第16話 待ち合わせ
日曜日の午後一時少し前。
「もう誰か来てるかな......」
昨日琴音から、「一時に学校の校門前に集合ね!みんな集まったら近くのカラオケ行くから!」という連絡が来たので、俺は学校へ向かっていた。
というか、うちの学校の近くにカラオケなんてあったっけ?まあ、普段通らないような場所にあるのかもしれないけど。
「あっ、樹!一時ちょうど!」
ちょうど一時になったくらいに、俺は学校に到着した。
優希、小鳥遊さん、米倉さん、荒崎さんの四人はすでに校門前で待っていて、琴音と大山がまだ来ていなかった。なんか予想通りだったな。
「こんにちは、みんな意外と早かったんだね」
「ま、まあ、約束の時間に遅れるわけにはいかないからな」
荒崎さん、真面目だな~。他の人たちもそんな感じかな。
「やっぱり琴音と大山は遅れてるんだな」
「そ、そうだね。何かあったのかな?」
「いや、忘れてただけだよ、きっと。今頃慌てて走って来てると思う」
「そ、そうなのかな?」
米倉さんが少し首を傾げる。というか、優希以外の三人、なんか様子が変な気がする?どこかそわそわしているというか、落ち着きがないというか。なんでだろう?
......みんなちらちら優希のことを見ている?......あっ、そういうこと!
今までは、よく言うとムードメーカー、悪く言うと騒がしい琴音と大山がいたので会話が途切れたりすることなく、また、場の空気が悪くなったりすることなかった。
しかし、今はそのムードメーカーたちは遅れていてまだ来ていない。しかも、俺が来るまでは優希と女子三人だけだった。
好きな人が近くにいる。前はいたムードメーカーはまだ来てない。加えて、あまり接点のないほぼ他人の女子が自分以外に二人。これで緊張しない人はいないだろう。
「二人はどれくらいに来るのかな?」
優希はそんな三人の心なんて知るはずもなく、のんきなことを言っている。少しくらい察してやりゃあいいのに。
「......さあな」
若干重くなっていた空気の中で、俺たちは二人を待った。
五分後。
先に来たのは大山だった。猛スピードでこちらに向かってきている。
「すまん!ちょっと遅れた!」
大山は俺たちのところまで来ると、少し息を整えながらも謝った。というか、あんなに全力疾走した後なのにあんまり息が上がってないってすごいな。
「いや、大して遅れてないからそこはいいんだけど......ずっと走ってたのか?あのスピードで?」
「ん?そうだけど?」
「すごいな......というか、危ないぞ。ここら辺車通り多いから」
信号がない横断歩道とかもかなりあるしな。
「大丈夫だ!いざとなったら避けるから!」
「いや、無理だろ」
「そうか?」
いや、そんな本気で不思議そうな顔するなよ。
「そういえば、琴音まだかな?遅れるのはいつものことだけど」
「「「!」」」
優希がそんな何気ないセリフを言った途端、小鳥遊さん、米倉さん、荒崎さんの三人がビクッと体を震わせ驚いたような表情をした。前も似たようなことあった気がするんだけど、一体何なんだろうか?
「ちょっと、樹君」
「ん?」
米倉さんがちょいちょいと小さく手招きをしたので近づくと、いきなり俺の耳元に口を寄せる。
「っ!何!いきなり」
俺はぞわっとしたので耳を押さえて米倉さんから少し距離を取る。まず、普通こういうのって逆だろ?
そう思い逆を想像してみた。具体的に言うと、俺が米倉さんの耳元に......やっぱやめよ、想像してみたら俺がイタいキャラになってて正直気持ち悪い。
「あのさ......」
いつの間にか近づいてきた米倉さんは、俺が耳を塞いでいるのにも構わず小さい声で話始める。
「斎藤君と琴音ちゃんってどういう関係なのかな?」
「......へ?」
米倉さんが聞いて来たのは、ある意味では予想と近かったけど、俺からしてみればかなり予想から外れた質問だった。
俺はてっきり、今この場にいる小鳥遊さんか荒崎さん、もしくはその両方のことを聞かれるのだと思っていたのだが......
「だって、二人ってもうすでに下の名前で呼び合ってるでしょ?ファミレスでは琴音ちゃんは斎藤君のこと名前で呼んでたし、さっきだって斎藤君、琴音ちゃんのこと普通に琴音って......」
「......あっ、そういうことか」
やっと腑に落ちたよ、ファミレスのこととさっきのこと。あれは、二人の名前呼びに思わず反応してしまったからだったのか。
まあ、気になっている人が他の女子と互いに名前呼びしてたら、大抵の人は気になるよな。多分、小鳥遊さんと荒崎さんも同じ理由で驚いたような表情をしていたのだろう。
「大丈夫大丈夫、優希と琴音は付き合ってるとかはないから。ただの中学からの友達だよ」
「......本当に?」
米倉さんの声はまだ不安そうだ。
「本当。まず、俺も琴音とは下の名前で呼び合うしね。仲いいからこれくらい普通でしょ?」
「......それも、そうかな?」
まだ完全に納得できたわけではないみたいだけど、とりあえずはいいだろう。完全に納得する方が難しいだろうし。
「あっ、来た」
いきなり優希の声がしたので見てみると、琴音がのんびりと歩いてくるのが見えた。
「や、やっほー!みんな早いね~!」
「お前が遅いだけだ、まったく」
「じゅ、十分遅れただけじゃん!」
こいつ、遅れて来たのにまったく反省の色が見えないな。まあ、いつものことだが......
「せめてもうちょっと急いで来いよ、遅れてるんだから」
「なっ......だってさ、走って来て「遅れてごめんね!」みたいな感じだったらさ、なんかわざとらしく思わない?なんかあからさまに、「私急いで来ました!」感が出てさ!」
そう言われると少し納得できるような?でも......
「そんな余計なこと考えるなら、はじめっから遅れるなよ......」
「ごめんごめん、見ていたアニメ映画がちょうどいいところだったからさ~」
全然反省してねぇ!
「ま、まあ、みんな揃ったことだし、そろそろカラオケに行こうよ」
優希が俺たちの間に入ってそう提案する。
「そうだね!じゃあみんな!私についてきて!」
なんで琴音が仕切ってんだよ!と一瞬思ったが、よく考えてみれば、カラオケの場所知ってんの多分琴音だけなんだよな......
俺は少し複雑な気持ちを抱きながらも、琴音のあとをついていった。
◇◇◇◇◇◇
「確かこの辺りだったんだけど......あっ、あった!」
「......まずここどこ?」
俺たちは学校を出発した後、見覚えのない路地を入ったり出たり、右に左に曲がったりして十分ほど歩いて着いたのが、この一見カラオケなのかどうかわからない店だった。
しかし、店の入り口あたりを見てみると、わかりにくいが『カラオケやっています』と書いていた。場所もそうだがこの店、色々わかりにくい。
「うちの学校のちょうど真後ろだね、ほら、わかりづらいけどあそこに学校が見えるよ」
「んー?......あっ、本当だ」
周りの建物が邪魔をして全体は見えないが、確かにあれはうちの学校だな。若干離れているけど。
「じゃあ、入ろっか!」
そうして、俺たちは入り口のドアを開いた。
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