第25話 責務

 とある部屋に通され、「しばらく待ってろ」とモリスから言われた。そのため、部屋にある長椅子に座ったり談笑したり。アレイン達は待ち時間をそのように過ごした。だが、カーザス達は違った。


「はぁ、また。ミシャ、何とかできないかな」

「いい加減不快。アルス、あなたが何とかして」

「なんで俺…嫌だよ。逆らったらダメな予感するし」


 誰かからの視線を感じる。それはスタッガード一家には既にわかっていた。だけど、その視線からでも感じられる、冷ややかな感覚。本来なら戦場でしか味わうことの無いはずの感覚だ。


(この視線の向ける奴は一体、どれほどの死線をくぐり抜けたんだ)


 するとモリスがやってきた。


「準備完了だとよ。ほらこいちび共。貴族たるもの先方を待たせるなよ」





 『連邦議会室』


 やたらと壮大に書かれた札を掲げている扉の前に俺たちはいる。


「連れてきました」

『入れ』


 扉が開く。すると、椅子に座る長官らしき人物と秘書の女性、そしてひたすら食べ物を貪るデブがいた。女子一同は絶句している。


「来たか。とりあえず掛けてもらおう」


 長官らしき人物が指を鳴らすと。長椅子が出現し、秘書の女性が手際良くクッションや座布団を出現した長椅子に配置する。カーザス達はまるで自分の家でくつろぐかのようにどかっと座る。


「またやってくれたね。俺たちのことも少しは考えてくれないかい?カーザス」

「いやいや、長官殿だからこそ事態の収集もつつがなく進行できるだろうと信用して問題を起こしてるんだよ」

「違う!!そもそも!!問題を!!起こすな!!」


 長官殿と呼ばれるその男は、机を叩きながらそういう。


「だがね。数々の戦場を共にしてきた君だからこそできることだろう?」

「それは君たちが起こしてきた問題は全部俺が処理したからであってね…!!」

「頑張れ、ハイマー」

「問題児筆頭格は黙ってろ!!!」


 ミシャはそう言われて少し傷ついたのか、固まってしまった。


「いや、そうじゃない…まあ、今回はここまでに至る事情を説明して、君たちの潔白が証明出来れば終わりなんだ」

「なら簡単だね。僕たちに毒を盛られて王子が勝手につっかかってきて自爆したんだ。これで終わりだよ。じゃ、僕は帰るね」

「あ、待てカーザス!まだ話は…」


 彼が言い終える前に、カーザスの姿は消えていた。


「ったく仕方ねぇ、ミシャ、君も───」


 ミシャも、姿が見えなくなっていた。


「…なあメルトリス、彼らを連れ戻してきてくれないかい?」

「不可能です。諦めてください」

「…あーもー!!!!」


 ハイマーは机を思いっきり叩くと、真っ二つに割るだけにとどまらず、こちらまでその衝撃が響く。メルトリスと言われたその秘書は、無惨にも割れた机を片付けた後に、どこからが全く同じ机を用意する。


「助かる…さて、君たちは建設的な話が出来ると、信用してもいいよね…?」

「アルス、ソノス、タレス、レネア以下4名は退室しました」

「…良くないよ、なんで事件の被害者が退室するのさ」

「なんでも鍛錬をするからであるとか」

「…胃薬を持ってきてくれ」

「在庫がありません」

「…治癒魔法で何とかできないか?」

「精神的影響の大きい痛みなので無理ですね」

「…なあモルガン、助けてくれ」

「自分で何とかしろ。俺の食事を妨げるな」


 ハイマーは項垂れる。そして姿勢を直し、アレインに視線を向ける。


「アレイン嬢、今回来てもらったのは他ならない、テレシアの処遇と、彼女がこの凶行に及んだ理由を話すためだ。モリスから簡潔に説明を受けただろうが、どうか気を強く持って聞いて欲しい」


 メルトリスは隣でその事実を淡々と聞く。こんなことなど、貴族社会ではありふれたこと。帝国ではそのような話は全く聞かないが、他国では呆れるほどの実例が存在する。


 貴族たるもの、怯えるなどあってはならない。

 常に尊大であれ。

 卑屈になったその瞬間から、汝は貴族ではない。


 幼少から耳が腐るほど聞いた貴族としての心構え。これを子が意を間違えて捉えることがないように親や傍付き、使用人が子を正しく導くことがこの国では義務付けられている。


(今回は、分家が独立した契約を結んだおかげで一族郎党打首、なんて事態は免れましたがね)


 今回の事件の全貌。


「テレシアの生家であるヴァルレイラ侯爵家の分家に当たるマレン子爵家が、件の王子の留学元であるカゼルシア王国と密契約を結び、テレシアとレクスを許嫁としようとしたわけだ。テレシアがなぜマレン子爵との密約に名が挙げられたのか、そしてなぜ彼ら言いなりになっているのかはまだ捜索中だが、いずれ判明するだろう。その時には、君を呼ぶことになる」


 アレインは固まる。


「シアは…どうなるのですか…?」

「…本来なら巻き込まれただけだから無罪、と言いたいところだが形式上処罰を与えなければならない。だがまあ、今回は被害者がスタッガードだからね。多分皇帝から直々に罰を言い渡されるだろう」


 この後少し話をした後、アレインは退室する。






「長官、何故そこまで知っているのです?」


 メルトリスはハイマーにそう尋ねるが、直ぐにハイマーは切り返す。


「俺の実家を知っているのなら、その質問は無粋だと思わないかい?」

「…そうでしたね。それで、なぜデブがここに?」


 メルトリスは冷ややかな目でモルガンを見やる。


「何、彼にはだけだよ」

「…そうですか」

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