第24話 遠ざかる帝都

 馬車の軋む音が響く中、私は窓から草原を眺めます。初冬の風が冷たく、遠くの山々が霞んで見えます。私はスカイブルーのローブの裾を握りしめ、窓枠の冷たさを感じながら、少し目を細めました。馬の蹄が地面を叩く音と、車輪の軋みが耳に響き、旅の長さを実感させます。

 馬車の揺れが心地よくて、少し眠くなってしまいますね。

 でも、私は帝都へ手紙を届ける使命があるのです。私はポケットの手紙を軽く触り、胸に刻んだ決意を思い返しました。私の耳に、馬の息遣いと蹄鉄の音が静かに入り込み、草原の風の匂いが鼻をくすぐります。


「おい、起きろ」


 アレクの声に私はハッと顔を上げました。

 いつの間にか眠っていたようです。私は少し慌てて目をこすりました。空は日が傾いていて、草原には橙色の光が柔らかく差しています。私は窓の外を見て、少し首を振りました。


「申し訳ありません……つい……」

「いや、いいんだ。それより、もう少ししたら一度停まって休憩に入る。だから起こしておこうと思ってな」


 私は少し頷きました。

 馬車による長距離移動では、何度か停まって休憩を挟みます。その間に食事やトイレなどを済ませるのですね。私は馬車の軋む音を聞きながら、少し考える。商人が馬車を停め、私たちも一度降り立ちました。私は草原の冷たい空気を吸い込み、少し身を正した。


「トイレは済ませなくていいのか?」

「え? ええ、問題ないです。 あっ、見たかったですか? 残念でしたね?」

「次の移動中に漏らしちまえ」


 私は少し笑ってしまいました。

 漏らしませんよ、不要な行為ですからね。

 それはそれとして、食事はしましょう。私は干し肉を手に取り、アレクと分け合う中、商人を警戒していました。彼はニヤリと笑いながら私たちを見ています。私は彼の視線を感じ、少し目を細めました。何か企んでいるようですが、元々ニヤニヤしている人だとしたら失礼かもしれませんね。私は少し首を振りました。憶測はやめておきましょう。

 しいていえば、無警戒のこの王国兵であるアレクの方が問題ですね。私は彼の粗末な鎧を見ながら、少し考える。完全にお荷物です……。王都に戻るために、王国兵と可能な限り友好的でいようと考えていましたが、移動にも制約が生じ、警戒もできない。アレクの無防備な様子に、私は少しため息をつきました。王国は深刻な人材不足ですね。


「帝都まであとどれくらいなのでしょうか?」

「商人が言うには、そう時間はかからないらしい……。運が良かったな」

「……そうですか」


 私は少し首を傾げました。

 私たちは再び馬車に乗り込みます。私は馬車の硬い座席に腰を下ろし、窓の外を見ました。商人は私を見ながら再度、ニヤリと笑う。私はその笑顔を見ながら、少し考える。……もしかして私って面白いのでは? いえ、何もしていないのに笑われているので、これは変というべきでしょうか。私は少し首を振りました。帝国人からすれば異国人はおかしく見える。それをちょっと笑ってしまっただけでしょう。

 馬車の揺れが強くなる。

 ……? あまり馬車の通りが少ない道なのでしょうか。私は窓の外の風景を見ながら、少し目を細めました。木々がまばらになり、森の奥へと進んでいる気がします。


「悪いな!」


 商人がニヤニヤしながらそう叫んだことで、さすがのアレクも不信そうに警戒します。私は彼の鋭い目を見ながら、少し身構えました。でも、確信はない。


「マリー……いつでも動けるように準備しておけ」

「問題ありません、アレクは寝てても良いですよ」

「いや、いくらお前が強くても何があるかわからないだろ」


 私は少し首を傾げました。

 何があるかわからないのは当たり前のことではないでしょうか。確かに軽率で備えてないように見えるのかもしれませんが、私は戦場で常に先のことがわからないまま生き抜きました。この状況で死の恐怖はありません。私は少し微笑みました。


「……足を引っ張らないでくださいね?」

「善処する」


 そして、森の奥に進む馬車に、周囲から感じる気配。私は少し目を細めました。誘い込まれていると考えるべきでしょうか。そして、御者をしていた商人が叫んだ。


「予定変更だ!!」


 馬車は急停車し、私たちは馬車の荷台ごと取り囲まれます。私は杖を握り、素早く外に出ました。アレクは銃を構え、私の隣に立つ。私は周囲を見回し、ボロ布をまとった男たちを確認しました。剣や弓を構えて、こちらににじり寄る。ざっと十人ほどです。私は少し息を吐きました。


「チッ…盗賊か」


 アレクが舌打ちをし、馬車の荷台から飛び降ります。私はそれに続くように外に出て、杖を構えました。幸いにして手練れはいませんね。私は少し首を振りました。


「目的は何だ!」


 アレクが尋ねると、男たちがニヤニヤした目で私の方を見ています。私は少し目を細めました。私? 戦場の天使だとバレているという事でしょうか。


「そこの可愛いねーちゃんは高く売れそうだ! 男も労働力になりそうだな」

「なるほど、人攫いか」

「そういう事だ! 大人しくするんだな!」


 男は私たちに剣を突きつけながら脅してきます。私は杖をぎゅっと握り、アレクの隣で構えます。彼らはニヤニヤしながら徐々に距離を詰めてきますが……遅いですね。私は少しため息をつきました。


「はぁ……仕方ないです」


 私は杖を振りかざし、結界魔法を展開しました。杖の先に大きな鎌状の結界を展開すると、それを横に薙ぎ払うことで、近づく人攫いたちの武器を一瞬で破壊してあげました。私はその光を見ながら、少し満足しました。武器を失った男たちは呆然とした表情で私の方を見ます。


「なっ!?」

「おい、何してる!」

「お頭! こいつ、魔法を使うぞ!」


 私は杖を地面に突き立て、周囲を見回しました。アレクが銃を構えています。


「マリー! 俺が時間を稼ぐ!!」

「……え? 弱いのに?」

「少しはかっこつけさせてくれよ……それから俺が弱く見えるのは……お前が強すぎるからだ」


 私は少し笑ってしまいました。

 そう言って、アレクは銃を発射し、人攫いの武器を持つ手を撃ち抜きました。人攫いたちは悲鳴を上げ、私から離れます。私は結界で彼らの武器を破壊し、アレクは銃で確実に一人ずつ手を負傷させていきます。……負傷者……いえ、今はやめておきましょう。私は少し首を振りました。


「彼らを治療しても?」

「言うと思った! せめて拘束後だ!!」


 私は少しため息をつきました。

 ……我慢しましょう。私は杖を地面に突くと、周囲の人たち全員を結界で圧迫しました。ついでに、商人はアレクが足を撃ち抜いたことで機能停止。アレクが商人を拘束し、私は人攫いたちの武器を破壊していきました。私は光の結界を見ながら、少し息を整えました。


「これで全員ですね」

「……ああ、そうだな……戦争の時にお前が帝国側につかなくて安心したよ」

「……? 私が戦闘を行うとでも?」

「今、行ってただろ」


 私は少し首を傾げました。

 ……戦闘ですか……そのつもりはないのですが、いわゆるあれは護身のつもりですが、確かに護身と言うには鎌はないですね。私は鎌状の結界を消し、少し考える。殺傷するための武器を握る私は、さぞ悪魔に見えたでしょう。私は少し苦笑しました。


「アレク? 私は戦場の天使メアリー・リヴィエール。人を傷つける目的で行動をしない。アレクは良く知っていますよね?」

「……悪魔だろ」

「天使です」


 私は少し笑いながら返しました。私は彼の顔を見ながら、少し考える。人間って、私をどう見るのでしょうね。私はポケットの手紙を握り、帝都への道を思い返しました。この馬車は使えなくなったけれど、別の道を進むだけです。私は少し微笑みました。使命はまだ終わっていませんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る