第一章 踏み出す世界

第一プレイ Magical World-online<マジカル ワールド オンライン>《上》

 父はギャンブル依存症いぞんしょうだった。

 お母さんと私達姉妹にも暴力を振う……。

 最低な【父】と表現できる男だった。

 大きな借金を押し付け、他の女を作っては、毎夜毎夜遊び回っていた。


 お母さんは耐えきれなくなり幼い私と妹を引き取り離婚した。

 

 それから数年──。


 私は十五歳になり、妹は十歳。

 家庭は裕福ではない。

 お母さんは一生懸命働き私達を育ててくれていた。

 疲れているのに笑顔を見せながら、明るく暮らせるようにしてくれている。

 

 当然、私や妹はお母さんの負担を少しでも減らせるように、できる限りのことはやっているつもり……。それもあり、私は高校には行かず働こうと思っている。


 お母さんは「──大丈夫だから! 進学しなさいね!」と明るく言う。

 でも、日に日に疲れが溜まっているのが分かるお母さんを見ていると、──そうはいかない。と思える。

 

 なので、この考えは変わらない。

 でも、せめて妹の向日葵ひまわりには高校、あるいは大学まで進学できるようにしてあげたい。

 

 妹はどう思うかな……?

 

 そんな義務教育が終わりを迎える中学三年生に私はなっている。

 クラスの一部の人達は、どの高校に進学するか、どんな部活に入るかそれぞれ楽しそうに話していた。

 中には教室内で、入る予定の部活を想像してか、動き回っている生徒達もいる。

 ──まぁ、授業もまだ始まってないからいいけど……。

 

 そういう私も現在進行形で、どんな仕事がいい収入に繋がるか、色んな求人を調べている。

 残された中学生活で、どんな準備が出来るか模索しているのだ。


 ──だけど、今の私にはやりたい事がない。『家族の生活が少しでも楽になる収入を得られればいい』と言う、曖昧なものしかない。自分のやりたいことなどは二の次で、明確な目標がないのだ。


 ──それに、自分のやりたい事って何だろう……?


 そんな私の思いとは裏腹に、残りの大半の同級生たちは、リリースされて以来、今も話題が絶えないフルダイブ型──VRMMORPGの話でもちきりである。

 なんでも、現実と見分けのつかないくらい緻密に創り上げられた世界感に引き込まれるらしい。


 私達の年齢はやっぱり、勉強より遊びたいという思いが結構なウエイトを占めている。

 

 私も全く興味がない訳ではない。

 

 だって私も十五歳だから、遊びたい気持ちはあるし好きなことだって見つけたいの……。

 

 でも今はそんな事をしている時間はない。

 これからをどう暮らしていくかを必死に考えている。

 

 私達親子の生活は想像以上に苦しいのだ────。

 

 別れた【父】と呼んでいたその男は、突然現れては「金がないから金を出せ!」とお母さんに怒鳴り、暴力を振るっているのを見た事がある。

 

 これも進学を諦める理由の一つである。

 

 奨学金を借りる手はある。

 しかし、その男は、このお金ごと持っていってしまうと予想がつく。

 私は、【父】という男の、遊び金の為に働いて返したくはない。なので、奨学金は考えていない。

 

 以前、『金をよこせ!』と押しかけて来たことを、警察にも相談していた。けど、警察は事が起こるまで何もしてはくれない……。


 何のための存在なのかはなはだ疑問。

 全部だとは言わないが、ほぼ起こってから動く。……遅いのにね。

 

 こんな事が続いていれば、自分の進学のことや、興味を優先することはできるはずもない。

 それでも、周囲からはその話題のゲームの話が聞こえてくる。

 そして、求人誌を眺めている私に、「──めいぃ〜」私の名前、鏡花命薇きょうかめいらからの愛称を呼ぶ声が聞こえてきた。その声に顔をあげる。


「めいぃ〜。あんまり眉間にシワを寄せながら文字と睨めっこしてると、ここ、シワが取れなくなるわよぉ〜……」


 声を掛けてきたのは、親友であり、幼馴染のルーちゃんだ。

 赤茶色のウェーブかかったセミロングの美人さん。

 私はというと、髪を切りに行くことももったいなくて、腰下まで伸びた、黒のストレート長髪ロング

 ルーちゃんは、そんな私の額を覆う黒髪を掻き分け、眼鏡越しの眉間に指を当てて言っていた。


「う〜……。そんなこと言われてもぉ……。少しでもお金を稼がないといけないから、いい仕事に就くにはどんな準備が必要か考えないと……」


 私の返事に、ルーちゃんこと三城淵さんじょうえんルミナは腰に手を当てながら、真剣な表情を作ると続けた。


「めいのお父さん……ていうか父親は未だに押しかけて来てるのかしら?」

「今はないかな……。前、ルーちゃんのお母さんに頼んでくれたじゃない? 私のアパートの周囲に三城淵家の警備の人を配置してくれるように。そこからはまだ姿を見てないかな……」


 ルーちゃんは、私のこと、家族のことを心配して自分のお母さんに頼んでくれていた。三城淵家というのは、世界でも指折りの名家なのだ。警備の人を配置することくらいはすぐにできてしまう。

 

 そして、家庭用ゲーム、アプリゲーム、通信販売、さらには宇宙開発など、多岐にわたって手掛ける大企業を複数経営している。

 私たち親子の現状を知ったルーちゃんのお母さん……三城淵家のトップの三城淵椿さんじょうえんつばきおばさんは、私のお母さん──、鏡花菫きょうかすみれと親友で、見るにみかねて警備員を配置してくれたのだ。


 お母さんは「──迷惑をかけれないから」と断ろうとしたのだが、「──あなたはそれでいいかもしれないけど、年頃の娘がいるんだから、もっと考えなさい!」と言われ承諾した。


 さらには、三城淵家の敷地の中に、《離れの別邸》があるから、そこで暮らせるように取り計らってくれた。そうすれば、いざという時は、すぐに対処できるからその方が安心ができるという理由。


 当然、お母さんは「──本当にそこまで迷惑はかけられない!」と強く出たけど、親友の苦労を知り、【父】という男の危うさ、異常さを感じ取っていた椿おばさんは──「警察は事が起きてからしか動かないのだから守れる限り、自分の身は自分で守らないと後悔することになるわよ‼︎」とまたしても押し切られ週末には引っ越す流れとなった。



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 お読み頂きありがとうございます✨

 

 【命薇】の親友であり、幼馴染の【三城淵ルミナ】のAI生成画像を載せさせて頂きます。

 近況ノートに移動します。

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 https://kakuyomu.jp/users/Hakuairu/news/16818792435944036014

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