第42話 読書感想文

 八月三十日。


 ガチャッ!バンッ!


「にーちゃんっ!」


「......何?」


 俺の部屋のドアが激しく開かれる音がして、その音に負けないくらい大きな声で俺のことを呼ぶ弟、光樹。


 俺は今から光樹が話すことについてなんとなくわかりながらも、光樹に何の用か尋ねる。


「夏休みの宿題がやばいんだよ!助けてくれよ、にーちゃん!」


「自業自得だ、自分で何とかしなさい」


「ひでぇ、それでも人かよ!」


 心を鬼にして光樹を突き放すような発言をしたら、何故か人であることを否定されてしまった。


「ごめんごめん、それで?量はどれくらいなんだ?」


「おお、手伝ってくれるんだな!えーっと、数学があと10ページくらいで、英語があと8ページ、それ以外の教科もちょっとずつある感じ」


 うーん、それくらいならぎりぎり終わりそうかな。それに、多分そういうのは答えもセットで付いてるだろうから、いざとなれば答えを写せばいいし。


「あと、読書感想文」


「......それは終わらせとけよ」


 一番面倒な奴じゃん、読書感想文って。あと二日でどうにかなるのか?


「ほら、にーちゃんって小説書いてるだろ?だから、読書感想文もちゃちゃーっと書いてくれるかなーって思って」


「俺が書くのかよ!」


 まあ、そこまで難しくはないけれども、ないけれども......なんか嫌だな。


「頼む!読書感想文以外の宿題は自分で何とかするから!だから、お願いします!」


 両手を合わせ頭を下げてくる光樹、その姿勢からは必死さが伝わってくる。


「お願いします!」


「......わかったよ」


「やったぁー!センキュー、にーちゃん!」


 光樹は飛び上がって喜ぶとすぐさま俺の部屋から出ていった。


「はあ、とりあえず俺が読んでるラノベからどれにするか選んでみるかな......」


 俺は若干複雑な感情を抱きながらも、読書感想文の題材となる本を選ぶため本棚から適当なラノベを探してみる。


 ブーブーブー!


「ん?」


 どれにしようか悩んでいると、机の上に置いてあったスマホが鳴り出した。


「......琴音、か」


 少し嫌な予感がしながらも俺は電話に出る。


「もしもし?」


「あっ、樹!実はね、夏休みの宿題がかなりやばいの!それで、答えがある宿題は答え写すから別に問題ないんだけど、読書感想文がまだ終わってなくて~」


「......また読書感想文か」


「え?何か言った?」


 俺がボソッと悪態を吐いたが琴音には聞こえなかったようだ。


「だから、パソコンで読書感想文書いてそのデータを私に送ってくれると助かるんだけど......」


「......ラノベでも大丈夫ならいいけど」


「えっ、ほんとに?やったーっ!ありがとね、樹!あっ、なるべく明日の昼までに送っといてね!じゃ!」


 琴音はそうしてすぐに電話を切ってしまった。


「はあーっ」


 俺はスマホの電源を切って床に寝転んでから一つ大きなため息を吐いた。


 ドタバタ!バンッ!ガタガタ!


「えっ、何?」


 しばらくそうやって寝転んでいると、隣からすごい騒音が聞こえてきた。


 俺は思わず起き上がって何事か確かめようとドアノブに手を掛ける。


「にーちゃん!」


「うがっ!」


「ん?」


 ドアを開けようとすると突然ドアが勢いよく開かれて、俺は顔をぶつけその場でうずくまる。


「あっ、ごめんごめん、そんなところにいるとは思わなくて」


「ったく......気を付けろよな」


 うずくまったまま上の方を向くと、何かを持った光樹が軽い感じで謝ってきた。


 俺は手で鼻を押さえながら光樹のことを軽く注意してゆっくりと立ち上がる。


「それで、何か用?」


「あっ、そうだった!」


 光樹は何かを思い出したような顔をして俺に手に持っていたものを差し出してきた。


「はい、これ!」


「......何?」


 光樹が手渡してきたのは一冊の本と原稿用紙だった。


「今回の読書感想文の課題の本と原稿用紙!原稿用紙は四枚以上六枚以内だから!」


「えっ、読書感想文の本って決められてるの?」


「そうだけど?知らなかったのか?」


 嘘だろ、俺が中学の時は漫画とか児童文学とかじゃない限り自由だったはずなんだが。


「今から読まなきゃなのか?」


「うん!にーちゃんなら三十分くらいあれば読めるだろ!」


 いやまあそれくらいの厚さなら三十分くらいで読めるけども......どうせなら自分が好きな本の感想文書きたかったな。


「あとさ、俺が原稿用紙に感想文書かなきゃなの?」


「えっ、違うの?」


「いや、俺がパソコンに書いてからそれを光樹が原稿用紙に写すってのかと思ってたんだけど」


「えー!めんどくさい!」


 こいつ、人に読書感想文やってもらっておいて何ほざいてるんだ。


「筆跡でばれるかもしれないだろ?」


「筆跡?......大丈夫だろ、先生そんなところまで見てないって!」


「いや、お前の字汚いし筆圧かなり強いから多分すぐばれるぞ」


 前に光樹の書いた宿題見てみたけど、字はぎりぎり読めるくらい汚かったし、筆圧は3Bとか4Bとかで書いたんじゃ?ってくらい強く濃く書いていた。


 対して俺の字は、そこそこ丁寧には書いているし、シャー芯はBを使っていて筆圧はあまり強くない。


 俺の字と光樹の字とは明確な違いがあるから、多分見てすぐに気づく人もいるだろう、最低でも違和感は感じると思う。


「そっかなぁ?まあ、にーちゃんがそうしたいなら俺は別にそれでもいいけど......ちょっとめんどいな」


「書き写すくらいでそんなに面倒くさがるなよ」


 光樹がボソッと言った言葉に俺は少し呆れたように言い返す。まあ、俺も原稿用紙に手書きで書くのが面倒だからパソコンで書きたいだけなのだが。


「まあそういうことで、よろしくな、にーちゃん!」


 光樹はそう言って原稿用紙を持って俺の部屋を出ていった。


 俺はそんな光樹を見て少し溜息を吐き、ドアの前に置かれた一冊の本に目を移す。


 えーっと、確かこれ、去年何かの賞を受賞して話題になってた本だな。テレビ番組とかでも取り上げられてて見た覚えがある。


 俺はその本を手に取りペラペラとページをめくってみる。中一の課題の本だからか、字は俺がいつも読んでいるラノベよりも大きくて読みやすい。これならすぐ読み終わりそうだな。


 ブーブーブー!


「......」


 さっそく読み始めようとしたところ、またスマホが鳴り始めた。


 俺は嫌な予感がしながらも本を一旦机に置き誰からの電話か確認してみる。


「大山か......」


 俺に電話を掛けて来たのは大山だった。


 うーん、多分琴音と同じく宿題が終わらないとかいう理由で掛けてきたんだろうけど、電話に出るべきか出ないべきか。


 さすがにこれ以上宿題をするのは面倒だし、俺が大山の宿題をしなきゃならないっていう義務はないんだから受ける必要はないよな。


 あっ、違う用件で俺に電話を掛けてきた可能性もあるかも。いや、だけど、大山が俺に宿題以外の用件で電話を掛けるって、一体どんな用件なんだ?特に思い当たる節はないんだけど......


「あっ、切れた」


 俺が電話に出るべきかどうかあれこれ悩んでいるとスマホの振動が止まってしまった。


 俺は少しの間スマホ画面を眺めていたが、「ま、いっか」と呟いてスマホを置き、机の上に置いていた本に手を伸ばしまた読み始めた。

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超モテる奴が親友なので、俺には損な役回りしか来ないのですが? 啄木鳥 @syou0917

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