6.しゃべったあ〜!

 あの日から腕立て伏せは日課になったが、あまり小さい頃から筋肉をつけると良くないので今日は本を引っ張りだしてお勉強だ。

 俺が生まれてから早いものでもうすぐ1年になる。1日1日を書くのが面倒くさいともいう。

 前世の記憶を持つ俺にとって19年目のこの1年は本当にいろいろなことがあった。


 そもそも生まれた次の日から大騒ぎだったし、この間ミーナちゃんに本を読んでもらっていたときに



「…でした。めでたしめでたし。」



「なるほど、赤色が強いと魔力が多いのか。

 じゃあ俺の紫はなんだ?」



「ああそれはですねー…え?」



「あ」



 と結構大きめの独り言を漏らしてしまい、ミーナちゃんに喋れるのがバレてしまった。



 幸い彼女は俺が不思議な子だと認識していたみたいで、あまり驚かれなかった。


 いつ喋ってもおかしくないと思っていたらしいが、流石にここまで流暢に話すとは予想できなかったとそこは驚いていた。


 その晩、どうせいずれは喋ることになるので夕飯の時に皆の前で喋ったら、思った以上の大騒ぎになってしまった。

 …やっぱり「改めまして、ルーシャス・グレイステネスです。お父様、お母様、今後ともよろしくお願い致します。」はマズかったか?…うん、マズかったな。いきなり丁寧語で挨拶する0歳児って…。

 想像したらすげえ気持ち悪かった。







 俺が畏まった挨拶を披露した後は、それは騒がしかった。

 親父は歓声を上げながら走り回り、お袋はパニックになって何故かフラメンコを踊り出した。おいいつからカスタネット持ってたんだ⁉︎

 いつもは大騒ぎする2人を宥めるイーナちゃんだが、今回は青い目をまん丸に見開いて茫然と立ち尽くしていた。

 そんな姉の姿を見て苦笑を浮かべるミーナちゃん。この時ばかりは5歳年上のイーナちゃんが妹に見えた。


 ちなみに姓は事前にミーナちゃんに教えてもらったのだが、やたらややこしかった。覚えるのに苦労したぜ…。








 騒ぎが収まると意外とすんなり受け入れてくれた。ただ、「お父様は少し堅苦しいな」

「母さんって呼んでね?」と言われたので父さん、母さんと呼ぶことにする。でもミーナちゃんには素の喋り方を聞かれてしまったので、父さんや母さんやイーナさんがいるときは俺も子供っぽく振る舞うようにするが、ミーナちゃんと2人のときは素で喋ることにした。

 まあそもそもミーナちゃんは俺付きのメイドさんだし、俺も気楽に話せる方がいいだろう、と考えた結果だ。

 それでも父さん、母さん呼びは崩さないようにする。ふとしたときに親父、お袋と呼んでしまうと面倒くさいからな。


 イーナさん呼びは、ミーナちゃんに

「私はいいですけどお姉ちゃん15歳ですよ?ちゃん付けで呼ぶのはちょっと…」と言われたのでさん付けに変えた。中身が20歳手前なので自然にちゃん付けで呼んでいたが、確かに0歳児が15歳のお姉さんにちゃん付けってのも変だな。なんかミーナちゃんに気づかされること多いな…。流石10歳ながらもメイドさんといったところか。

「イーナさんもよろしくお願いします。」

 って言ったら喜んでくれた。その笑顔は少し幼く見え、なんだか今日はやたらイーナさんが子供っぽくなっちゃってるなー、なんて思った。そしたら凄く可愛く見えてきてつい微笑んでしまった。

 そんな俺を見て、嬉しそうに小首を傾げるミーナちゃんだった。どうしても首は傾げるのね…。























 なんてことがあったりして赤ん坊ならではの大変さを感じた。赤ん坊のっていうより俺のって言った方がいいか。普通の赤ん坊はこんなこと思わないもんな…。









 しみじみと1年を振り返って苦笑を浮かべながらページをめくるのだった。

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