第32話 キミキミッ! どんだけ強いのっ!



 あれからすぐ剣士側の指導者もこの場に到着し、現状の説明を皆で行った。

 ちょうど問題が起こった時は会議中だったため、担当指導者の監督不行届きとはならず。

 鈴木が全ての責任をとるという形となったのだ。

 

 直接武闘家を見下し、非公式な試合を行っただけならば大した処罰もなかっただろうが、今回は禁忌とされる【憑依】のスキルを使用してしまった。


 もちろん例外はあって、階級がA級以上で冒険者専用の精密検査似て各数値が全て基準を上回った場合にのみ、【憑依】スキルを扱える冒険者から直接指導を賜れるらしい。

 そこで指導者からの許可が降りて初めて免許皆伝といった感じ。


 鈴木の場合、もう階級の時点で条件を満たしていない。


 ならなぜスキルを所有しているのか。

 これはスキルの取得方法が、各自ステータス内で自由に行えてしまうからだ。


 冒険者のステータスというものは、規律や法律で縛れない。

 己のステータスを操作できるのは己だけ。


 実際に俺も冒険者だから分かるが、たしかに他人から鑑定で覗かれることはあっても、ステータスを操作されることはない。

 スキルだってポイントさえあれば全て取得可能なものは取得できる仕様になっている。

 つまり【憑依】スキルもその例外ではなく、ステータスに表示があれば誰だって手にすることができるということ。


 だからこそ、本社側としては注意喚起や罰則を設ける他、防ぐ手段がなかったわけだ。

 そう考えると冒険者の管理ってのも中々難しいなもんだな。


 ……なんて話を健斗さんから直々に聞いたところで、ちょうど剣士側の責任者も到着。

 深々と何度も謝罪されたのち、この後の訓練について話し合った。


 さきほどの会議で剣士と武闘家の合同訓練も一応案にあったらしいのだが、さすがにこの状況でそれを受け入れるのは無理。

 迷惑をかけたのは剣士側だと自ら進んでこの地下演習場を譲ってくれ、彼らは別の訓練場所を探すためここから去っていった。


 そしてこの場から剣士がいなくなってすぐ、他の武闘家が騒ぎ出す。


「キミキミッ! どんだけ強いのっ! ステータス的に、到底あの鈴木には敵わないと思ってたけど、あんな対等に渡り合うなんてキミ何者だよ?」

「ちょっと! 彼の方が強いんだから、あまり馴れ馴れしくしちゃダメだよっ! もっと敬わなくっちゃ!」

「戸波さんのおかげで、僕今日初めて武闘家でよかったって思いました。ありがとうございました!」


 あっという間に囲まれてしまった。

 瑞稀含めて総勢5人、さすが武闘家、彼女以外は男だけだ。

 えらく俺を慕ってくれているけど、みんな俺より階級上だし、明らかに歳上っぽい人も多い。


「いやいや俺もみんなと同じ武闘家、それに俺は最近冒険者になった新参者です。知らないことばかりなので、こちらこそ教えてもらうこといっぱいですよ」


 俺を取り囲む全員に向けた言葉。

 そのため、万人が耳にして不快ないであろう言い回しをしていく。


「わぁお、キミ強いのに謙遜もできるのか! こりゃいい男が武闘家になったな!」

「あの強さで武闘家になったのが最近!? どんなミラクルなんですか!」

「逆にどうやってこの短期間で強くなったのか教えてくださいよ!」


 結局それからも俺はヨイショヨイショとおだて上げられた。


「海くん、ほんまやで。まさかあそこまで戦える武闘家がおるとは思わへんかった。後でウチとも戦ってや!」


 そして瑞稀は俺に戦いをせがむという謎のおねだりムーブをかましてくる。

 なんだこれ。

 

 まぁでも今日の朝までは知らない人の中で上手くやれるか不安でいっぱいだったけど、なんとか上手くやっていけそうだ。


「お前ら、そろそろ話は終わりそうか〜?」


 久後さんの実の弟、健斗さんから声がかかる。


 そうだ、今日からこの人が指導者として訓練を行っていくんだった。

 つい生徒間のみで盛り上がってしまっていたな。


「は、はい! 失礼しましたっ!」


 切迫した声を出し、全員が足並みを揃えて姿勢を正す。

 まるで長年叩き込まれた軍隊の習わしのような。

 オリエンテーションでも軽口を叩いて入室したあの瑞稀まで必死の顔だ。

 さっき健斗さんが初めて現れた時は親しげに話してたと思うんだけど。


「瑞稀まで、なんでそんなかしこまってんだ?」


 一応尋ねてみる。

 だって別に健斗さん、優しい口調だし。


「……海くんも一応前向いときや」


「さっきあれだけ楽しげに話してたのに、海成くんには何も教えてないのか!? 罰として腕立て、腹筋、背筋100回3セット! もちろん海成くん以外だ!」


「「「「「はいっ!」」」」」


「……えっ!?」


 俺は驚愕した。

 ここにいる俺以外の武闘家が一瞬にして突っ伏し、腕立てを始めたのだった。


「いーちっ! にぃーっ!」


 めっちゃ体育会系じゃん。


「海成くん、悪いな。これが俺達武闘家の決まりなんだ」


 健斗さんは全員が絶賛腕立て中、手先を上下に振り俺を呼び寄せる。


「決まり、ですか?」


 彼の間近に駆け寄ったところで話は再開。


「俺の話し始めは全員が俺を向く。1番反応が速かった者以外は……」


 健斗さんはそう言って顎で腕立て中の生徒を指し示し、続きを述べた。


「ああなる」


「まじ、ですか」


 そのルールだと、1日中筋トレしていることになりそうなんですが。


「とは言ったが、一応いくつかルールがあってな」


 と、健斗さんは順に説明し始めた。


 まず訓練中はルール適用外。

 例えば項目として、親善試合という訓練があったとする。

 その間は全く気にしなくて良いとのこと。


 つまりこれが適用されるのは、訓練と訓練の合間もしくは訓練前か後ってことになる。


 そしてこれは話し始めの速さだけで判断され、それ以降は特にかしこまらなくて良いそうだ。

 一度行えば、次は1つの訓練が終えるまでクールタイムが発生する。

 だから1日で換算したとしても、多い日で5回ほどしかこの機会は訪れないという。


 健斗さんは「思ったより少ないだろ」とか言って笑っていたけど、俺としては結構多いなと思った。


 一応この体育会系の嗜みみたいなものにも意味があるらしく、なんでも反応速度を鍛えるものだとか。

 後は罰として用意している基礎トレで体力強化も図っているらしい。


 まぁなんというか、ちゃんと理屈があってよかったよ。


 そしてちょうど全員が基礎トレを終えたところで健斗さんから、上級冒険者研修1日目記念すべき初の訓練内容が発表された。


「そうだなぁ〜海成くんとは会うの初めてだし、他のメンツも久々に顔を見た。まず1人ずつ俺と戦ってもらおうか」

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