第38話 客が多すぎ問題

「あー、疲れた」

「わたし、お腹ペコペコ」


 あれからひっきりなしに客がきた。

 みな休む間もなく、フル活動である。

 俺は厨房を手伝ったり、接客したり、井戸の水を何度も汲んだ。

 それでも、まわらないぐらいの大盛況である。


 予定外だ。

 まさかここまで客が増えるとは。

 今は昼を少しまわったとこだが、もう食材も酒もない。

 これ以上営業したければ、誰かに買い出しに行ってもらう必要がある。


「とりあえずメシ休憩にしよう。看板をひっくり返したから、客は入ってこれない。気にせずゆっくり休んでくれ」


 この看板の機能、よく考えたらスゲー便利だよな。

「もう食材がないんですよ~」とか来た客に説明する必要ねえもん。

 店自体が消えちまうから、物理的に入ってこれないっていうね。


 酒飲みって店閉まってても平気で突っ込んでいったりするからな。

 追い返しても、また戻ってくるし。


 それを強制的に遮断するってのは、大きな利点だ。

 ドロボウ対策にもなるしな。


 食材がなくなったら消える店。

 まあ、それはそれで怖いんだけど。


「まさか、こんなに忙しくなるなんてね~。まわり何もなかったのに」

「ほんとほんと。店どころか生活していけるの? って感じの廃墟でさあ」


 ソシラとレミリアは言いたい放題である。

 事実だから別にいいけど。


「ディック、どうします? 午後からのお店。出せるものがもうありませんけど」

「う~ん」


 ドロシーに聞かれたが、ちょっと迷っている。

 なにせ午前中だけで、ポイントがかなり溜まった。

 午後は営業せず設備や環境を整える時間にあてたいのも確か。

 けど、せっかくウワサになっているみたいだし、穴は開けたくない。

 それに、ウワサを聞いて来てみたら店すらない、ってのもやっぱ危険だと思うんだよ。

 出たり消えたりする店。

 こっちとしては便利だけど、冒険者ギルドの調査対象になるだろ、たぶん。

 そうなったらメンドクサイ。

 看板を裏返すのは必要最小限。

 もうちょっと余裕ができるまでは、モメごとは極力おこさない感じでいこう。


「ドロシーもう一回、買い出しに行ってくれるか? お金はあるから、今度はたくさん買い込んでもらって」

「ええ、それは構いませんが、二人ですと持てる量に限界があります」


 そうだよな、そこが問題だ。

 スレイプニルの馬車は一日一回。たしかそういうルールだった。

 ふたたび買い出しに行くなら、今度は徒歩になる。

 女性二人で運べる量となると、足らないよなあ。


「俺が行けりゃあいいんだけどな」


 ゾンビは力持ちだ。

 簡単なソリでも作って引っぱってくりゃあ、かなり運べる。

 でも俺はここから出られない。

 ドロシーたちに頼むしか手がないのだ。


「では、人数を少し増やして――」

「いや、スレイプニルに頼んでみる」


 別に四人で買い出しに行ってもらっても構わないんだがな。

 もう、帰ってこないなんて心配しなくても良さそうだし。


 でも、徒歩だと時間がかかる。

 帰ってきてから仕込んでじゃあ間に合わない。

 儲けの少ないありあわせばかりになってしまう。

 それなら、馬車でサッと行って、帰ってきてもらった方がありがたい。


「大丈夫ですか? あまりムリをなさらないほうが……」

「いや、交渉材料はある」


 ドロシーはさすがよく分かっている。

 神獣スレイプニル。あんな性格しているから勘違いしそうだけど、本来は神に近い生き物なのだ。

 怒らせたら、たぶんそうとうヤバイ。

 あくまで、お願いや交渉といったスタンスを崩すべきではないだろう。


 けどまあ、お願いするのはタダだ。

 見返りを求められたとしても、そこまでムチャは言ってこない……と思う。

 ムリなもんはムリ。できるなら条件次第でやってやる。

 そうハッキリ言うタイプだと思うんだよ。


「ドロシーたちは休憩しててくれ。スレイプニルを探してくる」


 そう言って母屋を出た。



――――――



 アイツいるかなー。

 スレイプニルはどこから来て、どこへ去っていくのか全く分からない。

 金属板で呼びだしたら現れる。ただそれだけだ。


 しかし、肝心の金属板にある”馬車を呼びだす”は色がうすいグレーになっており、押しても反応しない。

 すでに今日、一度呼びだしたからだ。


 だが、まだ敷地内にいるんじゃないか? そんな気がしている。


 というのも、アイツ入ってくる冒険者に話しかけてたんだよな。

「よう、俺だよ俺」って。

 ヒマなのかな? それとも案外目立ちたがり屋なのか。


 まあ、それはいい。

 正体を明かすかどうかは、神獣のルールであって俺には関係ない。

 問題は別のところ。

 この急激な客の増え方である。


 しゃべる馬、神獣スレイプニルがいると評判になっているらしいのだ。

 金属板の評判の値を見て驚いた。

 ゼロを通り越して500になっている。

「神獣がいると聞いたんだが」って聞いてくる冒険者がちらほらいた。


 そんときはアイツ、敷地の草をムシャムシャ食ってた。

 だから、「あの馬です!」って指さしておいた。

 その後、向かっていった冒険者とスレイプニルは会話していた。

 そういうことが重なって評判がエラい数字になっているのだ。

 

 もちろん、ドロシーたち美人四姉妹も評判が上がる要因ではあるんだけど、しゃべる馬、神獣スレイプニルのインパクトには到底およばない。


 本来なら、メチャメチャありがたいんだけどな。

 ゼロより下っていう衝撃の悪評をどう盛り返すか頭の痛い問題だったから。


 そう考えると、スレイプニルなりに良かれと思ってした行動に違いない。

 けど、いきなりされるとこっちも対応できないんだよな。

 その結果の買い出し追加だ。

 認められる可能性はあると思うんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る