うらやましいか、ブタ野郎。


 美女に馬乗りで押し倒され、組み敷かれる。腕を掴まれ、退路を断たれる。

 紅潮した頬、息も荒く。甘ったるい香水が鼻を射す。

 ズボンやシャツを介して、押しつけられるは、柔らかな体重たち。容量いっぱい、彼女が埋め込まれる。置換されていく。


 四月も暮れ。ケヤキの匂いにも馴れてきた放課後の教室。


 真っ赤な唇。

 融けて、潤んで、落ちていく。

 コレは比喩じゃ無い。


 ボクは今から食べられる。。


 腕はいよいよへし折られるト確信した。死にかけのコイ。パクパクと口。呼吸をしくじり続けている。まぁ陸だからなココ。

 コチラを突き刺すは、深く鋭いエメラルド。整いこそすれその吊り目、既に正気は失せている。蝶が模したクジャクの眼。妖しく強く、深く突き刺してくるばかり。

 そんな宝玉をただ、見つめ返す。


 肩にフワリ、桜を搾った淡い長髪。右側よりチラリ、耳より大きな、藤の装飾。みずみずしい玉肌の上、頬は紅く染め上がる。細くシャドウを射した眉、ぐいトつり上がる。

 雀すら留まれぬ小さな鼻が、ヒクヒクと動く。停めようのない昂ぶりを報せる。彩度の高い唇が、ヒビとして歪に微笑んでいる。


 病的に猛った身体で迫り来る。貴女の名前は "ジョウハリ マツミ"。


 オタクどころか皆に優しく、ついでに うるさく元気よく。ハデなピアスが玉に瑕。いつもクラスの一番地。クラスのマドンナ、誰もが認める存在。

 記憶の限り洗いざらい。今、ボクを鬼気迫る表情で押し倒し、組み伏せているのは、間違いなく彼女だった。 


 眩しい額に汗が滲む。いよいよダメな音を鳴らす腕から、かすかにばかり震えが伝わる。

 

「なぁ頼むよ……ッ! 悪い話じゃネーだろ?


 聞き慣れない粗野な口に続いて、また一段と顔が近づく。迫り来る。豊満な胸が押し当てられ、ガニ股で浮いた膝上15センチからは、髪と同じ色の薄布がチラつく。

 ああ全く、全くもって。一寸先は迷宮だろう。しかしボクは紳士で、反射で目を逸らした。落ち着いて正義に従い、逸らしてみせたんだ。


「ヨソミたぁ良い度胸じゃネーか……オイ、

 聖書には無い牙をむき出しに、は虫類のように瞳孔が切り裂かれる。彼女はボクのアゴを掴んで引き寄せる。鼻息がぶつかり合う、まさしく密着と言える距離にまで近づけた。


 山嵐。怒髪天だ。

 アレだけ真っ直ぐに降りていた桜川が、ぞわぞわト音をたてて暴れ出す。片側だけ膨らんだ眼は震え、身の毛がよだつほど血走っていた。 


 しかしどうでも良かった。彼女は自分の身体が今、どれほど異性に密着しているか。気付いていないというのか。それとも、ソレすら先ほどのに比ぶれば、粗末事だとでも言うのか。


 まったく勘弁して欲しい。

 ボクは高校一年生。冴えないヲチーのギューのなにがし。貴女は同い年のクラスメイトで、ヲ童の貞サマにも慈悲深き、勘違いのボケ共量産機。最新モデルのアタッチメント付き、吸引力の変わらないただ一つのギャルなんだ。


 マズい。何がマズいかと訊かれれば――まぁ、ソレは一旦、置いておきまして。いや置くどころかバキバキに起っているんですが。


 まぁまぁ落ち着いて、まずはその事件とやらを、綴らねばならんでしょうから。

 ついでにボクめの紹介も。ええ、はい。

 まぁそう言わず。少しで良いんです。


 落ち着く時間をくだされば。。


――――――――――――――――――



 「B.I.でんせつのきょうしつ」

              

           朴綴 ねんね

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