第29話 謎は気になるものの、酒場の経営は動きだした
「ソシラ、今はエンリル歴で何年だ?」
気になることとはズバリこれだ。
いったい今がいつかという問題。
俺が生まれたのがエンリル歴100年だった。
死んだのはちょっと記憶にないが120~125年てとこだろう。
俺の予感が正しければ、ここに大きな差が出てくるのではないか。
「エンリル暦で? うん、214年だよ」
214年!
やっぱり!!!
俺が死んでから90年は経っている。
てことはだ。俺が刺されたときは時止めのナイフはまだ力を失っていなかったんだ。
止まった時の中で90年が過ぎ、ナイフの力が失われるとともに俺は死んだ。
そして、ゾンビとして生き返った。
ああ、なんてこった。
親も兄弟も恋人も友人も、みんな死んでいる。
俺を刺した張本人だって生きちゃいない。たとえ誰か思い出したとしても、復讐すらできないんだ。
おお……。
ショック! ショック!! ショックゥ~!!!
「どれくらい眠っていたんですか?」
ドロシーに聞かれた。
ドロシーはもう分かっていたんだね。ナイフに時止めの力があると知った時から。
だから、なおのこと俺に協力しようと思ったのかも。
泣ける。
「……90年。知り合い、みんな死んじゃった」
俺がそう言うと、ドロシーは何も言わずギュッと抱きしめてくれた。
およよよよ。
ドロシー、なんていい娘さんなんや。
出会ったのが君ら四姉妹で本当によかったよ。
よし、ここからは前向きに行こう。
逆に考えればいいんだ。
冒険者をしていたとき、俺は幸せだったのか? と。
美女四人に囲まれて酒場を再建しようとしている今のほうが、はるかに幸せなのではないか?
金属板も手にいれた。ゾンビになったとはいえ、元に戻る方法も、強い力を手にいれる方法も分かっている。
ぶっちゃけ、俺の未来はあのころよりも明るいのでは?
じゃあ、べつにいいよね。90年ぐらい。どうせ覚えていないしな。
「よ~し、やるぞ! 今日がディック酒場の最初の一歩だ! 俺達にはこの金属板がある。みんなにいい暮らしをさせてみせる。絶対に!」
「おおおおおー」
俺がそう宣言してコブシを高く突きあげると、なんとなく他人事っぽく見ていたレミリアとファニーも小さくコブシを突きあげてくれた。
ありがとう。
そして、すまん。君らほったらかしにしてた。
――――――
とはいえ、俺達には住む家がない。
あるのは野ざらしのテーブルと床が抜けているボロ小屋である。
さすがにあの小屋で5人仲良く住むのはムリだ。
四人姉妹も冒険者。
野宿は慣れている。しかし、数日ならいいとして、ずっと家なしは厳しい。
てわけで、金属板の設備をザッと見てみたところ、新たな項目が追加されていることに気づいた。
”『建築』”
”母屋を建築”
”離れを建築”
”従業員宿舎を建築”
”客室を建築”
”兵士宿舎を建築”
”工房を建築”
”冒険者寄合所を建築”
”解体、買取りカウンターを建築”
やべー、メチャメチャある。
しかも、ツッコミどころ満載の言葉も多数だ。
よし、とりあえずは見なかったことにしよう。”母屋を建築”。それだけを見たってことにしておこう。
プリっと押す。
母屋の絵がいくつか出てきた。木製の小さな建物、木製の大きな建物、金属製の建物、見たことのない材質とデザインの不思議な建物、ずらずら並んでいる。
どれにも数字が書かれている。ポイントで買えるみたいだ。
とりあえず適当に選んでみた。ポイントは高価でとても買えなかったが、見るだけならかまわないだろう。
”7LLDK。冷暖房、ジャグジー、浴室乾燥機完備。ウォーキングクローゼットあり……”
戻るをタップした。
意味不明な言葉が並んでいたからだ。
これはまだ見てはいけない。そんな気もした。
「とりあえず買えるのはこれだけか」
木製の小さな建物。それだけが手持ちのポイントで買える。
5000ポイント。
ちなみにだが、ポイントは儲けた金額のみ加算されているようだった。
現在のポイントは7121。
すべての儲けを合計してみたところ7131だった。
クワに10ポイント使ったから計算は合っている。
そして、注目すべきはタネや酒を買った金額は引かれていないことだ。
稼いだ金を使ってもポイントは減らない。予想していたが、この事実は大きい。
なるべくポイントに頼らず設備は自分たちで作る。
金で買えるものは金で買う。それがポイントを貯める秘訣と見た。
「ドロシー、この家いいと思わない?」
でも、さっそく使っちゃう。
家とか自分で作るのムリだから。
「あら、素敵。でも家を買うって?」
ドロシーと一緒に金属板に描かれた絵を見る。
スゲーんだよこれ。指で絵をグリグリすると絵が回転すんだよ。
上からとか下からとかも見られちゃうの。
外観だけじゃなくて中も見られちゃうんだぜ。
おまけに拡大や縮小もできんの。どうなってんだろうね、これ。
まあいいや。
「俺もまだよく分からないんだよ。でも買うと手に入る。それだけは分かってんの」
家とかどう手にいれるか想像がつかない。
誰かが現れて、せっせと作ってくれるんだろうか?
だったら早めに買っておかないとね。先延ばしにしたら野宿もどんどん長くなってしまう。
「オジサン。これって、なに? 今だけ50%OFFって」
ソシラが頭をねじ込んできた。
ドロシーと密着して見てたところにだ!
ジャマすんじゃねえよ。
さっき「90年てオジサンじゃなくてお爺さんだね!」って言ったからゲンコツを落とした仕返しか?
やめなさいよ。そういうの。
とはいえ、ソシラの言うように気になる言葉である。
この家、ほんらいなら10000ポイントなのだ。
今だけ50%OFFの言葉とともに5000ポイントに変化している。
どうも期間限定で値下げしているらしいのだ。
期間限定て何よ?
俺しかいないのに値下げの意味も分からんし。
でも――
「得だよね~ってこと」
そう、得なのだ。
意味不明なのは、もう考えないでおこう。
得している。その事実をかみしめればいいんだ。
「買っちゃう!」
購入をタップするのだった。
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