第27話 起死回生の一打

 馬車が行ってしまった。

 しかし、とんでもない話を聞いてしまった。

 俺がダンジョンマスター?

 まさか、でも……。


 というか、そもそも、あいつの話を信じていいのだろうか?

 何から何までウサンクサイ生き物だった。


 ただなあ……。

 普通の馬じゃないことは確かなんだよなあ。

 しゃべるどうこうじゃなく、不思議な力を持っていることに間違いない。短い時間ながら、それは感じた。


 馬車を引く速度とか、おかしかったしなあ。

 ゆったり歩いているのに、やけに進みが速いのよ。

 歩幅と距離があっていないというか……。


 あ! そういや結局アドバイスもらってないな。

 話が衝撃的すぎて、まるっと頭から抜けてた。


 しゃーない。帰ってきたとき聞くとするか。

 ドロシーたちがニンジンを買ってきてくれれば、機嫌もよくなっているだろうし。


 まあ、今日がダメでも明日聞けるしな。

 馬車は一日一回って書いてあったから、そう慌てることもない。

 

 そうだ、ダンジョンマスターの件もとりあえず置いておこう。

 今すぐどうこうできる問題じゃないし。

 アイツが言うように今は酒場経営でポイントを稼ぐことに集中しよう。


 え~と……じゃあ、まずなにをすればいいんだっけ?

 そうそう、畑だ。

 ドロシーたちが種を買ってくるから、植える場所を確保しておかないと。


「レミリア、ファニー、手伝ってくれ」


 衝撃的だったのは彼女たちも同じだったみたいだ。

 ボーっと立ち尽くしていたので、ポンと肩をたたいて指示を飛ばした。


「場所はこのへんにしよう」


 選んだのは井戸の近く。

 水汲みが少しでも楽な方がいい。


 こうして、畑づくりが始まった。

 レミリアはせっせと俺が渡したカマで草を刈る。

 俺は金属板のツールで新たにクワを入手すると、雑草の根っこや、土に埋まった石を掘りおこす。

 それらをファニーが一か所へ運搬するといった具合だ。


 あー、人数いると楽だな。

 一週間後に発生する賃金が心配だけど、作業は圧倒的に速く進む。

 彼女たち四人が来たときはどうなることかと思ったけど、危機を乗り越え開拓が一気に動き出した。

 ある意味、俺は幸運の持ち主なのかも。


 あ、そうだ。今、ふと思ったんだけど、ドロシーに俺のツールを売らせたらどうなるんだろう?

 店に売った後、しばらくしてから手元に戻す。

 それをまた売る。無限に稼げるのでは?


 まあ、評判がエラいことになりそうだが、いよいよのときの切り札として考えておいて損はないかも。

 

「ブルルルルル」


 などと考えていると、馬の鳴き声がした。

 敷地の入口へ向かうと、馬車が一台たたずんでいる。

 もちろん、引くのはあの神獣だ。思ったより早かったな。


「どうも、お疲れさまです」


 神獣に挨拶をする。

 ところが、神獣は俺の言葉を無視。

 すまし顔で遠くを眺めている。


 ……あれ?


「おじさん」


 そう言って荷台から降りてきたのはソシラだ。

 その手には食料らしきものと、布でできた小さな包みがある。

 包みの中はタネか?

 よしよし、ぶじ買えたか。


 しかし、ここで俺は動きをとめた。

 複数の人間の気配を感じたからだ。

 荷台に誰かいる。ドロシーじゃない。少なくとも三人以上。


「ほー、こんなところに酒場がねえ」


 荷台から男二人、女二人が降りてきた。

 みな、剣やら弓矢らで武装している。

 冒険者か!

 やっぱ、来やがった。こうなることは予想していた。


 ドロシーだ。

 彼女が冒険者ギルドへ駆け込んだんだ。

 自分たちでダメならギルドへ相談する。ここから脱出するための一手なのだ。


 でも、それは俺にとっても酒場を繁盛させる起死回生の一手である。

 俺は長らく冒険者ギルドで活動してきた……ハズ。

 ギルドに顔見知りもたくさんいる……ハズ。

 昨日今日街に来た彼女の言葉より、みな俺の言葉を信じるはずだ。

 冒険者たちを説得して客になってもらう。

 四人姉妹を失うのは痛いけれども、それが今俺に出来る大きな反撃なのだ。


「……ん?」


 ところが、なにやら様子がおかしい。

 冒険者の後からドロシーが降りてきたと思うと、彼らをテーブルの方へと案内しだしたのだ。

 しかも彼女は、俺に向かって語りかける。


「あなた、お客様をお連れしました」


 あなた?

 え? なんだ、どういうことだ?

 戸惑う俺の横をドロシーが通り抜ける。

 そのとき、彼女は小声で言った。


「話はなんとなく分かったわ。協力する。神様に出てこられちゃあね」


 ドロシー!!!!

 うおおおおおん。泣いちゃう。そんなこと言われたら俺、泣いちゃう。


「お客様。今はこんなものしか用意できませんけども」


 ドロシーはテーブルまで歩いていくと、冒険者たちの前に酒とツマミを置いた。

 おそらく街で買ったものだ。

 酒!

 俺は完全に忘れてしまってたけど、彼女はちゃんと考えて行動してくれたんだ。


「うほ! やった。探索前の景気づけだ!」


 冒険者たちは大盛り上がりだ。

 うおおおお。酒場だ。イスとテーブルしかないけど、たしかに酒場の風景がいまここに!


「おじさん。あの人たち迷宮に行くんだって。ここを通るほうが近道だし、寄ってもらえばいいって」


 そう俺に耳打ちしたのはソシラだ。

 ソシラもとうぜん、この話は了承済みみたいだ。


「お馬さんがそうしたらどうかって教えてくれたんだよ。飲み終わったら俺が迷宮のそばまで送ってやるからって」


 続くソシラの言葉でさらに驚いた。

 神獣の提案?

 マジで!?


 あわてて馬車の方へと振り向いた。

 すると、いつのまにやら神獣スレイプニルは俺のそばまで近づいており、ボソっとつぶやく。


「馬車で送るのは一日一回だけだかんな。交易システムの一つとして処理しといてやっから」


 交易システムの一つとして?

 え? それって、街から人を運んでここに寄って、なおかつ迷宮まで運んでくれるってこと?


「おおおおお……」


 驚くやら、嬉しいやら。言葉が出てこない。


「あんな結末は俺だってもう見たかねぇんだよ。胸くそ悪い」


 あんな結末?


「おっと、今のは内緒だ。聞かなかったことにしてくれ」


 神獣スレイプニルはそれだけ言うと、また先ほどのすまし顔に戻るのだった。

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