第8話 桃犬大決戦⑤

「いざ、ご決断を。」

 万次郎は桃太郎に決断の催促の一言を放ちました。腕を組んだ桃太郎は大きく深呼吸をし、刹那、桃太郎は考えました。

 桃太郎はここにいる隊員たちに信用されておらず、むしろ恨まれていることを悟っていました。そして、これから犬帝国が攻め、隊員たちがかなわなければ、農園は滅び、また、同時に隊員や住民が桃太郎を恨むこともわかっていました。

 しかし同時に、たとえ今の隊員たちの戦力が微弱であるとしても、地の利と戦略を駆使して防衛線を繰り広げ、農園を死守することは可能だと思いました。これは決して桃太郎の思い上がりではありませんでした。桃太郎は天才であり、力があり、そして高い知能がありました。この推測は実際に適切な推測でした。ただし、この作戦には隊員が桃太郎を信用し、全力を出す必要がありました。


 桃太郎は信用を勝ち取るために自分の秘密を打ち明け、隊員たちの信用を得るしかないという感情と、自身の中の恐怖の感情の狭間で葛藤しました。

 そして、決意とともに立ち上がり、服を脱ぎ棄て、隊員たちにこう言いました。

「俺には皆に隠していた秘密がある。俺は桃から生まれた、桃と人間のハーフだ。だから、野菜を食べ、日光を浴びるだけで、この強靭な肉体を作ることができる。いまから、その証拠を見せる。」

 そういうと、桃太郎は隊員たちに背を向けた。その背を見て、隊員たちは息を飲みました。桃太郎の背中は人間では考えられないほど緑に染まっていたのでした。

 桃太郎は城の大きな障子を開け、外に背中を向けるように振り返り、そして、手を広げました。そうすると、ちょうど上りかけていた太陽の光が桃太郎を強く照らし始めました。その光に呼応して、桃太郎の筋肉は膨れ上がり、顔は若返り、力が満ちていくのがわかりました。

「俺は光合成と、すこしの野菜の力を借りて、力を得ることができる。そして、植物を操ることができる。」

 桃太郎が手を前に突き出すと、観葉植物の蔦が伸びていき、空いていた襖は閉じられました。

「この力を使い、我が軍の隊員と力を合わせれば、この農園と民を守ることができる!俺は桃から生まれた桃太郎。桃と人間のハーフだ。人間にとって俺という存在は化け物であることは承知している。そして、いままでそのことを話さず、人間に俺と同じ生活を強要していたことは謝る。しかし、いまは力を合わせるときだ。俺を一度許し、信頼し、手を貸してくれないか。」


 その場に一瞬の静寂が訪れた。しかし、一人の隊員の断末魔のような叫びがその静寂を壊した。そして、その叫びは隊員たちの中で共鳴を起こし、一気に隊員たちは桃太郎の城を出るためにあらゆる出口に駆け出し、そして逃げていきました。

 隊員が逃げ、数名の隊員のみが桃太郎の部屋に正座をして残り、しかし誰も口を開く者はありませんでした。幾分かの時間が過ぎ、ついに万次郎が桃太郎に言いました。

「我が隊はこの有様です。桃太郎殿の力は私も信じられないほどに恐ろしく、確かに形勢を変えるかもやしれません。しかし、ただ、いまここで戦えば、犬帝国はおろか我が農園全体が敵となり、桃太郎殿を殺すことになるでしょう。ここは一度、犬帝国に投降し、そのうえで今後を考えることが吉かと。」

 その一言を聞き、桃太郎は万次郎に、

「いや、まだ策はある。俺を犬帝国との前線まで案内してほしい。」

と言い放ち、先ほど脱ぎ捨てた上着を着ました。

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