剣と魔法が全ての冒険者界隈でハズレ職業の武闘家になった俺だけど、実は上位職であるマジックブレイカーは最強の職業だったようです。〜いや、ハローワークの求人票に冒険者てw〜
第35話 君のパッシブスキル、全部オフにしてもらおうか!
第35話 君のパッシブスキル、全部オフにしてもらおうか!
上級冒険者研修2日目。
俺は今日も昨日と同じ地下演習場へ来ていた。
「海くん、おはよ〜」
「あぁ、おはよ」
「戸波さん、おはようございます」
「海成さん、おはようございます」
どうやら到着は俺が1番遅かったらしく、他のメンバーが続けて挨拶を飛ばしてきた。
瑞稀以外の人達が敬語ってのは少し気になるが、もうすでにみんな訓練中なので今は何も聞くまい。
「海くん、さっそくウチと一戦交えよかっ!」
「……なんで!?」
「なんで、って健斗さんからなんも聞いてへんの?」
「聞くって何を……」
すると開いたエレベーターの先から声がした。
「みんな、おはよう〜」
「お、おはようございますっ!」
「おはよございますっ!」
朝から放たれる男の緩い挨拶に対して、この演習場の空気は一気に引き締まる。
さっきまで訓練していた他のお仲間は一斉にエレベーターへ正した姿勢を向け始めた。
それは瑞稀だって例外なく行っている。
「海成〜忘れてたろ〜?」
ニタリと笑む中年男性、久後健斗の顔を見て思い出した。
「あ……」
そう、第一声は彼に体を向けなければいけなかったのだ。
何が楽しいのか、この後の罰を逃れるために。
「よし、じゃあ今回1番速かったのはお前だな、彼以外は運動よーいっ!」
「くそぉーっ!」
と、勝ち抜いた1人以外は文句を垂れつつ腕立ての姿勢をとる。
そして記念すべき1回目の罰ゲームが執行されたのだ。
ようやく各自筋トレをを乗り越えたところで、それぞれが自身の訓練へと移行した。
ある者は床に座り瞑想を、ある者は明らかに通常サイズと比べてもバカでかいサンドバックをめいっぱい殴る。
そんな光景が俺の目の前では広がっていた。
そして俺の眼前には、健斗さんと瑞稀が立ち並んでいる。
「はぁ……はぁ……なんで、みんなあれだけ筋トレして平気なんだよ」
かくいう俺は未だ荒れる呼吸を整えるが如く両膝に手を付き、小休止をとっている。
「そんなん武闘家なんやから日々体鍛えとるに決まっとるやん。100回くらいは大丈夫やわ」
瑞稀も余裕の表情。
じゃあなんでみんな罰ゲーム回避のために必死なんだよ。
「さっ、海成! そろそろ始めるぞ」
「あ、はい!」
……まぁいつまで経っても息を整えていられない。
この環境に慣れないと!
そう思い、俺は健斗さんに体を向けた。
「まずは、だが君のパッシブスキル、全部オフにしてもらおうか!」
「お、ふ……ってオフ? え、スキルってそんなオンオフ機能があるんですか!?」
「あーあるぞ。海成は少しパッシブスキルに頼りすぎな面がある。まずは自分の力を信じるところからだ!」
驚いたな。
まさかそんなことができるとは。
「えっと、わかりました。やって、みます」
とりあえずステータスを開く。
そして健斗さんの指示通り動かしてみると、本当にあった。
パッシブスキルをオンオフ切り替える欄が。
この力は今までモンスターや冒険者と命懸けで戦った時、何度も俺を助けてくれた。
それをオフにして戦うのは非常に不安だが、スキルに頼っていたのもまた事実。
強くなるために必要な過程ならば、乗り切るしかない。
素の力を磨くことはきっと「マジックブレイカー」という秘密を守り通す武器となる。
そういう意味では、俺は強くなる必要があるのだ。
「えー海くん、パッシブスキルって何? そんなん【鑑定】じゃ見えへんやんか」
「あーそれはだな……」
しまった、ここには瑞稀もいた。
健斗さんにはバレてしまったので完全に割り切っていたが、これ以上秘密を広めるわけにはいかない。
「あ、もしかして海くん……」
ヤバい、勘付かれたか!?
瑞稀もB級冒険者、それなりに知識や経験もある。
バレて当然っちゃ当然だが、やはりここは正直に言うべきか……。
「設定!? そういう設定でやっとんか!?」
「は……? 設定?」
「そうや。そっちの方が気持ち的に盛り上がるんかと」
何言ってんだこの子。
今のところ1ミリも理解できなかったぞ。
つまり子供でいうヒーローごっこみたいなもんで、俺がパッシブスキルごっこをしてると思われてるってことか?
なぜそんな発想に至るんだ。
「……違うんか?」
瑞稀は首を傾げ、俺の顔を覗き込む。
「あ、そうそう! なんか、強くなった気がするだろ?」
「やっぱそうか……って海くん、思いこみで強くなりすぎやろっ!」
そう言って彼女は高らかに笑っている。
ま、誤魔化せてるんならそれでいいや。
すると健斗さんが俺に歩み寄り、耳打ちしてくる。
「安心しろ、見ての通り瑞稀はアホなんだ」
「誰が、アホや! 聞こえんとんぞ、おっさんっ!」
「頭が悪い分、耳は良い。小声でも聞こえるから気をつけろよ」
「自慢の聴力を頭の悪さと対比さすなや!」
ってな感じで、俺のパッシブスキル問題はどこかへと流れていった。
そして本格的に訓練へと話題は切り替わる。
「つーわけで今から2日間、海成と瑞稀にはスキルなしでひたすら手合わせしてもらう!」
「よっしゃきた! 体と体のぶつかり合いや!」
瑞稀は両手を広げ大胆に喜んでるが、俺はそういうわけにはいかない。
【不屈の闘志】【自動反撃】のない初めての戦闘はさすがに怖すぎる。
「海成、訓練前にアドバイスだ」
健斗さんから。
よほど俺の顔に不安が溢れていたのか、戦闘前に声をかけてくれた。
「自分を信じろ。お前の体は今までの戦いをしっかり覚えているはずだ」
「ありがとうございます」
なんて言いつつも、別に不安が拭えたわけじゃない。
まぁでもやるだけやってみるか、程度は思えるようになった。
「海くん、いくでっ!」
構える瑞稀に向かって、俺もそれなりに構えたところで訓練開始。
ダッ――
強く弾ける床の蹴り込み音。
瑞稀は一気に俺の眼前へ。
「まずは1発っ!」
「え、速す、ぎ……グベッ!」
これでスキルなし!?
こんなの人間が出せる速さを優に超してる、勝てるわけないって。
「海成! 踏ん張れよっ!」
顔面に見事入った瑞稀の右ストレートで意識が飛びそうな中、微かに聞こえてきた健斗さんの声援によってでなんとかその場に踏み留まった。
「海くん、ごめんな?」
瑞稀は俺に手を合わせて謝罪してくる。
「いや、俺の不注意だよ。瑞稀は気にしなくていい」
「その通りだ、瑞稀。お前はそのままガンガン攻めろ。そして海成、せめてお前は目を開けて戦え!」
「は、はいっ!」
そうか。
俺、目閉じてたわ。
そりゃ見えるもんも見えん。
「えっとじゃあ海くん、行くで?」
瑞稀もさっきほど覇気のない問いかけ。
少し俺の実力に疑問を抱いたのかもしれない。
「ようし、かかってこいっ!」
ダッ――
再び迫る瑞稀。
一見すると、可愛い女の子が俺に駆け寄ってくるという微笑ましい絵面。
だがその迫力は大型のダンプカーと大差ない。
怖い――っ!
怖すぎるっ!
だがもう一度受けた拳。
これ以上ビビることがあるかっ!
よく見ろ、瑞稀の拳を。
どういった軌道で俺のどの部位にめがけて放たれているのか。
きたっ!
さっきは顔面直撃だったので少し遠慮しているのか、今度は俺の胸めがけて迫ってくる。
これを避けるには体を半身に逸らすか、後ろに体を引くか。
そこで俺の体は自然と半身に逸らして避け、瑞稀の手首を掴んだ。
「あ、動いた」
相手の攻撃が届くまでのほんの一瞬の間。
いくつかの選択肢が浮かび体が自然に反応したのだ。
なんというか、元から体が分かっていたような感じ。
久しぶりに自転車に乗っても乗り方を忘れていない、みたいなエピソード記憶感が俺の中にあった。
今までスキルによって体が動いていたのはたしか。
しかしいつの間にかその動作は、俺自身の中にも刻み込まれていたようだ。
「……ヘブッ!」
突然脳が揺れた。
足に力が抜け、俺は膝から崩れ落ちる。
「海くん、ごめん! ええのが1発入ってもうた!」
「海成、だから気を抜くな! 1回避けて終わりなわけがないだろ!」
そんな2人の声を聞きながら、俺の意識は遠のいていく。
強くなるには、まだまだ時間がかかりそうだな。
なんて思いながら、俺はその場に倒れ込んだのだった。
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