こっくりさん
師
こっくりさん
鳥居の真ん中は、神様が通る道だ。
僕の所属している神社は大変大きい。入り口迄の道が長く、神社の一番外側から順に、一の鳥居、二の鳥居、参の鳥居と名前が付けられている。一番外側の鳥居、「一の鳥居」
の仕事は神道において「神域」と「俗界」と区別する結界として、神域の入り口を示す「門」の役割だ。
所説色々とあるが、どの説明を受けても、しっくりこない。それだけ、僕にとって、どうでもいいからだろう。というのも、一日中、微動も出来ずにいるから。横になって、暖かい布団で寝ることも出来ず、せせらぎの鳴る川の水を飲みに行くとさえ出来ない。そんな、つまらないでいる僕の前に、時折、鹿が通る。鹿は神の使いだ。お目にかかれると、幸福の心に舌鼓。
一銭にもならない。
それは、煩悩たっぷりのヒトの考えだ。
考えを巡らせていると、もうこんな時間だ。
それは四月の春夜。日が暮れると、一ミリ寒い、冬の白銀の残像。
孤独の時間がやって来た。僕の紅い時間。
夜は特に寂しい気持ちなる。動けない事が空しく、眠れない。すっからかんの、僕のこころ。だけど、ヒトにとって、不動は美徳なのかもしれない。
またしても、考えを巡らせていると、こそこそ、ヒトの声が聞こえてきた。
子供だ。どこからともなくやって来た。
「神社の鳥居の下でしよう。効き目がありそうだよ」
「大丈夫かな?もう、暗いよ」
「だからいいんだってば」
子供の一人、否。二人の声。
子供は鞄から、大きめの紙とペン、そして、十円玉を取り出し、「こっくりさん」を始め出した。十円玉を紙の上に置いて、人差し指を添える二人。
コックリさん、
コックリさん、おいでください。
桜が泣き始める。ざぁ、と花弁が降り注ぐその様、暗闇の蝶の涙。
そんなに、泣かないで。
と、語りかけるが、桜は落ち着かない。春の宴の妙な暖かさや、気候のまたしても妙な寒さは、もう、おしまい。ヒトの瞳にはどのように映るのだろうか。
しばらくすると、僕の肩にお狐様が表れた。
狐狗狸さんだ。
狐狗狸さんは子供達を、じっと、見下ろしている。狐狗狸さんは白く、毛は細く、闇に浮かぶ、そのオーラはとても美しい。
僕は鳥居。
ただの、門だ。それだけ。分かるかな。分からない?そっか。まぁ、いいや。「おやすみなさい」も言うことが出来ないし。
こっくりさん 師 @moro_jkp
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