はだいたい癖の強い人たちばかりだからな」

 「そ、そうなんだ………」

 俺はちょっと動揺した。霊媒師って、まともな人少ないのか………。と。たしかに二階堂さんもいい加減なところが多い性格だし、正直、真面目でまとも、と言える人ではないもんな………。

 

 二階堂さんは聞き逃さず冷めた笑顔でレイを詰める。

 「えっ、レイ?それ、私がまともじゃないって言ってる?ひょっとして喧嘩売ってる?ねえ?」

 北島さんが話を遮る。

 「それよりあなたたちに頼みがあります。最近悪霊の出没情報を得るのが困難になってきているのです。普通は一般人の方々からお祓いの依頼を受けたり国から直接受けたりすることがほとんどなのですが、ここ最近は時代の流れとともに悪霊も増加しつつあり、さらには悪霊にも特殊な能力が増えてきており、見つけ出すのが少々骨が折れる事態となっているのです」

 「なるほど………。それで、俺たちに頼みというのは?」

 俺が質問する。

 「ええ。そこで大昔からこの業界でちょっとした情報屋として知られる者に、力を貸していただこうと考えておりましてね。我々は何かと忙しく直接出向くことができないので、あなた方三人に、その者に協力を要請しに行っていただきたいのです」

 「なるほど………」

 なんとなく分かった。用はその情報屋って人に今後の悪霊探しを協力してもらうため交渉しに行ってほしいということか。


 「どんな人なんですか?その人」

 レイが北島さんに聞く。

 「ではありません。彼女は怪異です」

 「へ?」

 俺たち三人はほぼ同時に声を上げた。

 そして北島さんが続ける―。


 「皆さんもよく存じてあるかと思いますよ。その者の名は―」

 北島さんがニコリと口角を上げる。

 

 「です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る