第2話

わたしが彼と出逢ったのは…5年前の春。

「すみません。〇〇への行き方わかりますか?」


「え?あ、はい。ここをこうやって行けば行けます」


「ありがとうございます」



と少しイントネーションが違う言葉と旅行であろうかカメラを首からさげていました。


わたしは昔から知らない人によく話しかけられるのでした。


『またか!』

と内心思いました。



しかし、わたしはその話しかけてきた旅行と思しき男性にどこか懐かしさを覚えたのでした。


どこかで逢ったことのあるようなどこか懐かしい香りがしたのです。



道を聞かれただけのただの通りすがりのわたしと彼の間に何が芽生えるわけもなく、なんとなく後ろ髪をひかれる思いをわたしは抱えたままその場を後にしました。



『〇〇へは無事着けたのかな?』

と心の中でふと考えていることがありました。



しかし、ただ道を聞かれただけ。





道を聞かれただけの彼のことを忘れそうになっている頃…



偶然目の前から


「あ!この間はどうもありがとうございました。助かりました。」


こんな偶然があるのだろうか?

いや、体のいいナンパなのだろうか?



わたしの心の中に『はてな』がたくさん浮かんだのです。

何も答えないわけにもいきません。


「いえ、無事に着けたようで何よりです」


と、この間の懐かしさなど忘れてこの場をすぐ去りたい気持ちになりました。


この間の懐かしさはなんだったのでしょうか?








「綺麗でした。景色、とても」


独特の言い回しをするのだなと思ったんです。


「それはよかったです。それでは!」



「なんでそんなに冷たいんですか?」



「なんでそんなに親しくしなきゃいけないんですか?」



押し問答がしばらく続く…




「よかったらこの間のお礼にお茶…」



「嫌です」



「ですよねー」



と軽いノリでお茶の誘いをされたので、断りました。

『なんて軽いのか?』


と思いました。

この間の懐かしさはどこへやら。


そこで普通なら引き下がると思うんですが、彼は違いました。


「お茶がダメなられんら…」


「なんでお茶がダメなのに連絡先交換できると思うんですか?」


「いや、れんら…までしか言ってないよ」


「それはそうですけど」



とまた連絡先がどうのと押し問答が続く…



わたしの心が折れました。

『連絡先交換するのは怖いけど嫌ならブロックしちゃえばいいんじゃないの?』



と気持ちを切り替えました。



そして、この世界一軽そうな男性と連絡先を交換することになりました。


そして、

「これも何かの縁だから」


とお茶をすることになりました。



なぜ?





縁は否もの味なもの


と昔の人はよく言ったものです。




あの日、あの時、道さえ聞かれなかったら

わたしはこの彼とお茶をすることなどなかったのです。




世界一軽そうな男性と飲むお茶は世界一美味しいのでしょうか?


それとも…?






お茶を飲んでいる間になぜ、ここに今いるのかなどを話してくれました。



やはり旅行に来ていたそうです。


道に迷っていたのは本当のことだったみたいです。


文明の力を使えば迷わず行けたところを文明の力に頼って旅行なんかしたくないという何かの意地から道に迷っていたらしいです。



おかげさまで犠牲者一名出ました。

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愛しい世界を愛せるか? ささらなみ @ponponta3

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