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「迷宮ってこんな人影がない所だったか?」
迷宮に入り少し経った所、暗闇にも少し慣れ始め周りを見回すが人影がない。
前に訓練の一環で行った迷宮には冒険者パーティが多くないにしろ等間隔に出会していた。
だけどこの迷宮は冒険者パーティどころか人影すらないし魔獣の気配もない、おかしい。
「確かに妙ね、下級魔獣もいないなんて」
やはり異常事態、定石ならすぐに迷宮から脱出を図るべきだが物は捉えようによる。
人影がいないと言うことは思う存分暴れることができると言うこと。
「少し早いが付与魔法をかけてみないか、ここなら誰もいないしゆっくりと魔法に集中できる」
「そうだね、地図から見ても奥地まで数キロだし」
「やってみましょう」
ヒスイは手に持っていた杖を両手で掴み精神を集中させる。
暗闇に光る白いオーラ、魔法を使う時に体内から出る生き物の魔力は一様に白い光を放つ。
無風の洞窟に風を生み出しながら魔力を込めるヒスイの前に俺は立つ。
頼むから力むなよ、こんな所で意識を失いたくない。
「行くよアレス、今日はヒースクレストの弱点属性をかけるからね」
「おう!いつでも来い!!」
吹き荒れる洞窟。
背中から感じる高圧的な魔法、魔法が使えなくてもわかる程に洗練された魔法式。
魔法を打つには脳内で魔力を結合させる式計算をしなければならない、やった事はないのでなんとも言えないけど恐らく付与魔法は相当に難しい。
辺りが白く照らされる。
「
ヒスイの詠唱と共に体に走る鈍痛。
手の先まで痺れるこの衝動、足を踏み締めないとすぐに倒れそうになる激震。
体を覆う痛みを感じるが以前の付与魔法程ではない、これなら剣を振れるし他に思考する余裕がある。
「大丈夫アレス?」
「あぁ……なんか心なしか調子も良くなってきた」
「これなら奥に進める」
ゆっくりと目を開くと先ほどまで暗闇景色だった洞窟が鮮明に見える。
隆起した岩、滴る水滴、歪な壁と地面。
手に取るようにわかる、それと奥に眠る魔獣ヒースクレストとそれを取り囲む魔獣達。
「ヒスイ、どうやら魔獣は奥地で溜まっているらしい」
「だからこの浅瀬にはいなかったんだろう」
「魔獣が奥地で溜まってる?」
「そんな集団行動するような魔獣達じゃないと思うんだけど,大丈夫かしら」
「そう不安そうな顔をするなヒスイ」
「こっからでもわかる、あの魔獣達を殲滅する時間は2秒もいらない」
これは慢心による打算ではなく自信から来る計算。
腰に差さった剣に手を添えイメージを湧き立たせる、どんなイレギュラーが起きても負ける予測は立たない。
それほどまでに攻防共に今の俺は強いと思う。
「そんなに言うなら、やっちゃいましょう」
「私はここで待ってるから奥地にいる魔獣をお願い」
「わかった、すぐに戻ってくる」
足を踏み締め、地面を抉る。
走った衝撃でヒスイが飛ばないように出力を考えて走る!!
……
「な……何が起きたんだ」
気づくと俺は崩れたガレキに埋もれていた。
記憶がない、俺は今ヒスイの横から走り出して……そっから何が起きた?
「アレス!!大丈夫!!?」
ガレキのの隙間から聞こえるヒスイの声。
大丈夫も何も状況が掴めない、まさか強化状態の俺を吹き飛ばす新手の魔獣が来たのか。
それなら埋もれている場合じゃない、早くこんな岩どかさないと。
「アレス、何が起きたの?」
岩をどかすと心配そうに見つめるヒスイ。
周りを見ても新手の魔獣はいない。
「わからない、気づいたら岩の下敷きになってた」
「新手の魔獣でも来たのかと思ったけど、いなさそうだな」
「何を言ってるのアレス、あなたが勝手に壁に突っ込んだのよ?」
壁に突っ込んだ?俺が?なぜ?
「それに私の付与魔法切れてるみたいだし、どうしちゃったの」
言われて気づく、ヒスイの付与魔法が切れていた。
なんだ、森林の時は気絶するまで残っていたのに……何が条件なんだ。
これを解明しないと後々の戦いで致命傷になってしまう。
「ヒスイ、この洞窟に君の魔法を解除する原因があるんじゃないか」
「それを解明しないと……」
「多分だけどね、一般の付与魔法が解除される要因は2つあって」
「1つは魔導士の魔力欠如、もう1つは対象者が効果範囲外にいるって事なの、付与魔法を剥がす魔法は今の
「てことはあれか、俺が戦える範囲はヒスイの周辺って事なのか?」
静かに頷くヒスイ。
それは困った、範囲がどの程度にしろヒスイを巻き込まない形での戦闘は難しい。
あんな巨大な力をヒスイに当てない技術を俺は持ち合わせていない、やはり付与魔法での戦闘はまだまだ調整が必要だな。
「そこでなんだけど、戦闘面はアレスの頑張りでどうにかして欲しいんだけど移動面なら考えがあるの」
「ちょうど奥地まで距離があるし試してみない?」
……
「ヒスイ、これは少し格好がつかない気がするのは俺だけか?」
「安心してアレス、私も少し恥ずかしいから」
洞窟にはヒスイを背負う俺がいた。
ヒスイの考える移動手段はこう、爆速で移動をしたらヒスイから離れて付与魔法は解除される。
だけどヒスイが爆速移動に耐えれるはずもないから俺の背に乗って一緒に移動するという事。
「これって一緒に行動はできるけどヒスイの耐久は大丈夫なのか?」
「安心して、もっと密着すればアレスについた魔法を私に転用できる」
「つまり高い防御性能を私に付与できるってわけ、それなら移動時に起こる衝撃も全て受け流せるって事、まぁ短時間しかできないから戦闘時は離れるけどね」
淡々と喋っているけど少し気恥ずかしい。
そういう目で見たことはないけどこうも密着されると少し気が散ってしまう。
ヒスイの提案を邪な気持ちで否定はできない、であれば俺は煩悩を捨て走るだけ。
「アレス、もう少し頭を横にしてもらえる?」
「私の顔が横に来るようにしたいの」
「わかった」
「よいっしょ、これで完璧」
「いざ魔獣ヒースクレストの場所へ行こう!」
ヒスイの顔が真横に見える、赤い髪が俺の顔にちらつく。
いかんぞアレス、ヒスイはパーティメンバーだ、間違えるなよ。
「よし行こう」
「捕まってろよヒスイ、全速で行くからな」
足を踏み締め大地を蹴る。
洞窟に響く轟音と舞い上がる土煙と共に前進、今度は付与魔法が解除される事はなく洞窟を横断。
「すごいよアレス!!異空間にいるみたい!!」
流れる景色は速さと共に歪む。
正確な位置どりは掴めないが研ぎ澄まされた体感覚で障害物に当たる事なく進める。
流石に全速力では無いものの迷宮の奥地までものの数分で到達。
「いた!ヒースクレスト!!」
顔横から指を指すヒスイ。
その先には下級魔獣の群れの中心に鎮座する魔獣ヒースクレスト。
口からはよだれが滴り血走った目は前の血肉をみる。
どうやらこちらに気がついていない模様。
「ヒスイ、ここで待っていくれ」
ヒスイを近場の岩陰に隠し魔獣ヒースクレストと対面。
気が付かれていないなら奇襲が有効なのだが今回は付与魔法の検証も兼ねている。
全ての魔獣に圧を送り剣を抜く。
「ギャァォオオオ!!!」
獰猛な魔獣達の威嚇。
普段は集団行動などしない魔獣だが1箇所に集まっているところを見ると何か意図があるように見える。
まぁ今回は討伐、目の前にいる魔獣を倒せば任務は完了。
俺は剣を構えヒスイと出会ってから初めて魔獣との戦闘をする。
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