ハリネズミ女子飼育日記:僕と彼女の365日間

タミフル・カナ

プロローグ 過去を振り返る瞬間

 俺、鵜飼優は平凡な大学二年生だ。背は高くもなく、体格も細身で目立たない。性格は、お人好しで、優柔不断なところがあるから、友達には頼まれると断れないタイプだ。勉強やサークルにはそれなりに真面目に取り組んでるけど、どこか気の抜けた日常を送っている。


 そんな俺にも彼女がいる。彼女の名前は針ヶ峰はりがみねこはる。こはるとは同じ大学の同級生として出会った。


 今、俺はこはると二人だけの静かな自分の部屋にいる。ソファに並んで座り、映画を見ていると、こはるが突然、身を寄せてきた。あっという間に、こはるは優の上に座ってきた。優の腕を背に回し、顔を少しだけ背けながらも、どこか甘えた顔を見せている。


「こはる…?」と、驚きの声を漏らすと、こはるは何気ない様子で優の肩に頭を乗せてきた。普段ならツンツンしていたり、少し冷たい表情を見せる彼女が、こんなふうに甘えてくるなんて――。最初の頃のこはるなら、絶対に考えられなかった。


 彼女の小柄な体が優の上に収まり、ぴったりとくっついている。銀色の髪がふわっと揺れ、優の顔にかかるその感触が心地よい。映画の音声は少しだけ遠くに感じられるほど、二人の世界に引き込まれていく。こはるの手が優の腕を軽く握りしめる。その仕草が、どこか無防備で可愛らしい。


「想像できなかったな」と、優は心の中で呟く。あの最初に出会った時、こはるは冷徹で、まるで心を開かないような態度をしていた。警戒心が強くて、他人に頼ることなんてほとんどなかった。あの頃のこはるには、こんなふうに甘える姿は想像できなかった。でも今、こうして肩を寄せ合っている彼女の姿を見ると、少しずつ変わっていったことが実感できる。


 こはるの顔を見つめながら、優は少しだけ顔をゆるませた。こんなに近くにいても、相変わらず彼女の表情は冷静で、どこか控えめだ。でも、その冷徹さの裏に、少しずつ溶けていく気持ちが見えることに、優は静かな喜びを感じていた。


 普段のこはるといえば、冷徹でどこか近寄りがたく、感情を表に出すことなんてほとんどない。それが今、まるで無防備な子猫のように優に頼り、甘えているのだから、優はその温かさに思わず胸が締め付けられる。


「こんな姿、最初の頃のこはるとは全く違うな…」


 優は小さなため息をつき、ふと目を閉じた。心の中で、過去のこはるを思い出す。あの日から、もう1年以上が過ぎている。最初に会ったときの彼女は、まるで冷徹な氷のようで、周囲の人々ともほとんど関わろうとしなかった。それが、今ではこうして腕にしがみついてくる。


 こはるが優の顔をちらりと見上げ、静かな声で尋ねた。「優くん、なにを考えているの?」


 優は一瞬驚いたように目を見開き、すぐに笑顔を浮かべた。「あ、いや、なんでもないよ。」けれど、こはるのその問いに、ふと心の中で過去を振り返る自分に気づく。


「実はね…君と初めて出会った時のことを思い出していたんだ。」


 優は少しだけ恥ずかしそうにそう言った。こはるが眉をひそめた顔で、どこか不安げに問い返す。


「…私のこと?」


「うん。君、最初は本当に冷たくてさ。なんていうか、まるで誰とも関わりたくないみたいなオーラがあったから。」


 優は少し苦笑いしながら言う。その言葉に、こはるはほんの少しだけ口を尖らせたが、何も言わず黙っている。


 優はその姿を見ながら、思わず深く息をつく。こはるが警戒心を持っていた日々が、今となっては懐かしい。あの頃は、まるで距離を取られているように感じたけれど、今、こうして甘えてくる彼女を見ると、その変化がまるで夢のようだ。


「でも、気づいたんだ。君の心が少しずつ溶けていったことに。」


 優はそっとこはるの手を握る。彼女の目が、優を見つめながら少しだけ柔らかくなる。


 こはるは黙って、うなずくように優の手を握り返した。そして優は心の中で、彼女との365日間を振り返っていた。



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