第27話 最高のペア
「ほ、ほら服を着たぞ。もう大丈夫だから」
「う…す、すまぬ。大事な話だったからつい振り向いてしまったのだ」
まだ顔の赤い花沢は、恥ずかしそうにしながら立ち上がった。こいつ、見かけによらずかなり純粋なやつなのか。逆にうっかり花沢の裸なんて見た日には、勢いで頭をかち割られそうで怖いな。
「ゴホンゴホン…そ、それでだな。我は花沢撲殺流の後継者なのだ」
「ああ、言ってたな。だがそれは何なんだ?普通の武術とは違うのか?」
「うむ…。我はどう見ても普通のかわゆい女子高生に見えるとは思うが、実は戦国の世から伝わる古武術の使い手なのだ」
な、なんと…!今の世の中にそんな漫画みたいな武術が存在するなんて驚きだ。いや、それよりもはなざわが自分のことを普通の女子高生だと言い張ることにも驚きなんだが。
「驚くのも無理はない。世間には知られていない流派だからな」
「い、いやそれも驚きだが…まあいい。それで、その物騒な名前の流派はどういうものなんだ?」
「我が花沢撲殺流は、言うなれば素手で人間を破壊する事に特化した流派。厳しい修行を乗り越えてようやく至れる境地にある」
なんという恐ろしい流派だ。通りで素手でゴブリンの頭を粉砕するわけだ。だがもしかしたら、こんな状況で一番頼りになるやつなんじゃないだろうか。
「な、なるほど…そんな秘密があったのか。通りでそんな体格にもなるわけだ」
「??イソノよ、何を言っているのか我には分からん。我の外見は一般的な女子と何も変わらんはずだが」
「えっ、いやでも筋肉が…」
「我には分からぬ」
ビリビリとした威圧を受け、俺はそれ以上何も言えなかった。マジの顔をしている。どうも外見については花沢のタブーのようだ、無闇に触れるのは危険だ。
「と、ところで花沢も水浴びをするのか?俺の見張りは必要か?」
「そうだな。…いや、見張は必要ない、イソノは家に入っておれ。絶対に覗くでないぞ。絶対にだ」
慌てて話を変えると、花沢も水浴びをするという。いや覗かねえよ。そんな怖い目して言うなよ。
「わ、分かった。では俺は戻っているぞ」
そうして俺は後ろを振り向かずに、急いで民家まで戻った。
「……イソノ、か」
……
…
「イソノ、そっちだ!その家の陰にもう一人いるぞ!」
男の振るう鋭い剣撃。それを躱しながら花沢が俺に向かって叫ぶ。
「わ、分かった!…いた、よし!」
俺は民家の陰に隠れたもう一人の男を第三の眼で捉え、その動きをピタリと止める事に成功した。
仮宿の民家を出発してすぐ、俺たちは襲撃された。相手は…多分あれがハンターなんだろう。
突然矢を打ち込まれたが、「伏せろ!」という花沢の声で難を逃れた。さす花。
そして直接斬り掛かってきたハンターを花沢が抑え、狙撃してきたやつを俺が補足した、という訳だ。
「ぐ…ぎ……!」
俺が見つめる相手の男は、頭に血管を浮かばせて体を動かそうとするが、全く動く様子はない。しっかりフリーズが効いてるようだ。
そしてゴキャリと音が聞こえ、そちらを見ると剣を振り回していた男の首が180度回っていた。花沢、やったのか。俺は人を殺す覚悟なんて全然出来ないのに、お前は本当にすごいよ。
そして蒸気のようなオーラを立ち昇らせながらズンズンと花沢は進み、制止している男の前に立った。
明らかに恐怖が顔に貼り付いた男。その男を見ながら花沢は一度目を閉じ、そしてその剛腕を横に振った。
さっきと同じゴキャリという音と共に男の首が180度回り、男の命は散った。
「花沢…すまない。手を汚させてしまった」
「気にするな。元々我の武術は殺人術。それに相手が殺す気で襲ってきたのだ、こちらもそれに対抗したまでの事」
そう言いつつもどこか複雑そうな表情の花沢。戸惑ってるようにも見える。
理由はどうあれ、人を殺したことは事実。だが不思議なことに俺に動揺は少なかった。もしかしてこれは魔獣の影響だろうか。花沢も同じような感覚を感じて戸惑っているのかもしれない。
「ふむ、これが星か」
「こっちのハンターは星二つだ。もしかしたら弓矢を持っているやつの方が星が多いのかもしれないな」
俺たちがハンターの胸からカードを外すと銀色の星に変化した。二人とも驚いたが、こんな状況ではそういうもんかと納得した。
「しかしイソノよ、お前の力は頼りになるな。完全に敵の動きを止められるとは」
「いや、花沢がいてくれないと止めても意味が無い。俺には攻撃力が無いからな」
「ふむ…我ら二人揃えば、相手が多数でない限り負けることはなさそうだ。頼りにしておるぞ」
「ああ、こっちこそな」
実際俺たちが連携すればかなり強い。花沢一人でも強いのに、俺がいれば穴は無い。
武器を持った屈強な男二人を余裕を持って倒せた事から、そう自信を持って言えるだろう。
ハンターがまた襲ってきても返り討ちにしてやる。どのみち星は必要なんだ、いつでも来い。
「大分塔が近くなってきたな、あと数日で辿り着けそうだ」
「うむ、だが危険も増えるであろう。我らがあの党を目指すことはハンターも知っておるはず。それに魔物だって強くなるかもしれん」
「確かに…。分かった、慎重に進もうか。頼りにしているぞ、相棒」
「う、うむ。任せるが良い」
かなり近付いたゴールの塔を見据えながら俺はハンターのショートソードを拾い、それを振った。う…重い。ちょっと実戦では使えそうにないかも。威嚇のために一応持って行くけど途中で捨てるかも。
そんな俺の様子をじっと横目で花沢が見ている。何だろう、この剣が欲しいのか?
「この剣使ってみるか?けっこう重いけど花沢なら余裕かもな」
「い、いや、我の流派は武器を使わん。それはイソノが持っておけ」
「そうか?じゃあそうするが…」
なんか慌てて目を逸らす花沢。何が気になるのかは分からないが、まあ気にする事でもないか。
そうして俺たち最強ペアは、順調に塔までの道のりを歩んでいくのだった。
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