第6話 看板つくり
木にもたれかかるように少し寝た。
気づけば二度目を朝をむかえていた。
「ふ~、ゾンビって寝られるんだな」
迷宮ではゾンビは死体のフリをして冒険者に襲いかかってきやがる。
ゾンビのクセに知能を使いやがって! なんて思っていたが、どうやら本当に寝ていたみたいだ。
自分がゾンビになってみて初めて知る事実。
なにごとも経験だね。
まあ、できることなら知りたくなかったけど。
カーン、カーン、カーン。
木を切り倒していく。
とりあえず、ポールの周りだけでいい。
看板さえ客に見えればいいのだ。
ブチブチブチ。
ポールに絡みついたツルを引きはがしていく。
そのはがしたツルの余分な葉っぱを落とすと、円形に巻き取って、ひと束とする。
このツル、なんでも、あとで必要になるんだとか。
チュートリアルとやらで出てきた。
刈った草もそうだ。
乾燥させて束ねておくといいらしい。
意味わからん。
刈った木もそうだ。
枝も幹も置いておくんだと。
まあ、反抗する理由もないのでおとなしく従っている。
「よっしゃ、こんなもんでいいか」
ポールまわりはスッキリした。
想像以上に時間がかかった。
太陽はすでに頭上を越え、西の空へ傾き始めている。
「これでやっと、看板づくりに取りかかれる」
振り向くと今まで刈った草の道が、小屋の入口まで真っすぐに続いていた。
なんか感動。ただ、道がつながっている、それだけでよく分からん達成感のようなものがこみ上げてくる。
「逆に考えればゾンビでよかったのかも」
こんな食べ物のないところに閉じこめられたら数日で死ぬ。
水も飲まない、疲れないゾンビだからこそ成し遂げられたと言えるのだ。
「よっしゃ、どんどん進めていこう」
変にポジティブになった俺は、休む間もなく、さっそく看板づくりに取りかかる。
とはいえ、ここには看板に使えそうな平らな板などない。
どうすりゃいいんだろ?
金属板には看板を作れとしか出てきていない。実際どうするかは自分で考えなきゃいけないようだ。
ん~、さっき切った丸太を使えってことなのだろうか?
ノコギリでうすくスライスすれば……。
しかし、もっと簡単な方法を思いつく。そうだ、小屋の床板を使っちまおう。
床板を見て回る。
痛みが少なそうな場所をノコギリで切った。
とうぜん、そこには床板がなくなる。だが、もういいだろう。
すでに腐って床は、あちこち抜けてるしな。
切りだした床材をナイフでホジホジ、穴を開ける。
これで形は完成だ。あとは吊るすヒモと看板に描く文字だ。
……どうすっかな。
ヒモはツタで代用すればいい。そうか、こういう時のためにツタを置いておくように指示したのか。
あとは文字だな。
何で書く?
……やっぱ炭か。草や木を焼いて炭を作るのがいい。
枯れ木と枯れ草を集める。
そして、火打石で火をつけ焚き火とした。
「炎ってなんか癒されるなあ」
ゾンビになって暑さ寒さを感じなくなっていた。
だが、火を見ると安心するのは、生きていたころの記憶がそうさせるのだろう。
「冒険者は火に始まって火で終わるって言うしな」
魔物と戦う以上に重要なのが火なのだ。
単純に温まるだけでなく、調理や虫よけなどに火は欠かせない。
明かりだってそうだ。真っ暗なダンジョンには松明の明かりが不可欠。
火がなきゃ冒険者は始まらないのだ。
そして、終わり。
死んで火葬だ。なぜならゾンビになるから。
未開の地やダンジョンなどでは、僧侶の送りの言葉がないと、人は死後アンデッドになる。
だから、きれいさっぱり焼いてしまう。
「てことは俺は、送りの言葉をもらえなかったのか」
ゾンビになったのだから、送りの言葉がなかったのは間違いない。
だが、思いだせない。
ソロだったのか、パーティーを組んでいたのか。
パーティーを組んでいたならメンバーの中に僧侶がいなかったのか。
あるいは俺を後ろから刺したのが僧侶だったのか。
「記憶、記憶かあ」
かなり記憶が抜け落ちている気がする。
どこで生まれてどんな人生を歩んだか、ほとんど思いだせない。
腐りかけたのが原因だろう。最近の記憶は鮮明だから、たぶん『スキル腐らない』のおかげでギリ踏みとどまったんだろうな。
――などと考えていると焚き火が消えた。
薪を足さなかったからだ。でも、これでいい。炭が欲しかっただけだから。
少しの寂しさを感じたものの、すぐに振り切って作業に戻るのだった。
炭を手にいれ、やっと看板を書く。
おもて面は『ディックの酒場』『営業中』とした。
裏は『準備中』だ。
よし、さっそく吊るそう。
ツタをナイフで適当な長さに切る。
看板に開けた穴は二か所だ。その右端と左端にツタを通してポールにくくる。
これで風が吹いても簡単には回転しない。風が吹くたびに閉店したり開店する酒場とか不便だしな。
ちなみにポールの高さは俺の背より少し高いくらい。
ちょうど目の高さで横に分岐していて、その横から出た棒に二か所ツタをくくりつけた感じだ。
いよいよ酒場のオープンだ。
俺の第二の人生はここからスタートなのだ。
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