第29話 第一休息所①


転送装置で俺と児玉達は無事に転移できた。誰一人欠けることなく揃っている。


そしてここは狭い小部屋。どうやら転送装置のためだけの部屋のようだ。

正面には扉があり、そこには「第一休息所」と書かれたプレートが掛けられている。

おお、日本語。ゴールとは書いてないけど、とりあえずここで間違いないようだ。


さて、普通に開けても大丈夫かね。

俺は児玉に目配せをした。だが児玉はコクリと頷くのみで動こうとしない。こいつ…俺が開けろって事かよ。

仕方ないので俺が前に進み、その扉を押し開けた。


ギイィ…


そんな軋ん音を立てて開けた扉の先は、ホテルのロビーみたいな大きな部屋だった。

カーペットが敷かれていて、ソファやテーブル、椅子なんかが並んでいる。シャッターが閉まってるけど洒落たカウンターもある。奥にもまた幾つか扉があるみたいだし、思ったよりも広そうだ。


「おお〜、何だか急に現代的になったな」


そしてロビーには数人の見知った顔がいて、そいつらはみんな扉を開けて入ってきた俺たちに目を向けていた。


「大破と赤羽と、城守と五反田、尾野崎に夜ノ森、あと一条か」


「そして僕たち3人。全部で10人…24人のうちの半分もいないんだ」 


俺が中にいるメンツを見ていると児玉がそんな事を呟いた。何言ってんだこいつ。


「いやうちのクラスは47人だろ。随一のマンモス校なんだから…そんなに少ないわけ無いだろ」


「いやペアで融合したんだから半分になってるだろ。24人だよ」


「えっ融合?なにそれ怖い」


「えっ」


「えっ」


…お互い顔を見合わせてしまった。そして俺のスタート状況を思い出したようで、児玉が転送される前に起きた事を嫌そうな顔で説明してくれた。

まさかそんな事になっていたとは…じゃあクラスの半分がすでに帰らぬ人ってか。なんつーひどい状況だ。


「えっ、それじゃ俺と融合したのって誰?奇数なんだから俺のペアいないじゃん」


「そんなの知らないよ。先生でも入ってんじゃないの」


そう冷たく児玉は言うが、確かにそれくらいしか考えられないか…。みどりん先生が俺の中に入ってるのかね。やだ…おっさんと融合とか萎えちゃう。


「やあ瑠璃丘君に児玉君、それと…薄井さんかな。良かった。君達も無事にここまで来れたんだね」


そんなことを考えていた俺に声をかけてきたのは、2-Bクラス委員長の城守 秀一だった。


「おっす委員長、委員長も元気そうで何よりですなあ」


「相変わらず君は緊張感がないな。まあそれが君の良いところなのかもしれないけれど」


そう言って委員長はメガネをグイッと直した。相変わらずこの委員長は真面目君だねえ。


「君の頭にあるのは…それは君の魔獣の力なのかな。面白い見た目だね」


「あ、これ?そう可愛いっしょ。ただ頭に咲いてるだけのマスコットなんよ」


やはり突っ込まれたマンドレイクさん。でも一応能力は隠しておきたい。この先何があるか分からんからな。


「ど、どうも。委員長も無事だったんだね」  


そこで児玉も話に入ってきた。丁度いいタイミングだぞ、お前も存在をアピールするんだ。


「ああ、何とかね。児玉君は瑠璃丘君と一緒だったみたいだし、運が良かったね」


「えっ、いや僕はこいつとは…。僕は薄井さんとこの二匹の仲間と一緒に行動していたんだ」


そう言って児玉は、薄井とグリとかいう獣人が見えるように横によけた。黒リスは児玉の肩に乗ったままだ。


「えっ、瑠璃丘君抜きでここまで来たのか…。そうか、なるほど。その強そうな獣…獣人は君の力で仲間にしたってところか」


「う、うん。あの…委員長はこのグリを見ても驚かないんだね。もっと警戒されるかと思ってたんだけど」


「ああ、ここには危険な魔物なんかは入れないようになってるらしいからね。あっちの掲示板のようなところに色々と書いてあったよ」


委員長が指し示す方向を見ると、確かに掲示板みたいなものがある。その隣の黒板には、『暴力禁止、窃盗禁止、性的行為禁止』という文言がデカデカと書いてあった。


「この場所のルールがいくつか書いてあるから、君達も確認した方がいいよ」


確かに情報は重要だ。後でじっくり見てみよう。


「それにしても委員長は一人でここまで来たのか?」


「いや、僕は途中で五反田君と合流して二人で行動していたよ」


ああ、なるほど。何で無能金持ちワガママ坊ちゃんの五反田がこんな早くにゴールしてるのかと思ってたが、委員長と一緒だったのか。


「なるほどね、大変だったな。それじゃ星集めも苦労しただろ」


「まあそれなりに大変ではあったかな…。いや、僕たちは星なんて持っていないよ。人を殺すなんて出来るわけが無いじゃないか」


「えっ、ハンターとやらにも出会わなかったのか?」


「会ったよ。攻撃もされた。でも僕が何とか無力化して、その場から急いで離れたんだ」


「もったいねえ〜。そいつの星取ればよかったのに」


「ちょっと君…もしかして人を殺したんじゃないだろうね。こんな時だからこそ道徳的な心を持つべきだろう?」


「あ、それはノーコメントっす。委員長さ、こんな状況でそんなこと言ってたら早死にしちゃうんじゃない?」


「なんてことを!大体君はいつも不真面目で…」


「あっ、俺ちょっと他の奴らのとこ行ってくるっす。掲示板も確認しないと」


「あっ、ちょっと瑠璃丘君!」


俺は急ぎ足で委員長から離脱した。頭カチカチのお相手は疲れちゃうね。あとは児玉が委員長の相手をしてくれるだろ。

俺は掲示板を見に行くのだ。あとトイレも行きたい。



「よう瑠璃丘、元気そうだな。お前は来ると思ってたぜ」


そんな俺に声をかけてきたのは大破 拳士郎だ。

こいつは不良だが、漫画の趣味が合うことからよく話すようになった。何故か他校とのケンカに巻き込まれたりした事もあったが、何だかんだこいつとは意外と気が合う。


「よっす大破。お前こそ元気そうだな。どうせお前が一番最初にたどり着いたんだろ?」


「おい、どうせって何だよ。それに一番は俺じゃねえ。俺と赤羽が来た時にはもう尾野崎と夜ノ森がいたぞ」


確かに見ると奥の方で尾野崎と夜ノ森が暇そうにソファに埋まってる。あいつら優秀すぎだろ。


「えっ大破、赤羽と一緒だったの?すげえ意外なんだけど」


「ああ、途中で一緒になってな。喧嘩売ってくるわけでも無かったし、共闘したんだよ」


「えぇ〜、お前が女子と?すぐ足手まといだとか言ってポイ捨てしそうじゃん」


「アホかお前、そんな事するわけねえだろ。それに赤羽はちゃんとつええよ。ここじゃ女と思って舐めてると痛い目見るぞ」


「ちょ、大破君!私そんな強くないから!あ、ども瑠璃丘君、久しぶり」


そんな話をしてると、そこに赤羽も入ってきた。


「ちーす赤羽。大破と一緒で怖かっただろ。神経すり減らしてないか?胃薬やろうか?」


「あ、あはは…。大丈夫、大破君すごく優しいから楽しかったよ」


そう言って頬を赤く染める赤羽。へえぇ…ふうん。

あれ、そういえば赤羽って一条クラスタに入ってなかったっけ?大破に乗り換えたんか?


「なあ、赤羽って一条のことが好きだったんじゃないっけ?」


「な、ちょっ…!やめてよ瑠璃丘君!一条君にハマってたのはマミで、私はただ盛り上げてただけだから!あんな性格の悪いやつに恋愛感情とか一切無いから!」


俺のストレートな質問をノータイムで完全否定し、アワアワと大破の方を見る赤羽。

何だ、一条の裏の顔知ってたのか。あいつ女にすぐ手を出しては捨てるクズ野郎だからな。取り巻きもどっかにいっちまった今となっては、ポツンと一人寂しく座ってら。友達もいない一条君、悔しいのう、悔しいのう。


「だってよ、よかったな大破」


そして俺がニヤニヤしながら大破を見ると、大破はギロっと睨んできた。今にもぶん殴るぞとか言われそうだ。


「いい加減にしろ、ぶん殴るぞ」


ほら言われた。照れちゃってもう。


「チッ…。それよりお前の格好何だよそりゃ。頭に花咲かせて中華ナベ担ぐとか、ふざけてんのか」


こいつ露骨に話変えやがった。まあいいか、それにこいつになら教えてもいいかな。俺が信用できる数少ない人間のうちの一人だ。


「おうキモ可愛いだろ、これが俺のマンドレイクさんだ。いろんな植物生やせるんだぜ。あとこの鍋は良くわからんけど持ってたから使ってる」


「おっ珍しく気前良いじゃねえか、そんなに教えてもいいのか?」


「まあ相手がお前だしな。それにお前もお返しに教えてくれんだろ」


「ハハ、まあな。俺の魔獣はボムだ。爆発させ放題なんだぜ、羨ましいだろ」


「おい強キャラじゃねえか!俺なんかその辺の草生やすくらいしか出来ねえんだぞ、ふざきんな!交換しろ!」


そんな風に笑って話していたが、そろそろ俺の膀胱が限界に達しそうだ。俺の水魔法が股間から噴出する前に、この辺りでトイレに行きたい。


「あーちょっと便所行くわ。男子トイレどこ?」


「ああ、一番左のドアがトイレだ。入ったら男子と女子で左右に分かれてるぞ」


「せんくす!」


大破からトイレの場所を教えてもらった俺は、急いでトイレに駆け込んだ。中は普通にトイレで、ちょっと古いタイプだけどちゃんと水洗の便器が置いてあった。


ジャー…


「ふう…スッキリしたぜよ」  


「あっ瑠璃丘君」


用を足して手を洗った俺が男子トイレから出ると、そこでバッタリと尾野崎カンナと出会した。

高校生にしてモデルや芸能活動をしている女子。日本一可愛いと評されているが、正直俺の好みとはちょっと違うんだよなあ。


「よっす尾野崎。元気そうだな」


「…うん、瑠璃丘君の方こそ。頭のそれはともかく、何だかいつも通りだね」


尾野崎は一瞬何というか、観察するような目をしたあと、いつもの笑顔で返答してきた。なんだ?やっぱりこいつも神経質になってるんかね。


「そういや尾野崎ゴール早かったんだってな。夜ノ森と一緒に行動してたのか?」


とりあえず深くは気にしないようにして、情報収集も兼ねて俺は軽く会話する事にした。


「ううん、夜ノ森さんとは別だったよ。私が一番早かったみたいで、次に来たのが夜ノ森さん」


「え、尾野崎も夜ノ森も単独行動だったのか。すげーな、よっぽど良い力もらったんだな」


「あはは、そうみたいだね。…あ、そろそろお昼の時間だ。ここすごいんだよ、ちゃんとご飯が出るの」


「えっマジかよ」


尾野崎がそんな話をした直後、キーンコーン…と学校のチャイムみたいな音が鳴った。

ドアを開け、カウターの方を見てみる。すると、確かにさっきは閉まっていたシャッターが開き、そのカウンターの上にはトレイに乗った食事らしきものが並んでいた。しかもホカホカと湯気が立っている。

近寄って見てみると、パンとスープ、牛乳みたいな白い飲み物がセットになっていて、それが今いる人数分あった。


「すげえ、ちゃんとしたメシだ」


そのサービスに俺は驚いた。ずっと樹海の中で文化的な食べ物なんて食べれなかったから、この食事は非常に嬉しい。

でもこれ、カウンターの奥ってどうなってんだ?少し気になってシャッターの奥を覗くと、そこにまたシャッターがあるだけだった。二重シャッターか。


児玉達も来て、その食事を見て驚いていた。

パンは普通の味で、白い飲み物はねっとりした牛乳みたいな感じだ。スープはコンソメっぽい味で、よく分からん野菜と肉が入っていた。味はかなり美味い。サバイバル直後だったから味覚バイアスがかかってるのかもしれん。


「ふう、ごちそうさん」


とにもかくにも満足だ。

さっきチラッと掲示板を見た感じだと、クラスの生きてる奴が全員揃わないと次に行けないっぽい。

焦らずここでゆっくりと皆を待つ事にしよう。

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