第18話 真実を告げますか?

「沙都子さんに、橘さんとあなたの関係を伝えました。その理由も」

 芙季子がそっと伝える。


「橘宏樹に取材したんですか。あの男、自分の汚点をぺらぺらとよく話せましたね。それで、山岸沙都子はどういう反応をしていましたか」


 亜矢が攻撃的な目で見つめてくるが、芙季子を越えて山岸沙都子に向いていた。


「あなたのことを思い出すのに、少し時間がかかりましたが、中学生の頃だとわかると、すぐに思い出しましたよ。料理が上手くてムカついた事がきっかけだったようです」


「料理? 学校の調理実習なんて大したことないのに。たったそれだけのことで、あたしは3年間地獄を見たんですか」


「お気の毒ですが、そのようです」

「あいつ、最低ね。で、反省していましたか。夫を寝取ったのが、自分がいじめていた相手だとわかって」


「不倫相手があなただとわかって怒り悲しんでいましたが、あの時点での反省の気持ちはあまりなかったようです」

「でしょうね。反省したところで許せませんけど」


「由依さんが同じ事をされればどうするか訊ねました。学校にクレームを言いに行くと」

「何をやったか覚えていたんですね」


「今頃は、自分の身に置き換えて、何かしら感じているかもしれません」

「今頃後悔したって遅いのよ」


 芙季子を見ていた目が逸れた。


「沙都子さん、我が子を巻き込んだ亜澄さんを憎む気持ちはあるけれど、感謝もしていると、仰っていましたよ」


「感謝? どうしてですか」

 戻ってきた視線から攻撃的な色は消え、戸惑うように揺れた。


「由依さんの初めての理解者だからと」

「それは……亜澄にとっても、同じです。友達ができて、亜澄が楽しそうにしている姿を見ていましたから」


 沙都子への憎しみが薄れ、亜澄を想う母の顔を覗かせる。


「沙都子さんは、血のお陰なのかも、と」

「血のお陰」


 ぼんやりした顔で反芻した。橘宏樹を思い出しているのかもしれない。


「異母姉妹、ですよね」

 亜矢がこくんと、力無く頷く。


「由依さんに伝えました。すごく喜んでいましたよ。亜澄さんのことが大好きだって。お姉さんだから優しかったのかなと」


「……そう、ですか。子供に伝えたんですね」


「泣きながら。経緯は省いて、事実だけを伝えました。亜澄さんにも話しませんか」


「それは……」

 すがるような目を向けられた。


「亜澄さんは頭が良いですし、物事をよく考えておられます。だから、事実だけではなく、お母さん同士の過去も含めて話した方が受け入れやすいのではないかと思いますが、どうでしょうか」


「混乱しませんか」

「もちろんするでしょう」


 亜澄がどういう反応をするのか、話してみないことにはわからない。

 由依のように単純にはいかないだろう。

 だがマイナスには向かわないのでは、と芙季子と美智琉は予想していた。


 美智琉がゆっくりと話す。

「由依さんは、いつか亜澄さんに会いたいと言っていた。手紙も預かっている。姉妹だとわかれば繋がりや絆が強固になり、将来への励みになるのではないかと、考えます。亜澄さんも同じなのではないですか」


 沈黙が流れる。亜矢は俯いて、じっと考えているようだった。

 やがて口を開いた。


「……そうかもしれませんね。あの子も由依さんが、好きなようですから、喜びそうです。代わりにあたしが嫌われるかもですけど」


「あなたから話すのか、我々から話すか。黙っていて欲しいなら、私たちはどこにも漏らしません」


「考えさせてください」

 決めたら連絡しますと亜矢が言い、この日は解散した。

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