第14話 打ち上げ 3

「お待たせしました、ツインハンバーグでございます」


「来た!」


 それからすぐに大山が頼んでいた料理が来た。すごいボリュームだな、ハンバーグを入れている鉄板が普通の奴より大きい気がする。店員さんも片手じゃなくて両手で持っているし。


「ご注文の品、以上でよろしいでしょうか?失礼します」


 そう言って店員さんは伝票を丸めて置いていった。


「いただきます!」


 大山はパンッ!と大きな音を立てて手を合わせると箸を持って、すさまじい勢いで料理を平らげていく。


「おい、そんなに急いで食うと......って、聞こえてないか」


「あれ、小夜ちゃん、どうしたの?」


 俺が大山の食いっぷり?に呆れていると、琴音が麵を箸で持ちながら小鳥遊さんに尋ねている。


「えっと、ラーメンが予想以上に辛くて......ことちゃんは平気なの?」


「うん、これくらいがちょうどいいけど......辛いの苦手なの?」


「うん......」


 じゃあ、何で頼んだ?なんて質問は野暮だろう。小鳥遊さんはこの『茨餓鬼バラガキ』コラボメニューが食べたくて頼んだんだろうから。


「食べかけでよければ俺のと交換する?まだ二切れしか食べてないから」


 俺はそう提案してみる。本当は優希のものと交換するのが良いんだろうけど、あいにく優希が食べているのはカレーだ。それも、前に食べたことがあるから知っているんだけど、あのカレー、結構辛い。辛い物が苦手な小鳥遊さんは多分食べられないだろう。


「えっ?いや、でも、悪いです、私のせいで......」


「そうだよ!小夜ちゃんが返答に困るようなことは言わないで!」


「おい、それどういうことだ」


 返答に困ることって何だ、小鳥遊さんが俺の食べかけ嫌がるってことか?いやまあ、嫌な人は嫌だろうけど......ちょっと傷つくぞ?


「え、いや、田中君のが嫌ってわけじゃ......」


「小夜ちゃん、正直に言ってもいいんだよ?樹はそんなことで傷ついたりしないから」


 いや、普通に傷つくぞ?面倒くさいって思うかもしれないが、普通に傷つくからな?


「えっと、じゃあ......交換します」


「あ、ああ、うん......」


 これもこれで気まずい!なんか無理やりやらせたみたいで複雑な気持ちになる!


 そんな面倒くさいことを考えながら、俺は小鳥遊さんと料理を交換した。


「おっ、ラーメンもおいしそうだな!エビフライあげるから一口くれないか?」


「大山の一口は信用できないからやめとくわ」


 それに、俺エビフライそんなに好きじゃないし。というか俺、エビアレルギーだし。


 しかし、「エビアレルギーだから」という理由で断ったら他のもので交渉される恐れがあるため、俺はあえて口に出さなかった。


「そうかー、残念」


 諦めてくれたみたいだ、よかったよかった。


「そういえば、なんか打ち上げって感じがしないね」


「そういえばそうだな」


 優希に言われるまで気が付かなかったけど、確かに打ち上げっていうよりはただの食事会って感じだな。それはそれで別にいいんだが。


「確かにそうだな、何かするか?」


 荒崎さんが箸を置きそう口にする。


「まあ、みんながご飯を食べ終わってからにしようか」


「それもそうだな」


 俺は米倉さんの案に賛成の意を示す。


 みんなもその意見に賛成らしく、またさっきみたいに黙って食事を続けた。


 

 ◇◇◇◇◇◇



「う、うう、意外と多かった......」


「小夜ちゃん、大丈夫?」


 小鳥遊さんがチキン南蛮の最後の一切れ、の三分の一を口に運んで、ようやく全員が食べ終わった。


 チキン南蛮、四分の一くらいは俺が食っておいたんだけど......あれでも多かったのか。


 ちなみに、一番最初に食べ終わったのは大山だった。量が一番多くて来るのも一番遅かったのに。さすが、というべきなのか?


「じゃあ、私が一旦みんなの分全部払っておくから。外に出たら自分の分を私に渡してくれる?」


 米倉さんが伝票を手に取ってそう提案する。俺のは確か、税込で五百円か。あれ?でも俺が食べたのラーメンだよな?どっちにすればいいんだ?


「あの、小鳥遊さん。どっちがどっちの料金払えばいいかな?ほら、俺が頼んだのはチキン南蛮だけど食べたのはラーメンだから」


「あっ、えっと、ラーメンを頼んだのは私なので、ラーメンの分は私が払います」


「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて」


 ラーメンだと税込で千円超えるからな~、正直言うと助かった。


 そうして、俺たちは米倉さんを除いてみんなファミレスを出ていった。


「で、打ち上げらしいこと、何しようか?」


「うーん、カラオケ、とかかな?」


 琴音の問いかけに小鳥遊さんが意外な返答をした。カラオケ行くようには見えないんだけど......


「いいね!みんなもそれでいいかな?」


「俺、カラオケには嫌な思い出があるんだけど......」


「あっ、そういえば」


「?嫌な思い出とはなんだ?」


 気になったようで、荒崎さんが俺に尋ねてきた。


「えっと、中学の時の話なんだけど......」


 俺は中学の時に起きた事件の一部始終を話した。それを聞いた三人は、何とも言えないような、微妙な顔をする。


「それは、その、災難だったな」


「田中は悪くないのにな!」


「えっと、その、大変、でしたね」


 三人はそれぞれ俺のことを慰めるような言葉をかけてくれた。


「いや、もう三年も前の話だから。あんまり気にしてないよ」


「じゃあ、カラオケ行こっか!」


 琴音がいきなりそんなことを言ったのだが。


「おいおいおい!今の話聞いてた?なんでそんな結論になるんだよ!」


「えっ、だってもう気にしてないんでしょ?」


 いやまあ、そうは言ったが......でもさぁ、普通空気読んでやめとかない?って、琴音にそんなことを望んでも無駄か......


「......わかったよ、行くよ」


「よしっ!何歌おうかな~」


 こいつ、むかつく。


「俺はもう決めたぞ!」


 大山にはなぜかむかついたりはしないな、なんでだろう?悪意みたいなものを感じないからか?


「お待たせ~、ってあれ?何かあったの?」


 会計を済ませて外に出てきた米倉さんが俺たちの様子を見てそんなことを言った。


「あっ、みなちゃん!今からカラオケに行くことになったんだよ!」


 みなちゃん?......あっ、そういえば、米倉さんの下の名前って湊だっけ。それでみなちゃんか。


「えっ、そうなの?でも、もうすぐ八時になるよ?」


「えっ、もうそんな時間?どうしよう......」


 確かに、今からカラオケに行ってたら帰るのが十時過ぎとかになるからな。俺んちは多分問題ないけど、門限がある家とかもあるだろうし。


「まずその前に、米倉さんに自分の分のお金渡しとかないと、忘れないうちに」


「あっ、そうだったな!あれ、俺いくら払えばいいんだっけ?」


 大山は、自分が払わなければならない金額を忘れてしまったようだ。いや、まず確認していなかったのか?


「確認する?はい、レシート」


「おっ、ありがとな」


 米倉さんは財布の中に入れていたレシートを大山に手渡す。


「はいどうぞ、ワンコイン」


 俺は米倉さんに五百円玉を渡す。


「田中君が頼んでたのってチキン南蛮だっけ?安いね~」


「ああ、それにボリュームもそこそこあるし普通に旨い」


 今時ワンコインで腹いっぱい食えるところってなかなかないよな、お得だわ~。


「はい」


「ありがとうね」


 みんな続々と米倉さんにお金を渡していく。その結果......


「......私の財布ってこんなに膨らんでたっけ?」


「小銭のせいだな、札も若干増えただろうし」


 一人ずつ別々に払ったせいで、小銭やらお札やらが前よりもかなり増えたんだな。


「それで、カラオケどうする?」


 みんなが米倉さんにお金を渡し終わった途端、琴音が尋ねてきた。


「うーん、今日はやめておいて休日に行かない?それだと昼から行けるし」


 米倉さんが財布をカバンに入れながらそう提案する。


「あっ、それだと俺土曜日は行けないぞ、部活がある」


 大山、土曜日も部活があるのか、大変だな~。


「じゃあ、日曜日にする?」


 優希の提案にみんなこくりと頷く。


「じゃあ、何かあったらみんな私に連絡してね!荒崎さんと大山君はまだ連絡先交換してないからしようか!」


「あ、ああ、わかった」


「オッケー!」


 そうして、琴音と荒崎さん、大山の二人は連絡先を交換した。


「じゃあ、場所とかはまた後で考えて連絡するから、今日のところはここで解散ね!」


「ほいほい~」


「じゃあね~」


 そうして、俺たちはそれぞれ自分の家へと帰っていった。

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