第17話 雉桃猿合戦⑧
合戦開始から3日経ち、硬直したキジと桃太郎農園の戦場に猿の軍が押し寄せました。猿の軍は尾奈猿を中心とした武道集団であり、城の門前でキジたちと戦っていた桃太郎農園の兵たちを一瞬で薙ぎ払っていきました。
それを見た桃太郎農園東の将軍、桃次郎は慌てましたが、おばあさんは自信満々に
「近接盾人隊、出撃じゃ!」
と宣言すると、おばあさんが誇る、強靭な肉体の男たちの隊が出撃しました。そして、近接盾人隊は尾奈猿が攻め入った門の入り口に集まると、三メートルはある鉄の盾を前面に構えました。尾奈猿たちは彼ら自慢の巨大斧を近接盾人隊に向かい振るいますが、その盾はびくともしませんでした。これを見て、おばあさんは甲高い声で笑い、言いました。
「この近接盾人隊は今までの鎖国時代の間にも肉を密輸し、食わせ育てた自慢の盾防御兵なのさ!キジはきびだんご、猿は食料不足でいずれくたばる運命さ!」
尾奈猿は、巨大盾を前にくじけそうになる兵たちを
「攻撃こそ最大の防御。防御一辺倒の兵にある未来は死のみ。攻撃を続けていればいずれ盾は崩れ、我々の攻撃を防ぐことはできなくなる!」
と鼓舞しました。
けれども、おばあさんが言った通り、戦況は停滞状態が続き、合戦が長引けば長引くほど、後ろから新たに出てくるキジの兵はきびだんごの影響を強く受けた弱い兵になり、猿たちの食料は底をつき始め、兵力が弱まっていきました。
この戦況が動いたのは猿の出撃後5日後でした。
「北東から猿の軍勢が攻めてきます!」
桃太郎農園東のやぐらの見張りが桃次郎とおばあさんがいる城に駆け込み、そう伝えました。桃太郎農園東の北東方向、猿山から猿の残りの軍が城に突撃してきたのでした。
猿山の王はこの合戦における籠城戦が長期戦になることをはじめから予想しており、猿の軍による北東方向と南東方向から挟む形で攻撃することを考えていたのでした。
おばあさんはこの猿山からの奇襲に対して驚きを隠せませんでした。
「もうこれは逃げるしか手はない。」
万事休すかと思われましたが、おばあさんはずる賢く、地下に隠し通路を作っていました。おばあさんは桃次郎に隠れ、側近たちを集め、こっそりと隠し通路から脱出を図りました。
戦況は一気にキジ・猿側に傾き、ついには桃太郎農園東の城は北東方向からの侵入を許してしまいました。そこからは一気に城の中に猿の軍がなだれ込み、非力な元菜食主義人間たちは猿に嬲り殺されていきました。そして、そこから幾時間か経ち、大将桃次郎は猿にとらえられました。
「俺は母さんの指示に従っていただけだ。命だけは助けてくれ!」
そう懇願する桃次郎に対して、なんて非力な大将なのかと、猿たちは小ばかにしたように笑いました。しかしながら、猿たちは
「同情はするよ。しかし、これは王のご命令だから、こうするしかない。」
といい、桃次郎の身体をつかみ、城の窓から首だけを出し、そして、命乞いを必死に叫ぶ桃次郎の首を切り落としました。首は城の壁や屋根にぶつかりながら転がっていき、最後には地上に落ちました。
これを見た桃太郎軍は力尽き、戦闘をやめ、キジは歓喜の声を上げました。両者は敗者と勝者の違いはあれど、合戦が終わったと感じました。しかし、猿たちは違いました。まだ合戦は終わっていなかったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます