第36話 不戦同盟
「瑠璃丘君、夕ご飯一緒に食べましょう!はい、これお茶です。瑠璃丘君はご飯の時にお水とお茶を飲むんですよね。実は私もそうなんです。あれ、奇遇ですね、これは運命ですかね」
「いや何でお前がそんな事知ってるんだよ。まあいいや、せっかくだし一緒に食うか」
夕食の時間になり、自分のプレートを持って適当な席に着いたところで、間髪入れずに鳳が来て隣に座ってきた。
あの力を見て周りのやつらは結構引いてるけど俺には別段敵意が無さそうなので、特に断る理由はない。というより情報はいくらあっても良いので、こいつの謎の積極性に関してはむしろ大歓迎ですらある。
「えっ鳳の同期率ってまだ25%なん?メチャクチャ強いからもっと高いのかと思ってた」
そして聞かされた鳳の同期率に俺はビックリ。俺でさえ50%超えてるのに、あの強さでまだ25%とは。こりゃ成長したら恐ろしいことになりそうだ。
「やっぱ星3ともなるとベースが強いんかなあ。でも制御が大変なんだっけ。高リスクハイリターンってやつか」
「確かに、力を使う時はかなりの集中力が必要ですね。でも私が暴走せずに力を使えるのは、瑠璃丘君のおかげなんです。いつも心の中で支えになってるんですから」
「お前、こんな頭にキモい花咲かせてるやつ心の中に住まわせんなよ。ほらよく見てみろ、この光の無い虚ろなマンドレイクさんの瞳を」
「かわいいです!私が一生お世話します!」
「ダメだこいつ…早くなんとかしないと」
そんな風に、情報収集をしながら話の通じない鳳の相手をしていると、そこにミッチーと塩原がやってきた。
「いやお二人ともお話し中に失礼。るりたそ殿、相席よろしいか?」
「あ、あのごめんなさい、私も…」
「ああミッチーに塩原、大丈夫だよ。ほれ、そこ空いてるから座んなよ」
対面の空席を指すとそこにミッチー達が座った。鳳はやけに睨んで威嚇してたけど、俺が「やめなさい」と言うと素直に従ってくれた。
「いやあ、申し訳ない。ももち氏が不在の今、拙者と交流があるのはるりたそ殿一人だけでして…。本当は他の方とも情報交換がしたいところなのですが…何分拙者はいわゆるキモオタ。なかなか話をしてくれる相手がいないのでござるよ」
ミッチーは悲しそうにそんなことを言った。
メガネに太った体つき。確かにテンプレみたいな見た目ではあるが、ミッチーは誰よりも心優しい男。そんなことはこの中で俺が一番よく分かっているのだ。
「いやいやミッチー。全然そんな事ないって、もっと自信持ちなよ。それに今隣には塩原もいるだろ、俺の他にもちゃんとミッチーの良さを分かってくれてるやつはいるんだから」
そう、俺はしばらく塩原を見ていたんだが、どうも塩原はミッチーの事を利用しようとか、そんな風には考えていないようだった。それどころか塩原の目には、感謝とか尊敬の念すら感じられた。
「そ、そうだよ水谷君。もっと自分に自信を持っていいと思うよ」
「るりたそ殿に塩原殿…。いやあ、不甲斐ない。拙者、精進いたしますぞ」
おどおどしながらも元気付ける塩原に、感激した様子のミッチー。そしてそれを冷めた目で見ている鳳。やめなさい。
「そういや塩原ってなんでミッチーに星あげたの?さすがに気前良すぎない?」
そして俺は疑問に思ってたことを尋ねた。ミッチー達も情報収集に来たんだろうし、俺も気になった事は聞いてしまおう。
「え、ええと…私が魔物に襲われていたところを水谷君が助けてくれたの」
「しかし助けたとは言っても、沼ゴブリンが三体程度でしたからな。運良く拙者でも何とか勝てた次第でござるよ」
「あ、あの時は本当に危なかったの。水谷君は私の命の恩人。だ、だから私は星をあげたの」
「なるほど…いやさすがミッチー、美談だねえ。女子のピンチに駆けつけるなんてヒーロームーブ、なかなか出来ないよなあ」
俺は腕組みをしながらウンウンと頷いた。ミッチーの懐の深さには恐れ入るばかり。そしてミッチーに対する塩原の高評価の理由も納得だ。お互いに恩人なんだな。ちゃんと恩に報いるあたり、間違いなくこの二人は善人なのだ。
「あれ、でもおかしくね?そんな弱いのに何で塩原はミッチーにあげれるくらい大量の星持ってたん?それに確か金星もあったよな。あれ、どっから出てきたんだ?」
「金星はクラスメイトの命ですよね。誰かを殺さない限り、手に入れることは出来ないはずですが…」
俺の疑問に、鳳が言葉を添えて鋭い目つきになる。威嚇するのはやめなさい。話が止まってしまうじゃないか。
「ヒッ…!あ、あああの、違うの。た、確かにあの金星は天使さんのだけど、彼女はハンターに殺されて、ハンターも天使さんに殺されたの。あ、相打ちだったの」
焦ってどもりながら答える塩原。確かに嘘じゃないみたいだけど、そんな偶然ある?
まあゴブリン3匹に叶わない強さであの星の量を考えると、辻褄は合うんだけど。
「るりたそ殿に鳳殿。塩原殿の言っている事を信じてくだされ。塩原殿は本当に優しい人なのです。それ以降はひたすら逃げて戦いを避けてきたのですから」
そのせいで塩原の同期率は一切上がっておらず、今でも初期値のままらしい。なるほど、昨日銀ソウル食って吐いてたのはそういう理由か。
優しいというより気が弱いだけな気もするが、確かにこの塩原がクラスメイトを殺せるとは思えないよな。
「そうだったのか、分かったよ。大変だったな。だけど塩原、ちゃんと同期率は上げといた方がいいぞ。いざという時頼りになるのは自分の力なんだからな」
「大丈夫です。瑠璃丘君がピンチの時には私が駆けつけますから」
やめなさい、今良いことを言ってるんだから。俺の言葉が締まらなくなるじゃないか。
「それでるりたそ殿、実は折り入って相談がありましてな」
「ん?どうしたのミッチー」
そして真面目な顔をしたミッチーが切り出した。
「では…実はここにいる4人で、不戦の同盟を結びたいと思っているのです」
「不戦…つまり戦わないってこと?いや俺はもともとそのつもりだけど、わざわざ同盟作るの?」
ミッチーから出された提案に、俺は少し大袈裟じゃない?と思ってしまう。
「いえ、意味はあるのです。確かに拙者とるりたそ殿は旧知の仲。ですが塩原殿と鳳殿は違います。しっかりお互いに不戦の約束をしておきたいのです」
「あ、あの…私からもお願い。ク、クラスメイトで争うのはやっぱり、その…良くないと思う」
そして塩原も不戦の意思を表明。ふうむ…確かにミッチーの言う通り。ちゃんと同盟を結んだ方が良いのかもしれん。無用なリスクは減らしておくに限るか。
「よし、俺は同盟に乗るよ。鳳はどうすんの?」
「瑠璃丘君が同盟を結ぶなら、もちろん私も入ります」
俺は賛同し、鳳も笑顔で即答した。なんとなく分かってはいたけど、鳳…さすがの瞬発力だ。
「感謝いたしますぞ、これで我々は…」
「よお、やってんな。俺らも混ぜろよ」
「どもどもー」
と、そんなところへ大破と赤羽もやってきた。
返事をする前にドカッと座る大破に対して表情一変、厳しい目を送る鳳。やめなさい。
しかし鳳、ヤンキー大破にこんな目を向けれるとは…こいつ本当に変わったな。前だったら絶対ビビって逃げてただろうに。
「何だよ鳳、何か文句あんのか?」
「いえ、別に…何でも無いですけど」
「アハハ…ほら小麦ちゃん大丈夫だって。大破君本当は優しい人だから、危害は加えないって」
ちょっとギスギスした空気を赤羽がとりなす。苦労してんな。大破は人相が悪くて口も悪いからな、フォローが大変そうだ。
俺が鳳の頭をパシンとひっぱたくと、鳳は何故か嬉しそうな顔で引っ込んだ。
「大破ナイスタイミング。丁度いいからお前も不戦同盟結ぼうぜ」
そして俺は話の続きを再開。大破はさして気にする様子もなく、横の赤羽も席に着いた。俺は不戦の同盟について詳しく説明した。
「不戦同盟か、確かにそりゃいい考えだな。どうせ水谷あたりが考えたんだろ、お前からは出てこねえ話だからな」
「オ、オゥフ…恐縮ですな」
「良く分かってんじゃん。ミッチーは優秀だから大破も仲良くしとけよ」
「ああ、みたいだな」
キョドるミッチーに頷く大破。大破はけっこう人を見てるからな、ミッチーとしては怖いかもしれんが是非仲良くなってほしい。なんだかんだ言ってミッチーも慣れるの早いから大丈夫だろ。
「でも試練の内容によってはこのメンバーで戦う事になるかもしれないんじゃない?その時はどうするの?」
「た、確かに赤羽殿の言う通り、そんな状況になる可能性もあります。当事者で話し合っても解決しない場合は不戦を破るのも致し方ないでしょう。しかしそれ以外の時には争う心配が無いというのは大きなメリットですからな。口約束とはいえ、同盟の意味はあるでしょう」
思ったそばからミッチーは二人に慣れたようで、赤羽の疑問にスラスラと答えていく。さすがだ、分かりやすい。確かに背中から撃たれる心配が無いのはでかいからな。
「よし、十分価値はあるな。俺も同盟に参加するぜ。赤羽はどうすんだ?」
「うん、私も入るよ。この先、なるべく協力していった方がいいもんね」
そして大破と赤羽も同盟に加わった。これで6人か、どうせやるならもう少し欲しいところだな。
「いやはや助かります、大破殿たちが加わって下されば百人力ですな。…あとはあの方が入って下されば頼もしいのですが」
「ああ、あいつね。どうだかなあ」
「え?誰のこと?」
俺たちの話に赤羽はピンときてないようだが、確実に敵に回したくない奴が一人いる。その能力を考えれば是非この同盟に加わって欲しいところなんだが、あいつはクセあるからなあ。
「ああ、あいつな。よし、俺が引っ張ってきてやるよ」
そこで大破が席を立った。大破も分かってるみたいで、ズンズンと進む。そして壁際でジョジョ立ちしていたそいつに話しかけ、半ば無理やり連れてきた。
「な、何をする!俺はまだ何も返答をしていないぞ」
大破が連れてきたのは、重度の厨二病野郎こと伊園
そう、何を隠そうこの厨二病が重要人物なのだ。
さっきのボーナスタイムで見せたあの鑑定能力。この何もかも初見の世界において、こいつの能力は非常に頼りになる。罠だって見抜けるし、優秀なアイテムを手に入れた時だって使い方が分からなければ生かせないのだ。
そしてこいつは人の能力も鑑定できる可能性がある。もし敵に回った時、全ての能力が筒抜けなのは危険極まりない。
「ど、同盟?な、なんだそんな事か、驚かせるな」
「いやすみませんぬ、少々手違いがありましてな。それでどうでしょう、協力して下さると助かるのですが…。ああもちろん花沢殿もご一緒に」
ミッチーは手早く伊園に説明し、一緒についてきた武人花沢にも誘いかけた。うむ、花沢も入ってくれれば脅威も一つ減るし、一石二鳥だ。
「フッ、俺の力が必要か…。いいだろう、俺もその
「うむ…では我も入ろうではないか」
そして伊園と花沢は迷いなく同盟に加わった。よし、これで大分安定するだろ。鑑定チートと筋肉チートだ。
「そういや伊園、お前って人間の鑑定も出来るん?」
「ああ、その者の名前と魔獣の能力は分かる。だが遠いと見えん。これくらい近くでないと情報がぼやけてしまうのだ」
「うへ、やっぱりな。鑑定チートじゃねえか」
「全く、うらやましい限りですな」
「フッ…讃えるが良い。これが選ばれし我が力、
なんだか調子付かせてしまったが、やっぱりこいつを引き入れて正解だったか。しっかり人間の鑑定出来るじゃねえか。だが味方になればこっちのもんだ、上手くおだてて鑑定しまくってもらおう。
「それではこれで8人ですな。む…どうやら他の方たちも我々の様子を見ていたようですし、秘密には出来ませぬな。皆さんにも誘いかけてみるのが良いでしょうか」
確かに、と俺たちが頷くと、何故か俺が代表で声をかけることになった。
ジャンケンが良かったのに、鳳が俺が言うべきだと謎の主張をかましやがったのだ。こいつ、絶対許さねえ。ああ面倒くせえ。
「あー、俺たちの話聞こえてたと思うけど、他に不戦の同盟に入りたいやついる?」
俺がやる気なく他の奴らに声をかけると、一名だけ名乗りをあげた。竹寺だ。
「うちも入れて欲しいわあ。仲良い子はおらんくなってもうたし、ずっと一人やったから寂しかったんよ」
「おう竹寺、入れ入れ」
「やったー!芳乃ちゃん強いから頼もしいよね」
嬉しそうに話す竹寺を歓迎し、これで同盟は9人。
赤羽の言う通り、竹寺のキノコ攻撃はかなり強力だ。範囲制圧は圧倒的にこいつの土俵だし、巻き込まれないようにここで不戦同盟を結べたのは良かったかもしれん。
他に名乗り出る奴はいない。
夜ノ森、一条は一人でスンとしてるし、尾野崎も入る気は無いようだ。そんな尾野崎にご執心の宇佐見、そしてお付きの力石も同様だ。
児玉と薄井たちは迷ってるみたいだが、結局申し出てこなかった。デスカトレイアは…あいつどこ行った?トイレか?
「オッケー、まあ気が変わったら言ってくれ」
そして一旦俺は締め切った。
俺、鳳、ミッチー、塩原、大破、赤羽、伊園、花沢、竹寺。
次の試練の内容にもよるが、とりあえずこの9人で協力していこうか。
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