夕焼けの散花

智枝理子

序章

Cauchemar avant redémarrage

 赤い……。

 目の前がすべて真っ赤に燃えている。

 知ってる。

 見覚えのある建物や通り、砂の地面。

 知ってる。

 この景色も逃げ惑う人々の悲鳴も。

 止めないと。

 行かなきゃ。

 走って、走って……。

 炎の精霊の居る場所へ。

 ……居た。

 

 止めて。

 救って。

 その為なら、何でもする。

 

 炎の精霊が笑う。

「やった。約束だ、エル。………………の炎がすべて消えたら、……貰うよ。契約しよう」

 

 これで上手くいくって。助けられるって。そう思ってた。でも……。

 約束を守ることは出来なかった。

 この扉は、内側からは絶対開かない。

 

 なのに、音だけは入り込む。

 

 声にならない声。

 耳を塞いでいても、聞こえる音。

 

 一度聞けば二度と忘れることなく鳴り響く叫び。

 

 

 

 次に扉が開いた時にあったのは。

 

 雨。

 

 さらさらと降り続く。

 

  雨。

   雨。

 

 音が消える。

 

 雨。

    雨。

  雨。

 

 なにもない。

 

 

  雨。

 

 

 ただそこには、砂だけがある。

 

 

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