第2話 花嫁行列
結婚が決まってから、嫁入り道具や持参金など様々な準備があった。
それも終わり、季節が巡って春。ユリエッラの生まれた月にギースに入国した。
「これまで畑ばっかだなって思ってたけど、王都はやっぱちげーな!」
「アイラったら、うちの国だって似たようなものだっただろ。海と陸の違いだけだ」
ユリエッラはあきれていたが、ミロオはアイラと同意見だった。
これまでは広大な水田が広がり、のどかな田舎風景だったのに、王都に着たとたん高い壁がそびえたった。噂には聞いていた。
ギースの王都は三層からなっている。
一番外側が庶民の区画、次が貴族の区画、一番内側が王宮の区画だ。
それぞれを高い塀が区切っていて、通るときにはいちいち通行証が必要なのだと言う。
今も、見るからに花嫁行列なのに門のところで止められて通行証代わりの王家の家紋を確認されている。
ようやく許可が出て塀の内側、庶民の区画にユリエッラの乗る馬車が入る。
すると、わぁああっと大歓声がとどろいた。
ユリエッラがそっと小窓を薄く開いて外をうかがう。
「すごいな。町民が道に整列して旗を振ってる。どうやら歓迎されているらしい」
嬉しいな、とつぶやきながらもユリエッラは小窓を閉めた。
「手を振ってあげたりはしないんですか。行事があって王宮のテラスに出るとき、いつもやってたみたいに」
ミロオが尋ねると、ユリエッラは苦笑して「やめておいた方がいいだろう」と首を横に振った。
「そりゃこんだけ興奮してんだ。盛り上がったら馬車まで集団で突進してくるかもしれねー。兵隊はいるが、これだけの群衆を押しとどめるには力不足だろうよ」
アイラの説明に、ミロオは「なるほど」と頷いた。
ユリエッラは群衆に姿を現すことはしなかったが、その代わりに御者にゆっくり進むよう通達した。
せめて長く目に留まるようすることで、町民の気持ちに答えようとしたのだろう。
やがて第二の区画、貴族街に入る。
ここには道で出迎える群衆などは存在しなかった。あまりにもしんとしているからか、第一区画からの「万歳!」「ご結婚おめでとう!」という声がさざ波のように聞こえてくる。
だがそれも王宮の区画に入ると聞こえなくなった。
ユリエッラは再び小窓を開けた。
「おおっ、懐かしいな。戴冠式の時から変わってない。相変わらずのハニーキャッスルだ」
「あたいにも見せてくれよ、お嬢!」
ユリエッラが場所を譲ると、小窓を覗き込んだアイラが「うまそーな城!」と声を上げる。
「ミロオも見てみろよ!」
アイラが振り向いて手招きする。
「これから住むところなんですから、いちいち大騒ぎしなくても。これから毎日見られるんですし」
「つまんねーこと言うなって」
強引にすすめられて、ミロオも小窓を覗き込んだ。
そびえたつのは、ハニーストーンというはちみつ色の石をふんだんに使用して作られた城。
ランス国の城は白亜の宮殿で屋根が尖っていたが、この城の屋根は玉ねぎのような形をしている。
異国に来た実感に浸っていると、馬車がぴたりと止まった。
ここから先は使用人と別れてユリエッラは専用の輿に乗せられるらしい。
「頑張ってな、お嬢!」
「私たちは、今からたぶん結婚式が明けるまでいろいろ準備を手伝わされるでしょうから、サポートできませんけど頑張ってくださいね」
アイラとミロオのエールに、ユリエッラは「おう!」とこぶしを突き上げた。
アイラは「その意気だ!」と満足そうだが、ミロオは言葉使い本当に大丈夫かなと不安が首をもたげるのだった。
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